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さんつぶめ

偽物の花嫁が城を出たと報告を受けた。 「ようやくか」 ほっと息をつくと、腕の中の愛おしい存在が居心地悪そうにする。運命の人は心まで優しいのだ。あの者とはちがう。 「お前、本当に覚えていないのか」 「いきなりなんです、国王」 突然部屋に入ってきた国王に、愛しい人の肩が跳ねる。驚かせるのはやめてほしい。 それになんだ。その言い方だと、父王が幼い日の約束を知っているかのようではないか。 「いいか、三行半突きつけられたのはお前の方だぞ」 「なにを言ってるんです、父王」 国王の言葉に肩を竦める。 心優しい運命の人とちがい、あの偽りの花嫁は貴族の傲慢さが透けて見えた。きらきらしい容姿に、勝ち気な性格。 ぼんやりとしか覚えていないが、幼い頃出会った運命の人はとても素直な人だった。いまもだが。ほら、あいつとは似ても似つかない。 「お前なぁ……」 国王はオレに向けて大きく溜息をつく。 最近よく見る光景だ。なんだってみんなあいつの肩を持つんだ。それがますます気に入らない。 「忘れてるようだから言っておくがな、あのな、むかしお前を連れて行ったのは公爵の別邸だからな」 「…は?」 父王の言葉にぱかんと顎が落ちた。 公爵といえば、あの花嫁の生家にあたる。一体どういうことだ。 *** 懐かしい場所に来ていた。 公爵家所有の南の別荘。 ここはいま兄夫妻が暮らしている。家督はまだ父さまにあるから、それまでの間だと兄さまが言っていた。 幼い頃、国王様といっしょにここを訪れた王子と仲良くなり、ぼくたちは将来を約束したのだ。 あの頃はよかった、と溜息が洩れる。 「兄さまたちはいつでも仲がよくてうらやましいな」 「おや、私たちにだって恋の試練は訪れるんだよ」 「うそだぁ。二人はいつでも恋の祝福があるじゃないか」 「ふふ。そう言ってもらえるのは素直にうれしいよね」 ね、リビエラ。と兄に微笑みかける麗人。翠峰さまだ。 「それで、シャスラはこれからどうするの?」 「どうもこうもないよ、王子がああだもん」 翠峰さまの言葉に、ぷんっと口を尖らせる。 正直、ぼくとの約束を忘れた挙げ句、どこの誰ともしらない人間を連れてきた王子にはがっかりだった。 10年も経てば人は変わるのだと痛感した。 幼い頃の思い出の場所でぼくはある指輪を眺めていた。 当時、王子が真っ赤な顔でぼくの指に嵌めてくれたものだ。 グリーンのガラス玉がついた安っぽいおもちゃの指輪。王子にはふさわしくない、だけど子供らしい指輪だ。 「王様に言って送り返そうかな」 そうと決まればさっそく。 「兄さまー、封筒ちょうだい…」 応接間の扉を開けたぼくは思わず声をつまらせた。 「おまえ…その、指輪…!」 兄の向かいで、ここにいるはずのない王子が大きく目を見開いていた。

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