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第20話 陽一君との奇妙な夜

「先輩、此処にお布団置いとくから。 本当に陽ちゃんの部屋の床でいいの? ちゃんと客間だって有るんだよ?」 そう言いながら、要君がお布団を運んで来てくれた。 「十分、十分。 僕はどこででも眠れるから床でも全然平気」 そう言うと、 「僕は一緒のベッドでも良いんだけど!」 と陽一君は無邪気に答えた。 僕はえっ?と目から目玉が飛び出るような思いだったけど、 要君はそうでもなかった。 「ハハハ、陽ちゃん、 今夜は大好きな矢野先輩に思いっきり甘えてね。 でも夜更かしはしない様に。 我儘もほどほどにね。 じゃあ、先輩もお休み。 何かあったら僕達の寝室のドア、何時でも叩いていいから!」 要君が、からかいながら出て行った。 “まったくこの親子は……!” 本気なのか、冗談なのか分からない。 でもちゃんと母親やってるところを見ると、 未だに不思議でたまらない。 「ねえ先輩、 折角かなちゃんがお布団持って来てくれたけど、 僕の隣で一緒に寝て?」 陽一君のリクエストに度肝を抜かれた。 「や、狭いからダメだよ〜」 慌てて答えると、 「先輩と手を繋いで眠りたい」 と返ってきたので、更に驚いた。 今時の子って皆んなこんなに積極的なの? 僕だってちょっと要君に手を出そうとはしたけど、 少なくとも僕は高校3年生だった。 暫くどう答えて良いか分からず黙っていると、 「じゃあ僕がそっちに行っても良い?」 ときた。 あまり突き離すのも意識してるみたいだし、 良い歳もしてるし、見っともなかったので、 「おいで」 と布団の端を捲った。 「わ〜い」 そう言ってスルッと僕の布団に潜り込んで来た陽一君から、 フワッといい香りがした。 “あ、シャンプーの匂いかな? 良い匂いの使ってるな…… これって愛里ちゃんのお気に入りなのかな?” そう思って、 「陽一君のシャンプーいい匂いがする」 そう言ったら、 「じゃあ先輩も良い匂いでしょう? 今日は同じの使ったんだし!」 そう言われて、あれ?と思った。 でもそう思ってるうちに陽一君が僕の手を取って、 「先輩の手、凄く奇麗で好き」 そう言って自分の手を僕の手のひらに重ねた。 「ほら見て、大きくって指も長くって、 爪もそろってて僕の手と比べると、 ほら、すっぽりと包まれてしまう……」 僕の手に自分の手を絡めながら、 そう言う陽一君のそんなセリフに少しときめいた。 13歳のセリフに何ときめいているんだ! 僕って欲求不満? 危ない、危ないと思い、 「や、裕也の方が手は大きいじゃない! ごつごつ骨ばってて男らしいし、 学生時代はバレーボールやってたから 体つきも良いでしょう? 背も高いし。 僕は裕也の体格の方が羨ましいよ」 そういうと、 「え〜 お父さんの見ても何とも思わないし…… 触られると、いや~って感じだし、 洗濯も一緒にしたくない! それにお父さんにときめくのって、 かなちゃんだけだよ」 といわれると、苦笑いするしか無い。 “洗濯って…… 年頃の娘みたいに…… 僕は全然父親の物と一緒に洗っても構わなかったけどな…… でも要君だけが裕也にときめくって、プフフ、 きっと陽一君、裕也が凄いモテてたこと知らないんだ~” そう思うとおかしかった。 「ねえ、先輩って今付き合ってる人いないんでしょう?」 との突然始まりそうな恋バナにビックリした。 「どうしたの? いきなり恋バナ?」 僕はその時、 “やっと僕にも陽一君の好きな人を教えてくれるのかな?” と思った。 「恋バナって言うか…… かなちゃんがこの前ね、 先輩と阿蘇に行った話しをしてくれたんだよ」 と言われてそういえば、 そんな事もあったなとぼんやりと思い出した。 「それで、要君とは阿蘇について何を話したの?」 「かなちゃんがね、 星を見ながら芝生の上に寝転んで、 色んな事を一杯先輩と話したって…… 凄く星が奇麗で夜空に吸い込まれそうだったって。 そんな中に先輩と二人で、 何だか羨ましいなって思って」 「なに? 陽一君も阿蘇に行きたいの? 今度皆んなで行く?」 「あ、いや、そう言うわけじゃ無いんだけど、 かなちゃんの話聞いてて、僕も先輩の横に寝転んで 一杯色んな話がしたいなって……」 「ハハハ、陽一君がお喋りしたかったら、 一晩中でも一日中でもお安い御用だよ! それで恋バナ?」 「や、先輩、恋バナからは離れて!」 「え? 違うの? 陽一君も中学生になったから、 誰かクラスにいいなと思う人がいるのかな? と思ったんだけど〜」 とは言ったものの、心臓はバクバクとしていた。 本当に自分は陽一君の好きな人について 聞く覚悟が出来てるのか? 「僕の事は良いの! 今日は矢野先輩の事が聞きたいの!」 “あ、陽一君の恋バナとは違ったんだ……” 「え〜 こんな叔父さんの恋バナ?」 「も〜 先輩、恋バナからは離れてって! 今日はね、矢野先輩を知る日なの! 僕が質問するからちゃんと答えてね?」 そうやって迫ってくる陽一君も何だかかわいい。 でも、何故今更僕の事が知りたいんだろう? 小さい頃から一緒に居るから、 結構知ってると思うんだけど…… 「ハイ、ハイ。 僕の事だったらもう一杯知ってるでしょう?」 「ダメ、今日は矢野先輩の口から色々と聞きたかったの! 絶対僕の知らないこともあるし、 少しは両親とかけ離れた大人の話がしたかったの!」 “あ~ 陽一君も心が成長してるんだな~ 最初にあった時は5歳だったのに、 もうこんな話を一緒にするようになったのか~ 瞬きしたら、一緒にお酒を飲んでる勢いだな……” そう思って、陽一君の成長が嬉しいのか 寂しいのか分からなくなった。 横を振り返ると、 陽一君が僕の顔をジーっと見ていた。 「何? 何か僕の顔に付いてる?」 「いや、先輩って鈍感だって言われない?」 「鈍感? 僕的には結構相手の事分かってると思うけど……」 そう言うと、陽一君は急に笑い出した。 「何だよ~ どうしたの? 一体!」 「先輩、自己評価高いね!」 「え? それって…… 陽一君は僕の事鈍感だって思ってるって事?」 「ハハハ、どうだろうね? 先輩、今僕が思っている事分かる?」 「え~ エスパーじゃ無いんだから、 分かるわけ無いでしょう?! それは鈍感だとは言わないの!」 「ハハハそれもそうだね」 「じゃあ、陽一君は僕に何聞きたかったの?」 そう尋ねると、陽一君は急に真剣な顔をして、 「先輩って、かなちゃんのこと好きだったでしょう? 今でもそれって同じ気持ちなの?」 そう尋ねられて心臓が止まるかと思った。

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