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第63話
圭太は、十月から以前の職場に復帰できることになった。
新宿の施設に一年前に来たので、ちょうどキリも良い。
この機会に瑠季と一緒に圭太の地元の街に引っ越した。
半年が経った翌年の春、瑠季のバー『Treasure』はオープンした。
最寄り駅からも近い繁華街に良い物件が見つかったのだ。
決して広いフロアというわけではないが、落ち着いて飲める空間を目指して作り上げた。内装などには、圭太のアドバイスも加味されている。
また、圭太はSNSなどを利用して、宣伝にも努めた。
マスターである瑠季の評判は口コミで広がり、イケメンマスターとして女性客を増やした。
またそれだけでなく、時折手伝っている圭太まで『可愛い』と女性たちに人気になったのだ。
「お前もすげぇ人気だなぁ」
閉店後の店内で片付けを終えた瑠季が、カウンターの椅子に腰掛けて拗ねたように呟いた。
最後のグラスを拭き終えた圭太は思わず瑠季の方を見た。
「え?」
「女性客がお前のこと可愛いってきゃあきゃあ言ってただろ?」
「あぁ」
圭太は照れくさそうに笑った。
「僕はあまりお店には来てないけど、レアキャラみたいな感じで良くしてもらってるかな」
「なんか、マジでお前に惚れるヤツもいるのかもなぁ」
「えー?」
そう言いながらカウンター内から回って、圭太も瑠季の隣に座った。
「確かに、お前は可愛いからモテるかもな。この俺が目を光らせてるから浮気は許さないけど」
「オーバーだなぁ」
圭太はクスクスと笑った。妬いてくれるのが嬉しい気もする。
「オーバーじゃねぇよ。お前のことは信じてるけどさ、また変なのが寄ってきたら大変だ」
薄っすらと、菅野のことが頭を過ぎる。
「だからこうして時々、お前は俺のだって思い出させないとな」
瑠季は身体を近付けてキスをしてきた。
身を乗り出しながら、圭太もそれに応える。
「心配しないで大丈夫だよ。僕は瑠季さんだけって決めてるから、他には全然興味ない」
「本当か??」
「もちろん」
圭太がそういうと、口付けはますます深くなっていった。
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