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第十四章・13
すでに閉店した聖のフラワーショップに、まだ明かりが点いている。
「また居残りで練習か」
「はい。駿佑さん、先にマンションに帰ってもいいですよ」
そうはいくか、と駿佑は椅子に掛けて器用に動く聖の手元を眺めた。
ワイヤーとフローラテープ、リボン。
それから、白い胡蝶蘭。
ウエディング・ブートニアの出来上がりだ。
「僕、まだ覚えてるんです。以前、白い胡蝶蘭をプレゼントしてもらった時のこと」
『君にぴったりの花だ、聖』
駿佑さんが、そう言ってくれたこと。
「すごく、嬉しかった……」
「どこのキザな男が、そんなことを言ったのやら」
もう、と聖は唇をとがらせた。
「すごく大切な思い出なんですから、茶化さないでください」
そう言って、ブートニアを駿佑の胸ポケットに挿した。
「キザな男が、さらにけしからん事を吐いても大丈夫か?」
「何ですか?」
聖、と駿佑は頬を寄せて言った。
「君は私の胸に咲いた、純白の花なんだ」
今までも、そして、これからも。
駿佑は、そのままそっと、聖に口づけた。
胸には、白い胡蝶蘭のウエディング・ブートニアが咲いていた。
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