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第十一章・5
夕食は外で済ませ、駿佑は聖のマンションへ帰った。
「僕、駿佑さんのマンションに泊まってみたかったな」
「明日の午後、ここに蘭が届くことになってるからな。諦めろ」
「午後なら、ちゃんと起きてますよ」
「果たして、そうかな?」
「ど、どういう意味ですか?」
今夜は寝かせてあげない、ということだ。
低く、柔らかい声で鼓膜を震わせられると、聖は腰がくだけそうになった。
「ぼ、僕、お風呂に入ってきます!」
逃げるようにバスルームへ向かう聖を、駿佑は笑顔で見送った。
「それもあるが」
本当の理由は、他にもあった。
(今の私は、洪隆会のヤクザなんだ。聖)
そんな人間の所へ出入りしていたら、どんな危ない目に遭うかしれない。
突然、組員が遊びに来る恐れもある。
(もう少しの辛抱だ)
この大きなヤマが終われば、破格の報酬が支払われることになっている。
それを最後に、駿佑は掃除屋を辞める決心をしていた。
(聖のためだ)
刺青も消し、きれいな体できれいな仕事をする。
全て、聖のためだった。
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