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第25話
HARU、爛漫☆第13楽章『聖なる夜に』
修学旅行の一件から、海江田と俺たちは親しくなり、たまに食堂で昼飯を食べる事もあった。
「僕は味噌ラーメンが好きです」
「俺は塩かな」
多少の疑念はあったけど、俺たちの中で海江田は明日南よりは危険じゃないっていう存在に変わっていて、最初に感じた嫌な雰囲気も最近は全く感じなかった。
明日南は他の取り巻きと行動していて、海江田の事は完全に無視している様子だった。
「僕、明日南くんに嫌われてしまったみたいです。お友達になりたかったんですが、残念です」
そんな話もするようになって、俺は何か困った事があったら俺たちが助けるから、という話までしてた。
「ありがとうございます、黄嶋くん。あなたは本当に優しい方ですね」
でもたまに、こいつの笑顔が不気味に感じる時があった。
ココロから笑っていない笑顔に見えたんだ。
******************
11月に入ると、俺はサッカーの練習試合とクリスマスコンサートに向けての練習に明け暮れ、テストの事を忘れそうになったけど、ふたりが勉強を見てくれた事もあって赤点は免れていた。
クリスマスコンサートではまた3人でピアノを、クリスマスソングをジャズっぽく弾く事にして、弾いている間にポジションを変えていくっていう事にチャレンジする事に決めてやってたりする。
クリスマスコンサートは教室独自のなんだけど、市内ではわりと広めのホールを貸し切り、チケットさえあれば誰でも入場できる事になっていてポスターやネットでの告知もされてるから、毎年春希や春翔のファンが発表会同様大勢来てて、受付にはクリスマスプレゼントまで届いていた。
「クリスマスだから今年も白いタキシードにする?」
「別にいいけど、あれ似合うの春翔だけじゃね?」
「春楓も似合ってるよ。僕、白を着ると余計に身体が大きく見えて恥ずかしい」
練習の合間に衣装の話が出る。
いつからか忘れたけど、俺たちのクリスマスコンサートの時の衣装は全員、白いタキシードになっていた。
「春希が思う程目立ってないと思うよ」
「そうそう!学校の制服着てるのと同じだって!!」
確かに白を着てる春希はいつもに増して迫力ある感じに見える。
でも、それ言ったら春希が嫌だって言い出しそうだから俺は言わなかった。
「……分かった。新しく買う事にしたらしたで親たちに相談したりしなきゃいけなくなるから、去年と同じでいいよ」
「じゃあ今年も白いタキシードって事で頑張ろう」
「あぁ!!」
「うん」
試合も楽しみだったけど、コンサートも楽しみで、それが終わったら冬休みがやって来る。
年が明けてすぐに学校が始まり、その頃には進路に向けて動きださなきゃいけない。
そのまま大学部に進むか、違う進路を行くか。
俺たちは冬休み、3人で話し合って決める事にしていた。
******************
あっという間に12月が来た。
サッカーの方は今年最後の大会で、今のチームになってから初めて地区大会だけど優勝する事が出来た。
今までなかなか結果が出せていなかったし、今回の大会には春希と春翔だけじゃなくて大学部の内部進学試験を終えた黒澤先輩と白川先輩、受験を終えて無事に美容師の専門学校に合格した灰田先輩が応援に来てくれてたからすごく嬉しかったんだ。
そして、迎えたクリスマスコンサートの日。
春翔がコンサートの少し前に全員のヘアメイクをしたいって言い出したので、俺たちは春翔の家に集合してから会場に向かう事になってた。
「学校祭でメイクしたのが結構楽しかったから、またやりたいなって思ってたんだ」
「…僕は要らないと思うんだけど…」
乗り気じゃない春希を鏡の前に座らせてメガネを外させると嬉しそうにしながら春希の顔にメイクをしていく春翔。
こんな光景、スゲーレアだなって思って、俺はスマホで撮影していた。
「えっ、春楓、写真撮ってる?」
「おう」
「そんな事しなくていいのに」
「お前だって勝手に俺の写真撮ってるんだからいいだろ」
「それは…そうだけど……」
目を閉じてる春希自体がすごくレアで、俺がスマホで撮影してる事や春翔の行動に少し戸惑っている感じが可愛らしくて笑えてくる。
「春希、ちょっとメガネかけて」
「分かった」
目の端に金色のキラキラする粉をつけられてた春希。
メガネをかけても目立つかどうか、春翔は知りたい様子だった。
「お、いいんじゃね?悪目立ちしてねぇし」
「……そう……かな。変に顔だけ明るくない?」
メガネをかけてもそのキラキラは見えるようになってて、春希の表情はいつものままだけど、メイクをしてる事で明るく見えた。
「ステージに立つからこれくらいでいいと思うけど」
「春希、コンサートに出る人って感じがして似合ってるぞ」
「そう……?春楓がそう言ってくれるな
らいいけど…」
不安そうではあったけど、春希は俺たちの言葉に納得した様だ。
「じゃあ春希の髪型セットしたら春楓のやるからね」
「あぁ!任せたからな、春翔」
「うん!!」
こうして、俺は春翔にヘアメイクをしてもらっていつもとは少し違う雰囲気でコンサート会場に向かったんだ。
******************
クリスマスコンサートは今年もかなりの人が会場に入っていた。
俺たちは前半の最後を任され、ミスもなく楽しく弾き終える事が出来たんだけど、俺は気になった事がひとつだけあった。
それは、会場に明日南らしい姿を見つけた、という事だった。
ステージに上がって観客に一礼をして顔を上げた時、出入口のドアのところにスーツを着た、明日南そっくりの男が立っていた……気がする。
曲が終わった時にはもういなくて確認出来なかったんだけど、明日南だとしたら何故ここに来たんだろう。
あれから廊下で顔を合わせてもいつも通り嫌味ばかり言ってたあいつが俺たちを見に来てるとは思えないし、他に出てる知り合いがいたのか、人違いだったんだろうか。
「俺、ちょっとトイレ」
休憩時間、そんな事を考えながらトイレに向かった。
用を足し、手を洗っていると、周りに真っ黒いサングラスをかけ、真っ黒いスーツを着た男たちが4人いた。
「こいつだよな」
「あぁ、間違いない」
「な……何だよ!!」
囲まれた、って思った時には遅かった。
俺は通電する何らかの装置を当てられ、意識を失った。
「うぅ……っ……」
どのくらい気を失ったのか分からない。目を開くと、視線の先にはイスに座ったスーツ姿の明日南がいた。
「明日南、お前……っ……!!」
動こうとしたけど、身体をイスに縛り付けられていて動けなくさせられていた。
周りを見回すと白い天井と壁があり、床はフローリングになっていた。
どこかの建物の一室にいるようだ。
「……手荒な真似をして済まない。でも、こうするしかなかったんだ……」
「ふざけんな!こんなコトしてどういうつもりだ!!」
「……君を奪おうと思ったんだ。あの憎いふたりから」
今までに見た事のない暗い表情をしながら、明日南は俺に自分のスマホを見せてくる。
「……!!」
そこには、学祭の時の俺と春翔の姿が、衣装を着たままHしてる姿があった。
大音量で音まで流され、俺は言葉を失った。
「君がここまで淫乱になっていたなんて驚いたよ。春希とも学校で淫らな行為をしていたそうじゃないか」
明日南の声は震えていた。
怒っているのか、悲しんでいるのか。
そのどちらにもとれるような声だった。
「君はずっと、気高くまっすぐで清らかだった。僕はずっとそう思ってきた。それなのにあのふたり、春翔と春希は僕と君との間に入って邪魔をするばかりか君をこんな風にしてしまった……」
「お、おい、お前何言って……」
前に話していた事と違うじゃねぇか。
あの時、明日南はふたりがおかしくなったのは俺のせいだとか言ってたのに。
まさか。
まさかだよな。
『明日南、春楓の事、もしかして好きなんじゃないかな』
そう言った春翔の言葉が頭を過ぎり、心臓がドキドキしていくのが分かった。
「黄嶋くん……いや、春楓、小さい頃からずっと、君の事が好きだ」
「……!!」
俺の目線に合わせて、明日南は涙を滲ませながらまっすぐな瞳で俺を見つめて言った。
その言葉に、俺は思い切りぶん殴られたような衝撃を受けた。
「幼稚部の入試の後、廊下で転んで泣き出した僕を君は慰めてくれて、親たちのところまで連れて行ってくれた。その時からずっと、君だけを見てきたんだ。でも、君はいつの間にかあのふたりと親しくなってて、僕の事なんか覚えていなかった。どうしたら僕の事を覚えてくれるんだろう、そう思って僕は……ふたりに意地悪をして、君に僕の事を覚えてもらう事にしたんだ」
悲しそうに話す明日南。
けど、俺は許せなかった。
「お前、そんなの間違ってるだろ!!それで春希や春翔がどれだけ傷ついてきたのか分かってんのか?」
「間違ってるなんて分かってたよ!!でも、君はそうでもしなければ僕を見てくれなかったじゃないか!!」
俺が声を荒らげて睨みながら言うと、明日南は泣きながら俺の胸倉を掴んでくる。
「僕だって君と普通に仲良くしたかった。ふたりに見せてくれるような笑顔を僕にも見せて欲しかった。でも……ふたりが僕から君を奪った。だから僕もふたりから君を奪う」
そう言って、明日南は涙を拭うとポケットから栄養ドリンクみたいな瓶を取り出した。
「春楓、さっき見せた君と春翔とのいかがわしい動画、僕の父親に見せたらどうなるかな。君たちが退学させられるだけじゃなく、君や春翔の家族は君たちのせいでその名前に傷がつくんじゃない?……そうされたくなかったら大人しく僕の言う事を聞くんだ」
その声はいつもの嫌味たっぷりという感じではなく、悲しみに包まれ、どこまでも冷たい感じがした。
「……っ、分かった。お前の言う事聞くから春翔には絶対手を出すな」
「良い子だね、春楓。じゃあ早速だけど口を開けて」
明日南は満足そうに笑いながら俺の頭を撫でると、瓶を開けて中身を自分の口に含み、俺の顎を掴んで口に流し込んでくる。
「うう……っ……!!」
その行為を受け入れるしかない俺は飲まされた液体が喉を通ると、身体がじわじわと熱くなっていくのを感じた。
「言う事を聞いてくれるって言ってくれたから、君の事、解放してあげる」
そう言って明日南は俺の縛めを解くと、俺のワイシャツのボタンを外していく。
身体が熱くて、頭がぼーっとして、俺は明日南にされるがままになっていた。
「なぁ、さっき俺に何を飲ませた……?」
「興奮剤だよ。君には要らなかったかもしれないけど」
「な……っあぁ……ッ!!」
耳元で囁かれて息を吹きかけられただけなのに、俺の身体はものすごい快感に襲われた。
「今の君、すごくいやらしい顔してるよ」
「や……んんっ……」
今まで合わせていたのと違う瞳で見つめられて、抱き寄せられて、キスをされる。
明日南がドキドキしてるのも伝わってきて、胸が苦しくなった。
「舌動かして、春楓」
「あぅ……んふ……っ」
明日南に言われて、その舌に自分のを絡める。
こんな事、嫌なのに、なのに俺は、その気持ち良さに抗えなかった。
「あぁ、ますますいやらしい顔になってるよ。あのふたりとどれだけ淫らな行為を繰り返してきたのかな……」
「ひ……っ、やぁぁ……っ!!」
首筋から鎖骨、胸元へと明日南の舌が移動していくと、身体がいつも以上にゾクゾクした。
「この指輪……春翔からもらったのかな。名前が書いてるね」
そう言って、ネックレスに通していた指輪に触れた明日南は、その内側を覗き込む。
「そ…それに触んじゃねぇ…っ……!!」
「春楓、いいの?そんな事言って。良い子にしてないと大事な春翔との事、バラしちゃうよ」
「うぅっ、クソ……っ……」
悔しくて涙が出た。
逆らったら春翔に辛い思いをさせちまう。
我慢するしかねぇんだ。
「あぁ、泣かないで。君のそんな顔見たくない。君に涙は似合わないよ」
泣いている俺の涙を拭うと、明日南はもう一度キスしてくる。
「ふぁ……あっ……」
そうしながら俺の胸に触れてきて、爪先で円を描くように弄ってきた。
「ココ、女の子みたいだね。こんなに大きく膨らんでるなんて…」
「ひゃぅっ!!」
いきなり両方の乳首を抓られるようにされて、自分でも信じられないくらい大きな声が出る。
しかも俺、今のでイッちまってた。
「あれ?すごく身体がビクビクしてるけど、もしかしてイッちゃったの?春楓」
「あ……っ、やめろ……っ、見るな……っ……」
くすくすと笑いながら、明日南は俺のスラックスを脱がしていく。
「えっ、大丈夫?下着がすごく濡れてるみたいだけど」
「あぁぁ……っ、そんな……っ、ソコに顔近づけんなぁ……っ!!」
明日南の息がソコに当たるだけで身体がびりびりして、またイキそうになった。
「大丈夫だよ、春楓。君の淫らな姿、僕にもっと見せて」
「やぁ……あぁぁっ!!」
下着をずらされて明日南の口に包まれた瞬間、俺はイッちまってた。
「はぁ……ぁっ、やめろ…っ…」
明日南は俺が今出したモノだけじゃなく、その前に出た、周りに飛び散っている精液まで舐めとっていく。
その動きが気持ち良くて、俺のはすぐに勃起した。
「春楓、このくらいじゃ満足出来ない身体にさせられたんだね」
「うぅ……っ……」
違う。
これはお前が飲ませた薬のせいだ。
そう言いたかったけど、頭がくらくらして言葉が出て来ない。
「薬のせいだって言いたいのかな。でも、それだけじゃないよね」
「あぁぁ……ッ!!」
明日南が俺の下に履いてる衣服を全部脱がせて大股の先、後孔にいきなり指を挿れてくる。
「ココ、もうこんなに柔らかくて僕の指が2本も挿ったよ。普段から指以上に太いの挿れてるからだよね?」
「あっ、あぁっ、いやだっ、も、やめてくれ……ッ!!」
痛みもなく、むしろ押し寄せてくるのは快感だった。
明日南の指が抽挿を繰り返す度、ソコからぐちゅぐちゅという音が聞こえて、それがだんだん大きくなっていく。
「腰動いてるよ、春楓。君、本当に淫乱にさせられちゃったんだね」
明日南の指が一番イイトコロに当たると、俺はまたイッちまってた。
「うぅっ、ちくしょう……っ」
冷たく笑っている明日南を、俺は睨みつけ、息を上げながらだったけど言った。
「こ…こんな事して、お前が俺の身体を奪えたとしても、俺の心までは絶対奪えない。残念だったな、明日南」
「……っ、そんな事、分かってるよ!誰よりも君の事が好きだから、まっすぐな君をいつも見てきたから、だから……っ……」
俺の言葉に、明日南の表情が変わる。
まるで小さい頃の、俺に泣かされた時の顔になると、泣きながら抱きついてきた。
「どうして僕の事忘れちゃったの?僕はあの時からずっと君だけを見てきたのに……」
「……ごめん……」
昔、春希や春翔にしたように、俺は明日南の背中をさすり、髪を撫でていた。
ふたりと違う細い背中。
「春楓……」
俺を力強く抱きしめてくるその力もふたりより弱くて、震えていた。
今までずっと、俺に見て欲しいが為に強がってきたんだな、明日南は。
「……何をもたもたしているんですか、明日南くん。せっかくのチャンスなのに」
「え……?」
そこに聞こえてきた声に、俺は凍りつく。
ドアを開けて入ってきたのは……海江田だった。
******************
「何で……お前が……」
「ふふっ、すっかり僕の事、信じてくれてたんですね、黄嶋くん。本当に君は心優しい人だ」
黒いセーターにジーンズ姿の海江田は、俺を見ると笑顔を見せた。
それは最初に見せた、不気味な笑顔だった。
「僕から説明してあげますよ、お人好しの黄嶋くんにね」
真っ青になっている明日南をよそに、海江田は最初に明日南が座っていたイスに腰かけると話し始めた。
「僕らはね、利害関係が一致した事で協力する事にしたんですよ。僕らを傷つけたあの忌々しい男に復讐する為にね。あぁ、明日南くんは赤木くんにも恨みがあるんでしたっけ」
あの忌々しい男って……春翔の事なのか……?
「彼は……青木春翔は僕が日本に来て初めて出会った恋人を奪ったんです。日本で孤独を感じていた僕の前に現れた大切な人を……」
俯き、拳を握りしめる海江田。
それから海江田は恋人といた時に暴漢に絡まれ、助けを呼ぼうとした時に春翔がその暴漢を倒してしまい、それがきっかけで恋人と別れてしまった事を話した。
「だから僕は決めたんです。あの男を絶対許さない、僕以上に辛い思いをさせてやるって……」
海江田は親父さんに春翔に助けてもらったから恩返しがしたいと嘘をつき、春翔の事を調べて翠璃ヶ丘学園に転入してきた事、その時に俺たちの関係と明日南の関係を知って明日南と力を合わせる事にした事、人を使って春希に怪我をさせたり修学旅行の時の事件を仕組んだ事を暴露した。
何の罪悪感も感じられない言い方に、俺は怒りを覚えたんだ。
「ふざけんな!!てめぇが弱いから恋人を守れなかっただけじゃねぇか!!」
俺は声の限り叫んでいた。
「うるさい!!僕に逆らうな!!」
「うぐっ……!!」
「春楓!!」
海江田は俺の顔を殴ってきて、口が切れたのか、血の味がした。
「海江田くん、春楓は僕に任せてくれるって、手を出さないって言っていたじゃないか」
明日南が俺の前に歩み出ると、海江田に向かって声を震わせながら言う。
「気が変わりました。あの男にとって何より大切なこいつを僕が滅茶苦茶にしてあげます」
そんな明日南を、海江田は突き飛ばして
ポケットから注射器のようなものを取り出すと、俺の身体を抑えつけた。
「離せ……っ!!」
「いいんですか?黄嶋くん。明日南くんに君とあの男との動画を送ったのは僕ですよ?それに僕は、君と赤木くんとのいやらしい写真も持っているんです。ほら……」
「な……っ……!!」
ニヤニヤしながら海江田が見せてきたスマホの画面には、少し荒いけど、裸で抱き合って繋がっている俺と春希の画像が写っていた。
「学年首席の赤木くんが学校という神聖な場所で幼馴染と、それも男と性行為に夢中になっているなんて信じられませんでしたよ。ですが君たちのこんな姿を偶然見る事が出来たから思ったんです、もしかして君はあの男とも身体の関係があるんじゃないかってね。そうしたら案の定でした。君はとんでもないオス犬ですね」
「うぁぁ……っ……!!」
海江田は注射器の先端を俺の発射口に突き刺す。
少しの痛みの後、何か熱い液体が身体中を流れていく感じがして、全身がビクビクと震えた。
「犬は犬らしく、人間様の言う事を聞いて大人しくしていればいいんです」
マズい。
さっきより身体に力が入らなくなって、思うように動かない。
しかも俺の意思に反して勝手にイキッぱなしになってるし。
気を抜いたら気絶しちまいそうだ。
「はぁ……あぁっ……」
「……しぶといですね。気を失っている間に僕に犯されていた方が幸せだと思いますよ……?」
見上げた先にはジーンズのベルトに手をかけている海江田がぼんやりと見える。
「意識があるなら君を躾てあげましょうか」
海江田が近づいて来て、何か、生暖かいモノを俺の口元に押し付けてくる。
「ほら、早く咥えて。君が大好きなモノでしょう」
咥える……?
大好きなモノ……?
まさか……。
そう思った時だった。
「春楓から離れろ!!」
ドアが勢い良く開く音と、春翔の声。
声のする方を見ると、そこにはぼんやりとだけど白い服を着た男らしい姿がふたつあった。
「あ……」
春希と春翔だ。
来てくれたんだ。
その名前を呼びたいのに、何故か声にならない。
「な、何故ここまで来る事が出来たんですか。君たちの実力を見て太刀打ち出来なそうな人間と人数を選んだのに」
「君が金銭を渡して雇った人たちから聞きました。少し時間はかかりましたが……あの程度で僕らをどうにか出来ると思ったら大間違いだ!!」
春希の声。
今までにないくらい怒ってる声。
それに驚いていると、海江田の姿が消えた。
春希が海江田を殴って、吹っ飛ばしていたからだ。
「春楓。もう大丈夫だよ、ひとりにさせてごめんね」
「は…ると…」
俺を優しく抱きしめてくれるあったかい身体。
目の前が涙で更にぼんやりとしていく。
「うぅ……っ、困るのは君たちの方ですよ?街中で喧嘩沙汰を起こし、この僕を殴ったんですから。この話、僕の父親にしたら君たちは退学になるだけじゃない、警察で罪に問われるでしょうねぇ……」
「春希、春楓をお願い」
「うん」
春翔は俺を抱き上げて春希の傍に連れて行くと、海江田の方にすたすたと歩いていく。
「だから何?春楓は僕らにどんな事があっても必ず傍にいてくれるって信じてるから、そんな脅し、意味無いけど」
そう言って、春翔も海江田を殴った。
「うぐ……っ、この僕を殴るなんて、身の程知らずですね。いいでしょう、望み通りに……」
「そ、そうはさせない!!」
明日南が声を震わせながら叫ぶのが聞こえた。
「い、今までの、春楓をここに連れてきてから今までの事、僕のスマホで撮ってたから、君が父親に春翔たちの画像を見せるなら、僕は父親に今の動画を見せるよ!そしたら君だって学校にいられなくなる!!」
「な……っ、明日南くん、君、僕を裏切ると言うんですか?」
「ぼ…僕は、僕はもうこれ以上誰も傷つけたくない。だからもう、君の言いなりにはならない!!」
泣きながら話す明日南。
春希の俺を抱く腕に力がこもるのを感じた。
「……だってさ。ねぇ、君の目的って何なの?明日南まで引っ張ってきて何したかったの?……答えろよ」
春翔が今まで聞いた事のない低い声で言う。
「お前が、お前が悪いんだ!!お前さえ僕の前に現れなければ……」
「え?何?僕が原因なの?それで関係ない人たちまで巻き込んだって事?……ふざけるな!!」
「うぁ……あぁぁっ!!」
春翔が何をしたのか分からないけど、聞いた事のない、ものすごい音がして、海江田がかなり痛そうな叫び声を上げた。
「僕が憎いなら僕を傷つければいいじゃないか。なのに君は明日南や春希を巻き込み、僕の大切な春楓に酷い事をした。君、自分のした事がどれだけ悪い事か分かってる……?」
「ひっ、ひぃっ、ごめんなさい、ごめんなさい」
「春希を骨折させたのも君って事だよね?君が余計な事したから、僕はコンクールで負けちゃったじゃないか……」
「ぎゃあああっ……!!」
また、聞いた事のないものすごい音がした。
……もしかして春翔、海江田の骨、折ったりしてるのか?
てか、コンクールの事、そんな風に思ったんだな。
「春希も1本くらい骨、折っとく?こんな奴、生きていても仕方ないと思うんだけど、流石に命奪っちゃったらまずいからね…」
「……いいの?1本どころじゃないかも……」
「お、おい、春希」
俺を抱いたまま、春希は春翔の方に歩いていき、俺を春翔に渡す。
「ひぃっ、許してください、ゆるして……」
「……許さない。僕の春楓を傷つけたお前を、絶対に許さない」
春希が海江田を持ち上げて、思い切り叩きつけるように投げ落としたのがぼんやりとだけど見えた。
海江田は声も上げず、動かなくなっていた。
「……気絶してるだけで死んではいないみたいだね。死なせても全然良かったけど」
春希は海江田の生死を確認したみたいだ。
その声はいつも通りに戻っていた。
「ごめんなさい!!僕が協力しなければこんな事には……」
「……あぁ、そうだね。どんな事情があったか知らないけど、僕的には君も同罪だ。罰は受けてもらうよ」
明日南に対して冷たく言う春翔。
明日南の姿はよく見えないけど、土下座をしているようだった。
「ま、まてよ!!明日南の事、許してやってくれ……」
俺を抱いたまま明日南に向かって脚を振り上げる春翔を制止しようとする俺。
でも、そこで意識が飛んでしまったんだ……。
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