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第1話
「諦めろ、あんたの恋は叶わない。」
そう言われて何も言い返せなかった。なにしろ、好きだと告げたかった本人から、告白する前にフラれてしまったのだから。
引っ込み思案で顔も頭も平凡な僕が、彼と出会ったのは高校に入学して間もない頃のことだ。彼は僕がかつあげにあっていたところを助けてくれた。
よく鍛えられた体、攻撃を避ける華麗さ、絡んできた男たちをなぎ倒す時の横顔、最初は男らしいという印象だった。しかし直後、心配気に僕を見下ろす瞳と安否を確かめる優しい声が僕の心臓を高鳴らせた。
どうにも抗えなかった。僕はそのたった一瞬のうちに彼に惚れてしまったんだ。
彼に見とれていたせいか、その後の記憶は曖昧で、あの後どうやって新しく入居する寮まで辿り着いたのかよく覚えていない。
彼とどうにかもう一度会いたくて、必死に手繰り寄せた記憶の断片。そうして思い出したのは、彼が僕と同じ高校の制服を着ていたということと、去っていく男たちが言っていた宍戸 という名前。
僕はすぐに学校にいる宍戸という名のひとを探すことにした。
僕の通う学園は幼稚園から高校まで一貫していて、通うのはお金持ちの子息ばかりだ。みんな顔も身なりも整っている。しかし、そんな中で僕はいたって平凡だ。
僕は数年前に遠縁のおじさまに養子として引き取られた。おじさまは長い間子供が出来ず悩んでいたらしく、僕を養子に取ることを決めたそうだ。
そのおじさまが大企業の社長で、周りの目や僕の教養の足りなさを考慮して、僕は高校からこの学園に通うことになった。
義父母との関係は至って良好で、こんなにいい学校に通わせてもらえるのだってとても有難いと思っている。しかし、どうにも僕には不釣り合いな気がしていた。
けれど、彼のためなら、宍戸くんと釣り合う男になるためなら頑張れる。
そう決意を固めて登校した翌日、宍戸くんは存外すぐに見つかった。
クラスメイトの美少年に聞いてみれば、宍戸くんは学園内でも大変に人気が高く、なんと親衛隊と呼ばれるファンクラブまで存在するそうだ。
男子校にも関わらず、当たり前のように存在するファンクラブに、多少の驚きを覚えつつも、少しでも宍戸くんのことを知りたかった僕は、即座に登録した。
しかしこれが大きな勘違いだった。
なんと宍戸くんは双子の兄弟だったのだ。
僕が惚れた宍戸くんは兄のふじくんで、登録したファンクラブは生徒会メンバーでもある弟のすぐりくんのものだった。
できれば、僕としてはふじくんのファンクラブに入り直したかったのたが、残念ながら親衛隊は生徒会メンバーにしか設立されないそうだ。
どうやって脱退を申し出るかも考え付かないうちに、すぐりくん親衛隊の最初のミーティングが来てしまった。しかしそこで、またも衝撃的なことがあった。
なんとふじくんはすぐりくんの親衛隊を取り仕切る隊長だったのだ。
何でも、親衛隊隊長は護衛対象との距離の近さから恨みや妬みを買いやすいため、誰かを指名して傷付けないように、すぐりくんはふじくんに隊長を依頼したのだそうだ。
これはとても幸運なことだった。
定例ミーティングでは毎回ふじくんに会えるし、あわよくばあのふじくん話とせるかもしれない。周期的に巡ってくるすぐりくんのお世話係りのときには、間近でふじくんを見られるんだ。
こんな不純な動機で些か心苦しくはあったけれど、僕はすぐりくんの親衛隊隊員を続けることにした。
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