4 / 10

よんつぶめ

「父王から聞いたんだ」 ぼくの向かいで、王子が視線を落としたまま話し出した。らしくない。 「子供のころ、オレはお前と会っているって。それに、その指輪……」 「この指輪は幼い頃、大切な人からもらったものです」 ぼくの言葉に、王子はハッと顔をあげる。青ざめた顔で、やはりお前が…と呟いている。 「オレはもしかして、とんでもない思い違いをしていたのか…?」 「王子…」 「だがなぜ…あいつは、オレとの約束をおぼえていると言ったんだ…」 あいつとは王子がつれてきた子のことだろうか。 「それだけ好きだったんでしょう、王子のことが」 あの子の目は王子しか映していなかった。 「…ぼくは10年前、この屋敷の庭で、同じ年頃の男の子と出会いました。ぼくたちはすぐに仲良くなって、惹かれ合って、そして二人きりのバラ園で秘密の約束を交わしました」 「ああ、ああ…!」 王子はくしゃりと泣きそうに顔を歪める。 「ぼくは彼からこの指輪を贈られて、そして子供の言うことですが、大きくなったら結婚しようと…」 「シャスラ!」 王子は声をあげて、ぼくをきつく抱き締めてきた。 「ああ、そうだ。それはオレだ。どうして忘れていられたのだろう、あの日の約束の相手はシャスラだったというのに…!」 「王子…ようやくぼくの名前を呼んでくれた」 「オレはそんなことすら…すまない」 王子の胸に頬を寄せると、抱き締める腕が強くなる。 「王子、ぼくのこと、思い出してくれた…?」 「ああ…!シャスラはオレの運命の人だ」 「…うれしい」 やさしく頬を撫でられて胸の奥がじんとする。うれしい。鼻の奥がつんと痛む。 「王子」 「ポートランドと呼んでくれ」 「ポートランド…」 「シャスラ、いままですまなかった。運命の人。オレと結婚してほしい」 「え、それは無理」 間髪いれない返答に、王子の目が点になる。 「なぜだ!怒っているのはわかる。いくらでも謝る。だが、約束したじゃないか!」 「怒っていますよ、当たり前です。ぼくとの約束を忘れたばかりか、他の者を連れてきて。あの子はどうなるんです?」 「あいつはすぐにでも帰す!だから…!」 「それに正直、ぼくは失望したんです。いくら意に沿わぬ相手といってもあの態度は酷い。ぼくが恋した人は10年の月日であまりにも変わってしまった。それに王子はぼくに言ったじゃないですか、万が一にも、ぼくとは一緒にならないって」 口をぱくぱくさせる王子に、ぼくはにこりと告げた。 「ごめんなさいね」

ともだちにシェアしよう!