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よんつぶめ
「父王から聞いたんだ」
ぼくの向かいで、王子が視線を落としたまま話し出した。らしくない。
「子供のころ、オレはお前と会っているって。それに、その指輪……」
「この指輪は幼い頃、大切な人からもらったものです」
ぼくの言葉に、王子はハッと顔をあげる。青ざめた顔で、やはりお前が…と呟いている。
「オレはもしかして、とんでもない思い違いをしていたのか…?」
「王子…」
「だがなぜ…あいつは、オレとの約束をおぼえていると言ったんだ…」
あいつとは王子がつれてきた子のことだろうか。
「それだけ好きだったんでしょう、王子のことが」
あの子の目は王子しか映していなかった。
「…ぼくは10年前、この屋敷の庭で、同じ年頃の男の子と出会いました。ぼくたちはすぐに仲良くなって、惹かれ合って、そして二人きりのバラ園で秘密の約束を交わしました」
「ああ、ああ…!」
王子はくしゃりと泣きそうに顔を歪める。
「ぼくは彼からこの指輪を贈られて、そして子供の言うことですが、大きくなったら結婚しようと…」
「シャスラ!」
王子は声をあげて、ぼくをきつく抱き締めてきた。
「ああ、そうだ。それはオレだ。どうして忘れていられたのだろう、あの日の約束の相手はシャスラだったというのに…!」
「王子…ようやくぼくの名前を呼んでくれた」
「オレはそんなことすら…すまない」
王子の胸に頬を寄せると、抱き締める腕が強くなる。
「王子、ぼくのこと、思い出してくれた…?」
「ああ…!シャスラはオレの運命の人だ」
「…うれしい」
やさしく頬を撫でられて胸の奥がじんとする。うれしい。鼻の奥がつんと痛む。
「王子」
「ポートランドと呼んでくれ」
「ポートランド…」
「シャスラ、いままですまなかった。運命の人。オレと結婚してほしい」
「え、それは無理」
間髪いれない返答に、王子の目が点になる。
「なぜだ!怒っているのはわかる。いくらでも謝る。だが、約束したじゃないか!」
「怒っていますよ、当たり前です。ぼくとの約束を忘れたばかりか、他の者を連れてきて。あの子はどうなるんです?」
「あいつはすぐにでも帰す!だから…!」
「それに正直、ぼくは失望したんです。いくら意に沿わぬ相手といってもあの態度は酷い。ぼくが恋した人は10年の月日であまりにも変わってしまった。それに王子はぼくに言ったじゃないですか、万が一にも、ぼくとは一緒にならないって」
口をぱくぱくさせる王子に、ぼくはにこりと告げた。
「ごめんなさいね」
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