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第18話 第二次性結果と僕の思い

「ねえ、裕也はまだ帰ってこないの?」 テーブルの上にはしっかりと封がされた封筒が一枚 早く見ろ!とでも言うように置かれている。 イヤ、そう言う風に見えるのは僕だけにかもしれないけど、 今そこに陽一君の結果があると思うと、 居てもたってもいられなかった。 そんな大事な日なのに、 裕也はクライアントとのミーティングが押して、 少し遅れると連絡があった。 「佐々木先輩はもうオフィスを出たらしいから、 あと30分もあればつきますよ」 そう笑いながら言う要君も可愛いな~と思った。 結局要君の先輩呼びは抜けなくて、 結婚した今でも裕也の事を先輩と呼んでいる。 そして僕の事も未だに矢野先輩だ。 それは陽一君にも継がれて、 陽一君も未だに僕の事を矢野先輩と呼ぶ。 「矢野先輩、お父さんを待つ間、宿題教えて~ かなちゃんだと全然役に立たなくって~」 「え~! 陽ちゃんがただ単に先輩に見てもらいたいだけでしょう! 僕だって中学1年生の勉強位まだ覚えてるよ!」 要君と陽一君のやり取りは、要君が二人いる様だ。 そんなやり取りの中でふんぞり返っているのが愛里ちゃん。 「お兄ちゃん、私が見てあげようか? 中学一年生の宿題位、 私で十分だよ」 何処をどう見ても8歳のセリフではない。 「あ~ちゃんは良いんだよ。 ほら、陽ちゃんはアレだから」 そう要君が言うと愛里ちゃんも、 「そうか、お兄ちゃんそうだもんね~」 と僕には分からない二人だけの会話をしている。 そして二人してクスクスと笑っていると、 決まって陽一君が真っ赤になって二人を怒る。 まさかこんな光景が見れるなんて 要君に振られ、日本を去った時は思いもしなかった。 「矢野先輩、ほらほら、 ここに座って!」 陽一君にお願いされると僕も弱い。 100万円くれと言われても、 上げてしまうかもしれない。 キッチンのテーブルで陽一君の隣に座り、 宿題を始めようとした時に、 玄関のチャイムが鳴った。 「あれ? 誰だろ? 先輩はまだだし……」 携帯の居場所シェアを見ながら要君が首を傾げた。 要君達は何時でもお互いの居場所が分かるように、 携帯で居場所の交換アプリを使っている。 「ちょっと待っててね、 荷物か何かかな?」 そう言いながら出て行くと、 「今日でしょ~ 陽ちゃんの結果発表!」 そう言って玄関から愉快に入って来たのは 要君のご両親だった。 結婚をした後要君たちは ご両親の家を出て、 裕也と要君の職場の中間地点にマンションを購入した。 僕の住むマンションもこの棟の中にある。 ただし僕の部屋は独身用なので小さめだ。 時間があると、いつものようにここに入り浸っていたけど、 最近は陽一君が僕の家へ突撃してくるようになった。 まだお泊まりはないけど、 勢い的にはいつお泊まりになっても良さそうな感じだ。 「あっ、矢野ク~ン」 「こんばんわ! ご無沙汰してます~」 要君のお父さんは、 外に出る時は相変わらず変装をしている。 陽一君は興味無さそうだけど、彼の変装については、 愛里ちゃんには彼の変装については不満がありそうだ。 いつもピシャリと言われている。 「お祖父ちゃん、今日もそれ変だよ! 大の大人がいい年して、良くそんな変装できるよね。 ベテラン俳優って言われるくらいだから、 ちゃんとカッコ良い人の変装してよ。 変態みたいな変装って、 下手な芸人でも出来るよ! 私だってその気になればお祖父ちゃんに変装は負けないんだから!」 とても辛口だ。 「あ~ちゃ~ん~ 今日も辛らつだね~ でもそこが賢そうで可愛い!」 と、お父さんも負けていない。 愛里ちゃんとしては、カッコイイお祖父ちゃんに、 何時もカッコよくあって欲しいみたいだ。 勿論、変装している時も。 何と言っても、お祖父ちゃんは、 愛里ちゃんの理想の男性の様なので。 孫がいると言っても、未だ年齢的にも、 見た目も若い。 将来の夢はお祖父ちゃんのお嫁さんみたいだ。 お祖父ちゃんは学校でも人気があるらしく、 蘇我総司が自分の祖父だと言えない事は とても悔しそうだ。 でも愛里ちゃんもそんなあ祖父ちゃんの事情を知っているので、 なすがままにしているけど、 どこかでやっぱり納得できないようだ。 その反動がこれだ。 「何々陽ちゃん、 宿題? いいな~ 矢野君に教えてもらえて! 矢野君は良い先生してる?」 「もう、お祖父ちゃんは良いから、 あっち行ってて!」 可哀想なお父さんは孫のいる所どこへ行っても 塩な扱いをされる。 「あ〜あ、僕って青虫以下だよね。 どうせ踏まれておしまいだよ〜」 といじけながら変装を解くと、 すぐに愛里ちゃんに飛びつかれる。 「お祖父ちゃん! 待ってました! もうなんてカッコいいの〜 お祖父ちゃん好き、好き、だ〜い好き!」 となんて変わり身の早さだ。 これには要君もいつも呆れてる。 どちらかというと、 お父さんはそれを分かっていて楽しんでいるところがありそうだ。 やっぱりお父さんの方が一枚上手かと言ったところだ。 お母さんは相変わらず冷静で、 「要、夕食の準備中? 手伝うよ」 と言いながらさっとエプロンを腰に巻いて キッチンシンクに立つ要君の隣に立った。 そこに裕也が 「ただいま〜 あれ? 皆んな来てるの?」 と帰ってきた。 そこに一目散に掛けていくのは愛里ちゃん。 お祖父ちゃん大好きでも、 やっぱり一番はパパのようだ。 でも、パパはママにあげると妥協して お祖父ちゃんへと移動したようだ。 「え〜 お祖父ちゃんにはお祖母ちゃんがいるでしょ」 と言うと、 「いいの、お祖母ちゃんは私にメロメロだから お祖父ちゃんを譲ってくれたの」 と都合の良い捉え方をしている。 「まあ、思春期になったら変わるからやらせておきなよ」 と言うのがお母さんの言い分だ。 何はともあれ、裕也が帰ってきた! 「何んだよ浩二、 お前、お預けされた犬のようだな」 そう言いながら、裕也が玄関から入ってきた。 「お儀父さんも、お儀母さんもいらっしゃい」 「お邪魔してま〜す。 今日は陽ちゃんの結果発表だと聞いてね〜 お邪魔しちゃった!」 というお父さんに続いてお母さんも、 「お腹減ったでしょう? 着替えておいで」 とキッチンから呼びかけた。 要君はパタパタとキッチから回ってくると、 「おかえり! 一日中会いたかったよ!」 と言うと、さっと裕也にキスをしてハグをした後、 裕也からカバンを受け取った。 要君が家庭の中で養われてきた習慣は今も息づいているようだ。 最初高校生の時要君の家庭を訪れた時は、 目の前で繰り広げられたキスやハグの 彼らの習慣に度肝を抜かれたけど、 外国暮らしが多かったお母さんの影響で 小さな頃からキスやハグは当たり前に育ってきた要君。 それは陽一君や愛里ちゃんにも受け継がれていた。 僕は陽一君が小さい頃から、 何度も、何度もほっぺにチュっとされている。 最近でこそ照れているのか減っては来ているけど、 僕は頬を撫でながら陽一君の方をじーっと見ていた。 僕の視線に気付いた陽一君の照れ顔を見ると、 愛おしさが込み上げてくる。 やっぱり可愛い! 要君より可愛いかもしれない! そういえば、僕が初めて要君を公園で見かけたのも、 このくらいの歳かもしれない…… そう思うと、陽一君と要君の影が重なって少し苦しくなった。 でもベッドルームでさっと着替えた 裕也がリビングに戻ってきたので、 その時の感情はすぐに消え去ってしまった。 そして、食事の前に開封をしようと言うことになったので、 皆がリビングに集まってきた。 裕也がテーブルの上に置いてあった封筒を取ると、 ピッと封を切った。 途端僕の心臓が破裂するんじゃないかと言うくらい打ち始めた。 あまりにもの緊張で気分まで悪くなってきた。 “なんでここまで緊張するんだ?“ 「ちょ……っ、 先輩大丈夫ですか? 顔色悪いですよ?」 要君が先に気付いた。 「いや〜 何故か緊張しちゃって……」 そう言うと、陽一君がぎゅっと僕の手を握りしめた。 そして彼の僕に微笑む顔を見ると、 なぜかス〜っと緊張が引いていった。 そして裕也が結果が書かれた用紙を読み始めた。 僕は発表される前に、何とか裕也の表情を読み取ろうとしたけど、 裕也は眉一つ動かさなかった。 だから彼の読む結果に聞き入るしかなかった。 耳を凝らして聞き逃さないように裕也の言葉一つ一つに聞き入った。 「佐々木陽一。 あなたの第二次性は……」

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