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ふたつぶめ

「運命の人を見つけた。」 あるとき王子がそう宣言して、城中が大騒ぎになった。 運命の人。やっとぼくとの約束を思い出したのか、なんてそうじゃない。だって王子はぼくに向けてこう続けたのだ。 お前はいよいよお役御免だ――と。 王子が連れてきたのは、下町のしがない平民だった。 「この淡い金髪を忘れたことなどなかった」 覚えていなかったくせによく言う。ぼくの髪はそんなくすんだ色ではなく、もっと煌めいている。 「この緑青のような瞳に幼い頃の面影が残っている」 ぼくの瞳は翡翠のようだと、子供の頃からよく褒められた。彼もきれいだと言ってくれたのに。 おどおどと王子の後ろに隠れる様が気に入らない。でれでれと鼻の下を伸ばして庇う王子にも。 「その平民が、ですか」 「平民でなにが悪い。お前のその貴族様々なところも気に入らないのだ」 ああ、そうですか。 「…もう、ぼくも腹を決めないといけませんね」 「シャスラ様!」 「ああそうだ。本物の恋人が現れたんだ。偽りの花嫁は去られよ」 「ポートランド王子!」 外野がうるさい。 肩を抱かれたその人が甘い瞳で彼を見上げて、ああ恋してるんだな、と思った。王子はぼくに対してはあんなだが、見た目は最高だし本当はやさしい。 淋しいな、と素直に思った。 ぼくも甘い恋がしたい。 「…だれかいい人探そうかな…」 「シャスラ様!滅多なこと言わないでください!」 ぼくの独り言を聞きつけて、サルタナが泣き声をあげる。 「なんでさ。ぼくだって幸せになりたいよ」 「シャスラ様、なんてお労しい…」 涙をぬぐうサルタナはちょっとうざい。 国王様にお目通りを願い、ぼくは実家に戻ることを告げた。 王様は苦い顔をしていたが、「お前のことを考えればその方がいいのかもしれない」と許してくれた。 あのばか息子が迷惑をかけてすまない、とも。 身の回りを整理する数日の間に、王子たちの噂はいやでも耳に入ってきた。それはそれは仲睦まじいらしい。 結局、ぼくが城を出る日になっても、王子と顔を合わせることはなかった。 「迎えに来たよ、シャスラ」 「兄さま!」 迎えの馬車には、兄とその奥方の姿があった。 久々の再会に涙が滲む。 やさしくてあたたかな愛情がなつかしかった。

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