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ろくつぶめ
「どうだ、思い知っただろう」
「ああ…すごく」
国王の言葉にがくりと項垂れる。
じつは父王は、公爵家の子息であるシャスラの人となりや生い立ちをきちんと調べた上で城に迎え入れており、もちろん子供同士の約束もわかっていた。なにもしなくてもうまくいくよう御膳立てされていたというのに。
約束の相手を忘れた自分が情けない。
「お前、本当に思い出したのか?」
「もちろん」
「シャスラは美しく育っただろう。おまえはきらきらしいとかなんとか言っていたが、あの子はむかしから可愛らしかった」
「…ああ」
記憶の中のシャスラは、いまと変わらないかわいらしさだった。
「シャスラは子供の頃から素直な子だった。はっきり物事を言うから、勘違いされることも多いがな」
「…ああ」
そうだ。素直で純粋ゆえに真っ直ぐだった。しっかり自分の考えを言えるところが好ましく思ったというのに。
「わかっている。オレが悪いんだ」
オレが運命の人だと勘違いをした、あの平民の者にはすでに城を出てもらっている。去り際、手加減ない平手をお見舞いされたのは秘密である。
「わたしはシャスラがかわいい。あの子が嫁に来てくれると嬉しいんだ。親心にもうまくいくことを願っている」
「…それ、下心っていわないか」
国王と話して、シャスラがどれだけ愛されていたかを痛感する。己の愚かさにも。城の人間がシャスラの味方をするのも当然だ。未熟な自分はそれすら気に入らなかったが。
「失礼する」
国王と入れ替わるように次期公爵であるリビエラがあらわれた。
シャスラの実兄であり、じつはオレの古い指南役でもある。
「いきなりどうした?」
「私はおまえがシャスラに相手にされないことを内心、小気味いいと思っていたが、」
「おい」
「だがだめだ。やはりおまえはシャスラには相応しくない」
いつも笑顔の男が見せる厳しい表情に動揺する。だが、それを悟られないようおどけてみせた。
「おいおい、一国の王子相手に無礼だぞ」
「シャスラが泣いた。」
「…なんだって?」
その一言で顔色が変わったのが自分でもわかる。
「お前にどれだけ傷つけられても泣かなかったシャスラが、かわいそうに泣いている。原因は言わずもがなおまえだ。これは古い友人として、そしてシャスラの兄としての言葉だ。おまえにあの子は任せられない」
「シャスラになにがあった?」
シャスラは城にいる間、自分こそが約束の相手だとわかっていたのに、オレが何を言おうが気丈な態度を崩さなかった。
そしてそんな状況でも、弟であるシャスラを尊重して大切に見守ってきたリビエラがここまで言うのだ。よっぽどのことだ、間違いない。
どくどくと逸る鼓動を抑えて言葉を待つ。
「先日、シャスラをつれて街にでたとき、ある平民の子に会った。知り合いかと思ったがどうもちがうようだ。聞くところによると、以前、王子の婚約者だった者だそうだ」
「な、あいつ、シャスラになにかしたのか!?」
「違う。何かしたというのなら、それはおまえだ」
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