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第一章・3
「あ、あの。殺された、って一体。あなたは誰ですか?」
「人に名前を尋ねる時は、まず自分から名乗るものだろう」
「すみません。僕は、白井 聖といいます」
素直に従った聖に、男は逆に驚いたようだった。
「そうか。俺は、飛沢 駿佑(とびさわ しゅんすけ)。掃除屋として、さる老婆に雇われた」
「さる老婆、って。もしかして、元町(もとまち)さんですか?」
「なぜ、それを知ってる」
「僕も、元町さんと一緒にミケを可愛がってたんです。でも、さっき会ったら、ミケは死んだ、って聞かされて」
うん、と駿佑はうなずいた。
そして、まるで脈絡のないことを訊いてきた。
「白井くん、君はΩか?」
栗色の髪に、白い肌。
痩せて小さな体に、細い手足。
全体に、儚い印象を聖は持っている。
駿佑は、それらから彼をΩと見たのだ。
「そうですけど」
それを聞くと、駿佑は人差し指を立てて唇に当てた。
「では、どのようにミケが殺されたかは、言わずにおこう。ショックで心を病むかもしれん」
だが、その言葉で知らされたようなものだった。
ミケはきっと、ひどい殺され方をしたのだろう。
苦しんで、もがいて、死んでいったのだろう。
それを思うと、元町老婆の悲しそうな顔も浮かんできた。
おそらく、ミケの遺骸を見つけたのは、元町だ。
家族同然に可愛がっていたネコが、惨殺されたのだ。
思わず、聖の目からも涙がぽろぽろとこぼれてきた。
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