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第19話 この気持ちの訳は?

「佐々木陽一。 あなたの第二次性は……」 裕也がそう読み始めると、 “ゴクリ……“ と生唾を飲み込む音がするくらいの緊張が走った。 “お願いします! 神様お願いします!” と訳の分からない祈りさえ頭をよぎる。 裕也の口がスローモーションのように動いた。 それは本当に、名前から結果を発表するまでの間が永遠の様な感覚さえした。 「佐々木陽一。 あなたの第二次性は…… Ωです」 そう裕也が読み上げた瞬間、 僕の緊張の糸の尾が切れた。 “Ω…… Ω…… やっぱり陽一君はΩだったんだ…… 良かった…… 本当に良かった…… ありがとう、神様ありがとう!” と、訳の分からない感動に涙が込み上げて来そうだった。 胸が苦しくて、苦しくて、 陽一君を抱きしめたい衝動に駆られた。 “これからは僕が陽一君を守る。 命懸けでと言うと変かもしれないけど、 それくらいの思いで陽一君を守る!” そう思うと、更に陽一君を抱きしめたくてたまらなくなった。 要君に対して僕はロリ疑惑がある。 彼の目を気にして、 派手に陽一君に抱き付くのはここでグッと堪えた。 でも、陽一君が急に愛しくて、愛しくて、 もうロリでも犯罪者でもいいやと言うような, そんな感情さえ生まれて来そうなほど、 陽一君がΩだと分かって嬉しかった。 その時はまだ、この感情の正体が僕には分かっていなかった。 みんなが陽一君に、 「おめでとう!」 と言ってる間、 僕は陽一君の手を未だぎゅっと握りしめたまま、 自分の中に生まれた感情と戦っていた。 「僕、Ωだって!」 陽一君が僕の方を見てにこりと微笑んだ。 その笑顔が眩しくて、 高鳴る心臓が信じられないくらいに脈打っていた。 「そ…… そ…… そうみたいだね…… ハハハ」 今度は違った意味で、僕は凄く緊張していた。 返す言葉でさえ吃ってしまう。 「ねえ、陽一のΩ専用のドクターを探さないとね。 それと国に登録してΩ専用の医療カードも発行して貰わないと…… 発情期は未だだから……それは追々だね」 要君がテキパキとΩ登録書類の準備を始めた。 裕也が法を覆して以来、 Ωは法で国から守られている。 医療面でも発情期にかかわる事柄は、 全て国での負担となった。 製薬会社の抑制剤もかなりの改良がされ、 Ωが安心して世間に出て行けるような社会が作られつつあった。 そのため、高かった医療費や、抑制剤も、 全ての登録されたΩへ行き届くこととなった。 裕也は未だ未だだと言って謙遜しているけど、 凄い功績だ。 「僕たちの頃から考えると、 あり得ないよね」 と要君のお母さんはいつも感心している。 「じゃあ、要が書類を整理している間、 僕が夕食をテーブルに運んでおくね。 司君、お手伝いしてくれる?」 「もちろんだよ〜 優君のためだったら火の中、水の中、何でもござれだよ!」 そうお父さんが言うと、 「あ〜 お祖父ちゃん! 浮気厳禁! 私もお手伝いする〜」 と愛里ちゃんも駆けて行った。 微笑ましい限りだ。 「まあ、思っていた通りの結果だったな。 発情期までは多分未だ時間あるだろう」 そう言って、裕也が意味深の様に僕をチラッと見た。 「要君は高校1年の時だったよね」 そう僕が言うと、 「そうだな、お義母さんもその位らしかったから、 恐らく陽一も高校1年生くらいだろうとは見ている。 でも早くから準備することに害は無いな」 と裕也が話し始めた。 「皆それくらいなのかな?」 陽一君がそう尋ねると、お母さんが、 「いや、そうとも限らないよ。 発情は結構、番との出会いが要因に含まれるから、 陽一はもしかしたら早いかもね」 そう言われ、僕はドキッとした。 お母さんのセリフに、凄い意味が含まれているのを感じたから。 “え? 陽一君の発情が早まる可能性があるって…… もしかして陽一君ってもう好きな人がいるの? 発情を併発させるくらいに好きな人? その人と番になりたいって思ってるの?“ そう思うと、心の中に何かドス黒い塊ができた様になって モヤモヤとしはじめた。 「お祖母ちゃんもお祖父ちゃんに出会ったのが切っ掛けだったの?」 そう陽一君が尋ねていた。 「そうだよ。 お祖父ちゃんに会って直ぐだったね〜」 「かなちゃんもパパに会ったのが切っ掛けだったんでしょう?」 「そうだよ、要は暫くはその事に気付かなかったんだけどね」 「ねえ、小さい時からその人に出会ってたらどうなるの?」 「そうだね~、一概には言えないけど、 きっと心と体が今だって思った時にそれは自然とやって来るよ」 陽一君とお母さんのそう言った会話を聞いていたけど、 僕は更に心にモヤがかかったように陽一君の匂わせた “好きな人“ が頭から離れなかった。 陽一君がはっきり言ったわけではないけど、 きっと好きな人がいるんだ。 多分家族はそれを知っている…… 何故僕には教えてくれないの? 僕は陽一君に教えてもらってないことが少し悲しくなった。 ずっとお兄ちゃんの様な感じで接して来たから、 何でも相談してくれると思っていた。 でも好きな人なんて違うかもしれない…… 只の僕の杞憂かもしれない…… 陽一君に好きな人が居るって言うのは、 僕の思い過ごしかもしれないと自分に言い聞かせても、 心はあまり晴れなかった。 そうしてモヤモヤとしている自分の心と戦っていると、 「OK〜 書類は一先ず書き込める分は書き込めたから、 早速明日区役所に行ってくるよ」 そう言って要君が戻ってきた。 「じゃあ、食事の準備もできてるから、 皆んなテーブルに集まって〜」 お母さんがそう言うと、僕たちは食卓を囲んで、 夕食にとありついた。 「浩二、お前、陽一とは随分仲良くて何時も距離が近いけど、 その…… 手は出してないだろうな?」 裕也が咄嗟に思いもしなかった質問を聞いて来たのでびっくりした。 “まさか、裕也にまでロリ疑惑を持たれてる?! ちゃんと否定しなきゃ! 陽一君に会えなくなってしまう!” 「何言ってるんだよ。 僕が未成年の、それも親友の息子に手を出す男だと思ってるのか?」 裕也がどういう風に反応するのか怖かった。 「いや、そう言う事じゃなくってだな…… 分からないならまあ良いや……」 裕也にしては歯切れの悪い返答だ。 一体何が言いたいのか? でもロり疑惑は大丈夫そうだ。 たしかに陽一君への愛情表現は多加なところがあり、 僕たちの仲は凄く良いが、 手を出そうと思ったことなど一度もない。 その時フッと僕の頭の中に浅ましい思いがよぎった。 “えっ? もしかして…… 陽一君の好きな人って…… 僕とか……? だから裕也が警戒している?” 根拠のない事なのに、そう思うと少しデレてきた。 でもそう思った自分が少し恥ずかしくなった。 そしてこう思って少し悲しかった。 “何が悲しくてピチピチ13歳の若者が ヨレヨレとまでは行かなくても、 父親と同じ歳の20歳も年上の叔父さんを好きになるなんて思ったんだろう…… そんな事、間違ってもあり得ないな……“ 今度はそう思ってがっかりしている自分がいることに驚いた。 “僕って一体、陽一君とどうなりたいの?“ そう思うと、さらに混乱したので、 もうそこは考えないようにした。 したのに…… 「ねえお父さん、 明日は土曜日だし、 矢野先輩うちに泊まっててもいい? 何だか一晩中矢野先輩と語り合いたくて…… 僕の部屋に泊まっても良いでしょう?」 と陽一君が何を思ったのか急に裕也に尋ね始めた。 「え? いや…… しかし……」 裕也は言い淀んでいた。 「ねえ、矢野先輩も大丈夫でしょう? 明日は仕事休みなんでしょう?」 裕也が言い淀むと、今度はその矛先が僕に向いた。 「あ…… いや…… やっぱりそこはお父さんと、お母さんに聞かないと……」 そう僕も言い淀んでいると、 「良いんじゃないの?」 と要君は全然平気なようだ。 要君のお許しが出たことに裕也も折れ、 僕はその夜は佐々木家にお泊りすることとなった。 それも陽一君の部屋に……

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