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第31話フタリ

「うそだもの」 「…ばか」 膝を折り曲げ横向きになる僕を後ろから包むように伎乃がくっつく。 伎乃の手は僕のお腹にまわっていた。 「紗久の方が身体痛いだろ」 「…痛いよ…」 「気にしてやれなくて…ごめん」 「一緒に寝てやるの今日だけだから…」 「はーい」 「もう少し離れてっ!」 「えー!」 きゅっと伎乃の手に優しい力が入り抱きしめられる。首筋にかかる吐息がこそばゆい。 身体は痛みやだるさで動かすことがおっくうだ。 … 本当ムカつくのに…なのにこいつのことキライになれない… 伎乃の温もりのせいで眠気がすぐに襲ってくる。 …なんでこんなに…落ち着くんだ… 明日も明後日もこの家で一緒に生活するだろうこの奇妙な同居人がキライになれず、むしろ自分の心に土足で上がり込んで来ていることに戸惑う… ムカつく…本当… …もう… あぁ… …眠い… 僕の意識はすぐに飛び、ぷつりと切れてしまった。 睡魔には勝てない。 そして… 意識を手放した僕が伎乃の方に向き直り、 伎乃の胸に甘えるように抱きしめずっと朝まで眠っていたなんて露知らず… 知らぬ間にデレていたなんて当の僕は自覚なし… 伎乃が僕の行動に驚喜しニヤニヤしまくり僕の寝顔寝姿を存分に堪能していたことも、僕は当然知らないわけで… 「…本当…もうなんなのこの子…可愛すぎっ!襲いたい!」 伎乃が泣いて喜んだらしい。 しかもその日だけで終わらず、添い寝するたびにツンツンな僕は赤面するようなデレ醜態を伎乃にさらしていた訳で… それを僕が知り驚愕するのは大分先の話… うああ!! 無意識って怖い! 不思議な出会いをした僕らは、それからも奇妙な毎日を過ごしている。 ある日の学校の帰り道。 「海岸沿い近くの交差点…真夜中に出るらしいから今夜調べに行くけど、紗久も来る?」 「え!…い、イヤだ!で、出るって何が…」 「女のあれが…」 「…っ!!」 「…顔がひきつってるよ紗久。紗久幽霊見えるしさ、いると何かと便利だから」 「ゆ、幽霊…!!?」 ひいぃぃぃぃぃ!!!! 「大丈夫、俺がついてるから心配しないで」 すっと顔が近づいて来たと思ったら耳元にキスされた。 ドス! 「痛って!」 「や、やめろって言ってるだろ!幽霊調査は一人で行け!」 「えー!酷い!紗久と一緒がいい!」 「僕関係ないし!そもそもそれは伎乃の仕事だろー!」 「どうせ俺がいないと眠れないんだからいいじゃん」 「う、うるさーい!」 何だかんだで真夜中の交差点に連れていかれ絶叫するはめに… 頭にくるしムカつくけど… 一緒にいないと落ち着かない… 何だろうね… 不思議な石が二人を引き合わせた…その事を僕が知るのもまだ先の話… End

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