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第26話
HARU、爛漫☆最終章
『いたい、いたいよぉ、おかあさん、おかあさーん!!』
『うるせーな!こんなのたいしたことねーだろ!!こんなんでいちいちなくな!!おかあさんのところまでおれがつれてってやる!!』
真っ赤な顔して泣いていた小さな男の子。
その子の手を引いて、同じくらいの男の子が幼稚部の廊下を歩いていた。
……あれは、俺と明日南だ。
『春楓』
どこからか聞こえる、明日南の声。
「明日南!!」
俺はその声に応える。
すると、周りが光で包まれていったんだ……。
******************
気がつくと、俺はまた知らない天井の場所にいた。
「春楓、良かった、ずっと寝たままだったらどうしようかと思った……」
「春翔……」
俺が起き上がると、春翔は泣きながら抱きついてくる。
髪の毛は乱れてて、その綺麗な顔には殴られたような跡があった。
「春希、明日南」
ホテルの一室みたいな場所。
ふたりは俺がいるベッドにの向かい側にあるベッドに座っていて、今にも泣き出しそうな顔をしている。
春希はメガネをしていなくて、春翔と同じように顔には殴られた跡があり、タキシードはかなり汚れていた。
「明日南から全部聞いたよ。明日南、春楓の事が心配だから気がつくまで一緒にいたいっていうからついてきてもらったんだ。」
「ここは……?」
「こないだ泊まらせてもらった父の知り合いの別のホテルだよ。あ、明日南には絶対内緒って事で父の話をしたんだ」
「へぇ……」
まだ頭がぼーっとしたままだ。
でも、ふたりと明日南の間にいつもの険悪な雰囲気はない。
「あの人でなしは親御さんに連絡しておいたよ。親御さん、父の知り合いの部下だった。もう僕らの前には現れないから大丈夫」
涙の残る瞳のまま、ニコニコしながら話す春翔。
その笑顔が、さっきよりも怖いと俺は思った。
「あの、聞いて欲しい事があるんだけど…」
「ん?どうしたの?明日南」
「僕も…もう君たちの前には現れないよ。今日で君たちと会うのは最後にするから」
「……どういう事?」
明日南の言葉に、俺たちは驚く。
「海江田くんにこの計画をやろうって言われた時から、結末がどうなろうと君たちの前にはもう現れないって決めてたんだ。僕、2学期が終わったらイギリスに留学する事にしてて……だから最後にこんな風にちゃんと話が出来て良かった。今まで意地悪ばかりして……最後に取り返しのつかないような事をしてしまって……本当にごめんなさい……」
震えながら、その目に涙を滲ませながら話す明日南。
「生徒会はどうなるんだよ」
「海江田くんには言わなかったんだけど、他のメンバーに引き継ぎは済ませてあるよ。だから大丈夫。僕…忘れる事なんて出来ないけど、今までの事、全部忘れてゼロからやり直したいんだ」
「…………」
俺は返す言葉が浮かばなかった。
「春楓、そんな顔しないで。君は笑っている顔が一番素敵だよ。そうだよね?」
「う、うん……」
明日南の涙を堪えて無理矢理作った笑顔に、春翔が応える。
春希も頷いていた。
「僕がいけなかったんだ。春翔と春希がいても気にせず話しかけられなくて、間違った方向に進んでいった僕が……」
そう言って、明日南は泣きだしてしまう。
「……明日南が僕らに意地悪しなかったら、今の僕らの関係はなかったかもしれない。だから明日南がもう今日しか春楓と会わないっていうなら、この後は春楓とふたりきりで過ごせばいいんじゃないかなって僕は思ったんだけど……」
泣いている明日南をよそに、春希がそう言い出した。
「そうだね。ここは明日の昼までいられる事になっているから、僕らは明日の昼、春楓を迎えに来ようか。春楓、そうしてもいい?」
「あ……あぁ……」
「……やめて、そんな情けかけないで。忘れたいって言ったじゃないか」
「…………」
泣きながら話した明日南に、突然春希がビンタする。
結構な音がした。
「だったら春楓が気絶した段階でいなくなれば良かったんじゃない?気がつくまで一緒にいたいって言った時点で、君は春楓と少しでも一緒にいたい、自分の思いを伝えたいって思った筈だ。君の人生だからここまで言うのはお節介だと思うけど、このままいなくなって、ちゃんと自分の気持ちを整理出来るの?」
「そ……それは……」
「最後だって決めてるのなら最後に自分の気持ち、今までの分を全部、春楓にぶつければいいじゃない。春楓は絶対受け止めてくれるよ。春楓の事、ずっと見てきたなら分かるよね?」
「…………」
春希に続いて、春翔が言う。
一時の沈黙の後、明日南は頷いた。
「春希、さすがにこんな格好で帰るのはまずいから僕の家で着替えない?あ、春希って僕の服入るかな。上は少し緩めの服があるからそれでいいとして、下はウエストのところがゴムのズボン、貸してあげるね。確か何本かあるはずだから」
「春翔、笑顔で酷い事言ってる自覚ある?」
「えっ、褒め言葉だったんだけど」
「嘘でしょ。今、絶対僕の事馬鹿にした」
「羨ましいって思ってはいるけど、馬鹿にはしてないよ」
「おい、それ以上やったら揉めるからその辺にしとけ」
俺、いつもの調子のふたりに釘を刺す。
「春楓、僕の服を着た春希を見るの楽しみでしょ?良いなぁ、春希は」
「……春楓って、春希みたいな人が元々タイプなの?」
ふたりのやり取りをあ然としながら見ていた明日南が俺に聞いてくる。
「ちげーよ!!春希みたいな男らしい身体が羨ましいって思ってるだけだってば!!」
「えっ、春楓の顔で春希みたいな身体は合わないと思うよ。今の春楓でいいと思う」
「明日南、良い事言うね」
「何だよ!それ、お前ら俺がチビでいいって言ってんのと同じじゃねーか!!」
「そこまでは言ってないよ、僕はね」
明日南、涙の跡はあるけど少し落ちついてきたみたいだ。
良かった。
「春楓、明日南、お腹空いたらルームサービスで何か頼んで食べて。お金はかからないから。あと、春楓の着替え、僕のだけど明日持ってくるから今日はホテルのルームウェアでも着ててね」
明日南の様子を見て春翔も大丈夫そうだと思ったらしい。
「お、おう」
「分かった。ありがとう、春翔」
「じゃあ僕ら、行くね。また明日」
「またね」
俺たちに手を振ると、ふたりは部屋から出ていった。
「あの…、春楓、隣に座ってもいい?」
「あぁ、構わねぇけど」
向かい合って座っていた明日南が隣に来る。
その身体は小刻みに震えていた。
「寒いのか?」
「ううん、違うよ、緊張してるからかな、震えが止まらなくて」
「……しゃーねー奴だな……」
俺、ふたりにしてた時みたいに明日南の手を握る。
「わぁ……っ!!」
「あいつらが緊張してる時はいつもこうやってた」
「そうなんだ……」
「お前、手ぇ冷たい」
俺の指に絡めてきてる指は細く冷たく感じる。
「春楓の手はあったかいね」
「そうかな…」
明日南、本当はこんな風に笑う奴だったんだな。
「春翔と春希、普段あんな感じなんだね」
「あぁ、喧嘩すんなって何回言ったか分かんねぇ」
「なんか…信じられなかったよ…」
俺は今、目の前で屈託なく笑ってるお前の姿が信じらんねぇよ、明日南。
俺たちの前でどれだけ自分を偽ってきたんだ。
「春希が身長伸びた時、すごい怖い人になったって思ったんだ。声も低くなったから、小人が巨人に変身したみたいだったじゃない」
「あははっ、なにその表現!!めちゃくちゃウケるんだけど」
俺、おかしくて大爆笑する。
「そう?僕の話でそんなに笑ってくれるの、すごく嬉しいよ……」
「だってお前の今の話、めちゃくちゃウケるから…」
目が合うと、明日南が俺の手を強く握ってくる。
「その笑顔を独り占めできて、今すごく幸せだよ」
「明日南……」
明日南が手を離して俺に近づこうとした時、俺のスマホが鳴る。
春翔からだった。
「春楓?今日の事なんだけど、春楓は会場で久しぶりに会った他校のサッカー部の友達と盛り上がってその子の家に泊まりに行って、次の日春希と僕と遊んでから帰るっていう事でおばさんに連絡してね。タキシードは明日僕の服に着替えた後、クリーニングに出そう」
「あ、あぁ、分かった」
「後の諸々の事は心配しないで。こっちで何とかなりそうだから。あっ、明日南に代わって」
「おう」
春翔に言われて、俺は明日南にスマホを渡す。
「春翔がお前に話があるって」
「えっ、何かな」
明日南はスマホを受け取ると、話し始める。
「もしもし、明日南だけど」
わりとハッキリ聞こえてくる春翔の声。
「あぁ、明日南?親御さんに今日泊まる事、ちゃんと連絡してね。春楓とはHして欲しくないけど、そういう雰囲気になったらそれは仕方ないから一夜限りって事で許してあげる。春希も了承済みだから」
「は……?その言い方、君たち随分偉そうじゃない?すごい自信あるんだね。それでもし春楓が僕の方が好きになっちゃったらどうするつもりなの?」
春翔の言葉に笑いながら話す明日南。
てか春翔、何訳分かんねぇ事言ってんだろ。
「そんな事、絶対ないね。春楓、僕らとのHじゃないと満足できないから」
「おい、春翔!何を明日南に言ってんだよ!!」
俺、慌てて明日南から電話を奪う。
「おかしくないよ、本当の事じゃない。春楓、僕らは明日南だから許してあげる事にしたんだよ。僕らが春楓に先に声をかけていたら、今の明日南になっていたかもしれないって思ったから。他の人にはこんな事言わないよ」
なんか、妙に説得力があるように感じられたのは気のせいだろうか。
って、そう思う俺がおかしいのか?
「春楓、スマホ貸して」
「お、おう」
明日南に言われて俺はスマホを渡す。
「ありがとう、じゃあお言葉に甘えるかも。確かに僕は春楓の事が好きだけど、学校で女装してHする勇気はないから君たちには勝てないかもなぁ……」
「明日南、お前もかよ!!」
ニコニコしながら春翔レベルにぶっ飛んだ事を言い返す明日南。
あの動画、どこまで見たんだろ。
見られた事を考えると急に恥ずかしくなってくる。
「ふふっ、春楓もスイッチ入ったら結構ノリノリだからね。気をつけた方がいいよ」
「ご忠告ありがとう。じゃあ……」
明日南が通話を切って俺にスマホを返してくる。
……春翔、気をつけた方がいいってどういう事だよ。
お前らと一緒にすんなっつーの。
「……春楓、大変だね。ふたりも相手にしてるなんて。海江田くんも君たちが仲が良くて僕と対立関係にある事までは調べてたみたいだけど身体の関係まであるとは知らなかったみたいで、最初に僕に動画を見せてきた時、すごく驚きながらだったよ。僕もそんな事になってるなんて思ってもみなかったからびっくりした」
「そうだったんだ、俺、てっきり全部調べられてたのかと思った」
「春楓が思うより周りは気づいていないよ?でも、これからは学校でHはしない方がいいんじゃない?海江田くんみたいな人に見られたら大変だよ?」
「そう……だよな……」
あいつら、どのタイミングで暴走するか分かんねぇけど、今度はちゃんと止めねぇと。
「春楓、優しいから流されちゃうんでしょ?気をつけなきゃダメだからね」
そう言って、明日南は俺の頬に手を添える。
「明日南……?」
「ほら、早く止めなきゃ。僕……止めなきゃ春楓の事、抱いちゃうよ…?…」
「お……おい、ちょっと待て……」
ベッドに倒され、額にキスをされた後、唇にもキスをされる。
「待ったらいいの?春楓、誰にでも尻尾振っちゃダメじゃない」
よく知ってるようで知らない顔と声の明日南。
俺の事、からかってんのか?
それとも……。
「……なんてね。悪いけど僕、お風呂入りたいから入ってもいい?」
「お…おう……」
俺の頭を撫でると、明日南は立ち上がってバスルームがあるらしい方に歩いていき、しばらくするとシャワーを浴びる音がし始めた。
……何だよ、もう。
めちゃくちゃびっくりした。
「…………」
飛び起きて、近くにあった鏡を見る。
髪は乱れまくってて、顔は春翔がしてくれたメイクが泣いたから完全に落ちてて、唇の端には海江田に殴られた時に出来たっぽい傷があった。
そうだ、母親に連絡しねぇと。
俺は慌ててスマホを開くと春翔に言われた通りの話を母親にした。
母親は疑う事なく、気をつけて帰って来なさいと言って話は終わった。
俺のタキシードもかなり汚れていて、とてもこのまま帰る事なんか出来なさそうになってた。
とりあえず着替えようと思ってタキシードを脱いでハンガーに掛けてクローゼットにしまうと、部屋にあったガウンに着替える。
そうやって歩き回ってるうちに、俺は下着がべちゃべちゃで気持ち悪い事に気づいた。
これだけ洗ってドライヤーで乾かそうかな。
そう思って明日南が向かった方向に行き、そこにあったドアを開けると、全裸の明日南がいた。
「わぁっ!!」
「え?何?いきなりドア開けて叫ぶなんて失礼じゃない?」
「あ…悪ぃ……」
「どうしたの?お風呂入ろうと思ったとか?」
「う……うん、そう……」
「そうなんだ。掛け流しで気持ち良かったよ。僕、のぼせやすいからあまりゆっくり入らなかったけど」
明日南、全裸見られても平気なんだな。
俺が意識し過ぎなだけか。
クソっ、そうなったのも春翔のせいだ。
あいつがエロい事言うから変に意識しちまう。
明日南はあいつらよりは普通……のはずだ。
「春楓、大丈夫?顔紅いけど」
「お、おう!大丈夫だ!!」
「……そう。ならいいけど」
クスっと笑ったその顔は、よく知ってる顔に似ていた。
******************
それからひとりで風呂に入って、風呂の中でこっそり下着も洗って、髪の毛を乾かすようにドライヤーで乾かそうとしたけどなかなか乾かなくて悪戦苦闘してると、明日南が換気扇を回した浴室で一晩乾かせばいいと教えてくれたからそうしていた。
一晩下着なしは恥ずかしいけど、あの下着を履くのは嫌だった。
「お前、すごい事知ってるな」
ルームサービスのメニューを見て選んだ料理を食べながら話す俺たち。
「ん、まぁね。僕の相手になった人たちがやってたんだ」
「相手になった人たち?」
「春楓んちはないのかな?僕の家は僕が跡継ぎだから結構早い段階で性行為について教える人がいてさ……」
「は?そんなんいねーよ!!」
サラッととんでもない話をする明日南に、びっくりして食べていた唐揚げを落としそうになる。
「そうなんだ。うちだけなのかな。春希んちとかありそうだけど」
「聞いた事ねぇわ、んな話」
「ふうん、そうなんだ。羨ましいな。僕は何がなんだか分からないうちにそういう行為を覚えてしまったから、君たちみたいにイキイキしてHしてるのって素敵な事だと思うよ」
イキイキしてるって。
スゲー恥ずかしいんだけど。
「本当に好きな人とする行為だって、誰も僕に教えてくれなかった。この先もきっと、僕にとっては子孫を残す為の行為でしかないんだと思う」
そう話す明日南は、悲しそうな瞳をしているように見えた。
「ごめんね、僕の話なんてどうでもいいよね。変な話しちゃったね」
「いや、別にいいんだけどさ。それ、今でも続いてんの?」
「ううん、嫌だったから最近もう大丈夫って父親に話して止めてもらった。でも、代わりに僕が向こうに行ってる間に結婚相手を決めとくって言われたんだ」
「……大変だな」
暗い顔をしている明日南に何て言っていいか分からなくて、そんな言葉しかかけられなかった。
「春楓、最後にひとつだけお願いしてもいい?」
「あぁ、俺に出来る事ならだけど……」
「あのね……」
その日の夜、俺は明日南に頼まれて、明日南を抱きしめながら眠った。
ずっと俺にそうして欲しかったって明日南に言われて、それで少しでもあいつの気持ちが晴れるならって思った。
「ありがとう、春楓。最後に素敵な思い出を僕にくれて」
翌朝、明日南は春翔たちが来るよりも早く部屋を出ていった。
「身体に気をつけろよ」
「うん、春楓もね」
最後まで、明日南は笑顔だった。
春翔たちは俺が連絡したからかそれからすぐに来て、俺は春翔が用意してくれた白と黒のチェックのボタンシャツとカーキ色のパンツに着替えた。
ふたりは昨日よりはマシだけど、まだ顔に残る怪我した跡が痛々しかった。
「うん、やっぱり春楓には僕の7分丈のパンツでちょうど良かったね」
「春翔、それ聞きたくなかった」
「あっ、ごめんね」
悪気ないんだろうけど、地味に傷ついたぞ、春翔。
「春楓、僕、変じゃない?メガネ壊れちゃって治るまでコンタクトになっちゃったんだけど…」
その横でオロオロしている春希。
春翔がチョイスした服は普段春希が着る事がない赤色が差し色で入った黒の重ね着に黒のワイドパンツがいつもと違う雰囲気を出してたんだけど、トップスはそのガタイのせいでぴったりめで、その身体にドキッとさせられる。
「べ……別に変じゃねぇって」
「ホント?コンタクト初めてだからすごく違和感あって……」
俺を見下ろすその表情はメガネをしてなかった頃を思い出させて愛らしく感じた。
こんな顔してこの図体って俺的には反則すぎる。
「……はぁ、やっぱり春楓、春希見てドキドキしてる……」
そんな俺を見てつまらなそうに言う春翔。
濃い緑色のロングシャツの上にカーキの短いブルゾン、黒のパンツのオシャレな格好は春翔だから似合ってると思うんだけど、俺のせいでそれどころじゃないらしい。
「あのなぁ……」
「いいよ、もう。今から春楓の事、僕がもっとドキドキさせるから」
「お…おい、ちょっ……!!」
宥めようとした俺をベッドに倒しながら、春翔は啄むようなキスをする。
俺の背中に腕を回して、わざと音を立ててくるそのキスに、俺はドキドキさせられた。
「……可愛い、その顔……」
優しく笑いながら、春翔は俺の殴られた跡に触れる。
「明日南から殴られてたって聞いた時、すごく悲しかった。春楓を絶対守るって言っておきながらこんな傷を作らせちゃった。……ごめんね……」
「それは……俺もだから……」
俺も春翔の殴られた跡に手を伸ばす。
「お前も、春希も、俺のためにこんな……怪我するまで頑張ってくれたんだよな。なのに……俺は……」
何も出来なかった。
その悔しさが込み上げてきて、涙が出た。
「俺は……誰も守れなかった。お前らの事も、明日南の事も……」
「春楓……」
一度溢れた涙はなかなか止まらなくて、俺は春翔に抱きついて泣いてしまってた。
「……春翔、ちょっといい?」
「なに……?」
春希の声がして、春翔が俺から離れる。
「春楓、忘れちゃえばいいんだよ。昨日あった事全部」
「え……?」
俺の額に自分のをくっつけながら、春希は言った。
「昨日、僕らはクリスマスコンサートに参加して楽しく過ごした。それ以外は何もなかったんだ」
「春希……」
俺の頭を撫でる優しい手。
「けど……」
「……忘れられない、っていうなら僕が忘れさせてあげる」
「はる……んん……っ……!」
頭を撫でていた手が耳を撫で、首筋へと移動していく。
くすぐったいようで、ゾクゾクした。
「や……っあ……」
首筋に唇を寄せた春希はいつもより強く噛み付いて、すごく痛かった。
「っ、春希、痛ぇって!」
「うん、痛くした」
「春希、何するんだよ、春楓に痛い思いさせるなんて」
春翔が俺の頭の上の方に座って春希を止めようとする。
「僕に痛い思いをさせられたっていう記憶だけが残ればいい。春楓は何も悪くないんだから」
「春希……」
シャツのボタンを外して中に着ていたタンクトップを捲る春希の手。
「うぅ……っ……!!」
俺の胸元をさらけ出すと、春希はまた痛いくらいに噛み付いてきた。
「やめろよ、春希。血が出てる」
「……春楓、これで忘れられるよね?今日以上に辛かった事なんかないって思えるよね?」
目を潤ませながら、春希が尋ねてくる。
「……あぁ、そうだな。発表会の後、3人でいつもみたいに過ごしたら春希がキスマークつけるの失敗して痛かった……っていう日だな……」
春希を見ていたらまた涙が溢れた。
「ごめんね、春楓。痛くて涙が出ちゃうくらいだったんだね……」
涙を舌で拭ってくれた後、春希はキスしてくれた。
俺は自分から舌を絡めて、その行為に夢中になっていった。
「んん……っ、ふぁ……っ……」
いやらしい水音を立てながら、息をするのも苦しいくらいに春希を求めた。
「春楓、そんなにいやらしいキスされたら僕、口でして欲しくなっちゃうよ…?…」
唇が離れると、春希が少しだけ呼吸を荒くしながら言う。
「は……っ、春希、まって……、春翔ともキスしたい。それから……俺はお前らと休みだからってめちゃくちゃ盛り上がってエロい事いっぱいして、それで1日が終わるんだ……」
そんな日だったって事にしたい。
いや、そんな日だったって事にするんだ。
そしたら、春希も春翔も自分を責める事もないんだから。
「春楓……そんな誘い方してくるなんて……どうなっても知らないよ……?」
春翔が色っぽい表情を浮かべて俺を見て、キスしてくる。
「んっ、んふ……ぅっ……」
春翔と舌を絡めあっていると、春希が俺の履いている衣服を全部脱がして俺のシンボルに触れる。
「ふぁ……っ、あぁっ……」
その大きな手に包まれて、すぐにソコは熱を持っていた。
「春楓の身体……僕に早く触ってって言ってるみたい……」
耳元でそう囁かれて、噛み付いたところを舐められる。
「春楓、僕らに触られたらすぐ気持ち良くなっちゃうからね……」
「あぅ……っ、はるき、いきなりそんな……あぁ……ッ……!!」
手で扱かれながら、発射口を舌でくすぐられるように触れられると、すぐにイッてしまう。
「ふふっ、もう出ちゃったんだね、そんなに気持ち良かったの……?」
「あぁっ、う……んん……っ……!」
春希が身体に飛び散った精を舐めて、それも気持ち良くて身体が震えた。
「春楓、今日何回イけるかな?今までの最高記録、5回だった筈」
「えっ、僕は6回イかせられたけど。春希より僕の方が気持ち良くさせられてるって事だね」
そこに春翔が入ってきて、ふたりでイッたばかりのモノを舐めてくる。
「や……んんっ、またすぐイッちゃう……っ!」
「春翔に負けてるなんて嫌だ。僕、今日6回イかせてみせる」
「春希、僕の事は春楓の次だけど大切な存在だって思いたいって話、どうなったの?」
「それとこれとは別」
またくだらないコト言い合ってるな、ふたりで。
俺は春翔の手で扱かれて、春希の指と唇で乳首を弄られて突っ込む事も出来なくなってんのに。
「あぁっ、も…でる……っ……!!」
春翔に口で包まれた瞬間、俺は呆気なく2度目の絶頂を迎えていた。
「今日は夜までここにいられるからそれまでいっぱいしようね、春楓」
俺のを飲み干すと、春翔が笑顔を見せる。
「え……昼までじゃなかったのか……?」
ぼーっとした頭で春翔に尋ねる俺。
「明日南に早く帰って欲しかったから嘘ついちゃった。明日南も空気読んで早く帰ってくれて良かったよ」
そう言って、春翔は着ている服を脱いでいく。
白い綺麗な肌には数カ所痣が出来ていた。
「お前、それ……」
「あぁ、これ?すぐ消えるから大丈夫だよ。それより今は春楓のHで可愛い姿、たくさん見たいな」
そう言って、春翔は俺がふたりを受け入れてる部分に触れる。
「んん……ッ……!」
転んだだけで大泣きしてた春翔が、痣を作りながらも俺を助けてくれて、今はこんなエロい事をしてるなんて思ったら、スゲー興奮しちまってた。
「あぁ、もうすんなり指が挿っちゃったよ、春楓」
「や……あぁっ、そんなに動かすな……うぅっ……!!」
春翔の指が抽挿を繰り返し始めると、そこに別の指……春希の指まで挿ってくる。
「気持ち良さそうだね、春楓。でも、もっと気持ち良くなりたいでしょ……?」
「はぁ……あぅっ、あぁ……っ!!」
春希の甘い声で囁かれてその指がイイトコロに当たると、俺はまたイッてしまった。
「ふふっ、春楓もう3回イッちゃったね。夜までまだまだ時間あるのに、絶対記録更新しちゃうよね」
嬉しそうに話す春希。
可愛らしい声でニコニコしながら話してたのに、今じゃ俺より低くてゾクゾクさせるような声色になったりするなんて。
大好きだ。
ふたりとも、俺にとってかけがえのない存在だ。
「なぁ……分かってんだろ……、どっちでもいいから早く……」
挿れてくれよ。
恥ずかしかったけど、俺はそう懇願してた。
「春希、どうする?」
「いいよ、春翔が先でも。僕まだ服脱いでないし、考えてる事があるから」
「ありがとう。じゃあ僕が挿れてあげるね、春楓」
既に堅くなっている春翔のが入口に触れると、すぐに挿ってくる。
「うぅっ、あぁぁっ……!!」
奥まで一気に挿ってこられて、大きい声が出ちまってた。
「はぁ……っ、春楓の中、すごいヒクヒクして気持ちいいよ……っ……」
「や……っ、はると……おく……気持ちいい……ッ……!!」
春翔の膝の上に乗って抱き合うように繋がると、その熱さと堅さに身体が熱くなる感じがする。
「…………」
その時、背後に春希が来て、春翔と繋がっているところに指を挿入してきた。
「んん……っ、はるき、なにして……」
「……慣らしたら僕のも挿らないかなって思って」
「や……むり……っ、そんな……あうぅっ……!!」
春翔のだけでも気持ちいいのに、春希の指が挿ってきてナカで動かれると身体がびりびりした。
「えっ、春希もそんな事考えてたんだね。僕もいつか試したいって思ってたよ……」
息を上げ、腰を動かしながら、春翔が言った。
「こんなに濡れてるんだから大丈夫そうじゃない?いいよね、春楓……」
「だ……ダメ……っ、絶対む……り……」
引き抜かれた指の代わりに、それよりもっと太い春希のが俺のナカに挿ってこようとしてる。
「ひ……っ、うぅっ、ゔぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙っ……!!」
「すごい、春楓、僕のも受け入れてくれてるよ……?」
背後から覆いかぶさってくる春希が、俺の耳にしゃぶりつきながら腰を進めていく。
無理だろ、こんなの。
そう思ってるのに、春希は止まってくれない。
少しずつ、でも確実に、俺のナカに挿ってきた。
「あぁ……っ、腹……くるしい……ッ」
ものすごい圧迫感が襲う。
でも、痛みは初めての時よりなかったんだ。
むしろふたりのが俺のナカでドクドクしてるのが興奮して、それがイイって思っちまって。
「春楓、さっきよりもすごい締めてきてる……っ」
「全部挿っちゃったからだね、きっと……」
春希のが収まると、春翔が止めていた腰の動きを再び動かす。
その綺麗な顔が快感で歪むのを見ると、胸がキュンとした。
「これ……っ、すごく気持ちいいね……」
春希も後ろから腰を動かしてきて、耳元で囁かれるその気持ち良さそうに話す声と吐息がエロい。
「んんっ、僕もうヤバい……」
「僕も……っ……」
「春楓も一緒にイこうね……っ……」
そう言って、春翔が俺のを握ってくる。
「あぁっ、イクっ、イッちゃう……うぅッ……!!」
その快感に、頭がくらくらした。
出たのかどうか分からないけど同じような感覚はあって、それからすぐにふたりがイッたのか腹の中でふたつの脈動を俺は感じたんだ……。
******************
ふたり同時に挿れられたのは良かったんだけど身体にはかなり負担がかかったみたいで、俺はしばらくふたりの助けなしには動けなくなってた。
帰りも春希におんぶしてもらって帰って、途中で熱が出たからという事で母親には怒られたけど、なんとか誤魔化せた。
『ごめんね、春楓。でも気持ち良かったよね?またしようね』
春希からそんなメッセージがベッドに入ってすぐに来て、俺は返信しようと思ったんだけど、スマホを握ったまま眠っちまってた。
翌日の終業式には何とか参加したけど、そこに海江田はもちろん、明日南の姿もなかった。
海江田は家の事情で転校、明日南は留学する為転入するという話が全校朝礼で話されて、体育館内にはそれを惜しむ女の子たちの泣き声があちこちから聞こえた。
「明日南とはまたどこかで会えそうな気がするよ。その時は今までみたいな関係じゃなく、友達になれたらいいな」
「そうだな」
「春楓、結局明日南とはセックスしたの?」
終業式を終えると、俺たちは春翔んちで買ってきたコンビニ弁当を食べながら話をしていた。
「してねぇよ。あいつ、Hに対してあんまりいいイメージないって話してたし」
春希が突然言い出したからビックリしたけど、俺は言葉を返す。
「ふうん、可哀想だね。もしかしてすごく下手とか言われた事あるのかもしれないね」
「どうだろうな……」
春翔の言葉に、俺はあまり明日南の事を話すとふたりがヤキモチを妬きそうだと思いこれ以上話すのはやめようと思った。
「それよりもさ、今後の話しようぜ。このまままっすぐ大学部行くのか、別の大学受けるのか」
「そうだね。今日はそれで集まったから、ちゃんと話し合おう。……僕らの未来の為に」
「うん、僕調べてきたんだけど……」
時の流れとともに色んな事が起きて、色んな事が変わっていったけど、変わらない、変えないでいこうと決めた事がひとつだけある。
それは、俺たちはずっと一緒に生きていく、という事だ。
ふたりが俺の知らないところで頑張ってきてくれた分、俺も少しでも返せたら。
そんな思いを俺は胸に抱いて、ふたりに助けてもらいながらだけど、嫌がってきた勉強を頑張る事にした。
全ては、3人でいる未来の為だった。
******************
月日は流れ。
「春楓、僕、変じゃない?大丈夫?」
「大丈夫だって!ホラ、指輪するの忘れるなよ」
リビングの目立つ位置にあるアクセサリートレーに置かれた金色の指輪を、俺は春希の左手薬指に嵌める。
3人で暮らし始めた時に春翔のキックボクシング仲間の谷浜さんがお祝いとしてプレゼントしてくれた指輪。
俺たちにとっての結婚指輪だ。
「あっ、そうだったね、ありがとう、春楓」
春希は嬉しそうに笑って俺の額にキスをする。
俺が高校卒業するまでに2センチしか伸びなくて170センチにもなれなかったのに対し、春希は10センチも伸びてとうとう190センチまで大きくなっていた。
「春楓、春希、行くよ」
「おう!」
そこに春翔が来て声をかけてくれる。
春翔もあれから少し伸びて、俺とは20センチ差の身長になっていた。
20歳になった時、ようやく監視される事もなくなったけど、相変わらず声をかけてくる女の子には優しく対応してて春希に文句を言われる事もしばしば……だ。
俺と春翔が先に就職して、それから2年過ぎた今年、大学院を卒業した春希が就職した。
俺たちは大学時代からずっとバイトして貯めたお金を頭金にして、俺と春翔が卒業した時、職場のすぐ裏の空き地を買って一軒家を建て、3人で暮らし始めてた。
春翔の親父さんが就職のお祝いとか言ってマンションを職場の近くに建ててくれて春翔の名義にしてくれたんだけど、春翔はそこを人に貸して家賃を家のローン返済に充てている。
俺たちは土地を購入した時点で3人で生きていく話を親達に話し、春希は親父さんが猛反対して半ば勘当状態になってしまったけど、おばさんがたまに春希に電話をかけてきてた。
俺も母親に泣かれたけど、最終的には父親の説得もあって今の暮らしを認めてもらってた。
春翔んちも親父さんの理解があったお陰でおばさんは渋々受け入れてくれたらしい。
で、今日が春希の初勤務の日で、俺たちは同じ職場で働く事になっていた。
「みなさん、おはようございます!今日はみなさんに、新しい先生を紹介します!!あかぎはるき先生です!!」
ホールに子供たちを集めて行う朝礼。
俺は年長児の子たちの担任を務め、春翔は年中児の子たちの担任を務めていた。
園長の新庄さんに春希を紹介された子供たちは可愛らしいキャラクターのエプロンをしているものの、めちゃくちゃデカい春希に驚いている様だった。
「おはようございます、今日からみなさんと一緒に楽しく過ごしたいと思っています。僕の事は、はるき先生と呼んで仲良くして下さい、よろしくお願い致します」
ぷぷぷ、春希、めちゃくちゃ緊張して猫背になってる。
この言葉、昨日ずっと練習してた春希がすげー可愛かったんだ。
「はるき先生は、はるか先生、はると先生とお友達なのでみなさんもすぐに仲良くなれますよ。そして何と、はるき先生はみなさんにピアノの曲のプレゼントを用意してくれているみたいです」
「はい、みなさんと早く仲良くなりたくてたくさん練習してきました。今からみなさんが大好きな曲だとはるか先生から聞いた曲を弾きますので、曲に合わせて一緒に歌って下さい」
そう言って春希はステージから降りると、すぐ横にあったピアノを弾き始める。
いつもの力強いタッチを軽やかなものに変えて『犬のおまわりさん』を弾く春希。
子供たちは喜んで大きな声で歌い始めた。
俺たちは話し合った結果、新庄さんの誘いに応え、幼稚園の先生になっていた。
新庄さんは俺たちの為にそれまで音楽教室として経営していた施設を幼稚園に変えてくれた。
幼稚園は音楽教育に特化した小規模の私立幼稚園として、給食やバス送迎がなくて親御さんにとって負担が大きいはずなのに毎年ものすごい競争率になっていたりする。
俺は新庄さんにサッカーも教えていいって言われてたから、運動の時間ではサッカーをして子供たちと楽しく過ごしていた。
春翔はその見た目だけでなく指導力もあるからお母さんたちからの人気が絶大で、毎年バレンタインには女の子たちのお母さんだけでなく男の子のお母さんからもお菓子をもらい、中にはラブレターまで入っている時もあったりする。
先生になってまだ2年。
失敗する事もあるけど、ふたりが一緒だから毎日が楽しくて、幸せだ。
春希も一緒に働ける事になって、ますます楽しくなりそうだ。
子供たちと一緒に歌いながら、俺はそんな事を思っていた。
おしまい!!
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