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第21話 陽一君との奇妙な夜2
「ななな、何言ってるんだい?
そそそそそんな事あるわけ無いでしょ?」
思わず舌を噛んでしまいそうな程吃ってしまった。
此処まで吃ると、肯定している様なもんだ。
“一体陽一君はどうやってその事が分かったんだろう?”
そう言う思いだけが頭の中をグルグルとしていた。
「かかか要君は僕の大切な後輩だよ」
僕はしらばっくれた。
でも陽一君は僕の目を真剣に見た。
陽一君を見据えた角度のせいだったかもしれないけど、
陽一君の目には涙さえ溜まっているように見えた。
“涙? どうして?”
「先輩、僕知ってるんだよ?」
涙声を隠したようにして陽一君がポソリと言った。
「え?」
ドキッとした。
“何を知ってるの?
本当に知ってるの?
誰かに何か聞いたの?
でも何故泣きそうにしてるの?
要君を取られるって僕のこと怒ってる?”
「先輩、誤魔化してもダメだよ。
何年先輩の事見てきたと思ってるの?」
陽一君は明らかに知っている。
彼は確信を持っている。
「そんなに……顔に……出てた……の?」
ちょっと陽一君の顔を見るのが怖かった。
「うん。
先輩、お父さんが現れるまで、
ずっとかなちゃんに寄り添ってるんだもん。
子供心ながらに、それは良く分かっていたよ。
先輩は何時でも僕にはすごく甘かったけど、
かなちゃんの事を見つめる瞳は
僕へのそれとは違ったもん。
子供だった僕にだって分かったんだもん。
誰にだって分かるよ。
先輩って本当に分かり易いよ」
そう言えば、
高校生の時に同じように言われた事があった。
やっぱり態度に出てたんだ……
それも陽一君にバレていたなんて……
居たたまれなくて合わせる顔が無い……
「そうか……」
そう言いながらも、僕はうつ向いたままでいた。
「矢野先輩、パパが現れてからは、
かなちゃんの傍に寄り添ってるのは減っちゃったけど、
でもやっぱり先輩の視線の先には……かなちゃんが居る。
先輩は…… 今でもかなちゃんの事好きなの?」
「ハハハ…… ハ……
そうか……
僕って分かり易いのか……」
ちょっと罪悪感に苛まれた。
少し頭をその事から切り離したかった。
「ねえ、陽一君は好きな人いるの?」
僕は話題を変えた。
でも陽一君は話題を変えたことについては追及しなかった。
きっと僕の態度が彼の質問を肯定したんだろう。
僕の質問に陽一君は真剣な顔をして、
「好きな人くらい……いるよ。
もう13歳なんだよ。
13歳にもなれば、皆好きな人位いるよ。
でも僕の場合は特別なんだ……」
ハッキリと僕の瞳を見据えて、そう質問に答えた。
陽一君に好きな人が居ると告げられ、
少し胸がズキッとした。
陽一君に好きな人が居る事は何となく周りの状況から
勘ぐってはいたけど、
実際に陽一君の口から聞くと、かなりショックだ。
思っていたよりもショックを受けたことにびっくりした。
“我が子を取られる思いとはちょっと違う様な?
弟を取られる気分?
イヤ…… ちょっと違う……
この胸の重みは何なんだろう?”
そう思いながら、ここまでの年月を数えた。
「そうか〜
もうそんな歳になるんだね。
13歳か~ 初めて会ったのは5歳だったのにね。
この前まで公園の砂場で遊んでたのに
あれから8年か~
年月が経つのは早いね」
自分で言って何だか切なくなった。
こうやってこの子も大人になって
僕の元を去っていくんだろうか……
そして僕には運命の番も見つからないまま
この世での生を終えてしまうんだろうか?
そう思うと、苦しかった。
僕の大切な者は何時も僕の手をすり抜けていく……
「先輩?
どうしたの?
何故泣いているの?」
陽一君に言われ、
初めて自分が涙を流していたことに気付いた。
陽一君は心配した様に僕の顔を覗き込んでいた。
彼の顔を見た途端、仕えていた感情が溢れ出した様になった。
「ゴメン、
ごめん陽一君。
要君は僕に取って特別なんだ。
でも君や愛里ちゃん、裕也から、
要君を奪おうなんてちっとも思って無いんだよ」
涙を拭きながら、
言い訳の様にそう陽一君に言った。
やっぱり隠してはおけなかった。
言い訳の様になってはしまったけど、
やっぱり自分の口から告げたかった。
13歳相手に何て大人げないって感じだけど、
その時の陽一君はとても特別なように感じた。
「大丈夫だよ、先輩。
僕ちゃんと分かってるよ。
後少ししたら、きっと先輩にも
運命の番が現れるよ。
だから、諦めないで先輩の番を探し続けて。
どんなことがあっても、絶対あきらめないで。
僕の為にもお願い!」
そう言って陽一君は繋いだ僕の手をギュッと握りしめてくれた。
その時の見上げた陽一君の目がとても印象的だった。
きっと、僕が諦めない事で、
陽一君も頑張れるんだ。
僕は人生の先輩でもあるから、
陽一君にはちゃんとお手本を見せなくちゃ。
そう思って、陽一君の手を握り返した。
小さくて、僕が包み込んでいるような繋ぎ方だけど、
でも陽一君の手は暖かくて、
とても力強く、
そしてとても安心した。
「先輩って、Ωみたいって言われた事無い?」
「アハ、それ、良く言われるんだ。
僕はαの割には感受性が強いって。
きっとΩの感性に近いのかもしれない。
だからΩの事を考えると、
情景にも似たような気持になるんだと思うんだ」
「先輩は易しすぎるから……」
「そうじゃ無いんだよ。
陽一君は知らないんだ。
僕がどれだけの人を傷付けて来たか……」
「ううん、心配しなくても先輩は易しいよ。
僕は知ってる……
でもさ、先輩って何時からかなちゃんの事好きだったの?」
その質問に僕は陽一君の鼻を摘んで、
「子供はまだ知らなくっていいんだよ。
でもいつかその時が来たら話してあげる。
僕が経験して来た事、感じた事、
それによって学んだこと、
何時か陽一君の糧になるように全て話してあげる」
そう約束した。
「それはそうと、ねえ陽一君、好きな人が居るって言ってたけど、
陽一君はそれが恋だってどうやてわかったの?
僕が13歳の時なんて、恋に恋していたような物だったよ」
そう尋ねると、陽一君は不敵な笑みを浮かべた。
「何々? ちょっと怖いね。
何その微笑み……」
「先輩、僕ね、かなちゃん側の祖父母や両親から、
色々と運命の番について聞いてきたんです。
僕、発情期は未だだけど、
でもその時が来たら、
今の僕の気持ちが本物だって証明されるって信じてるんです」
陽一君のその思いに圧倒された。
「本気なんだね」
「本気も本気、
大本気ですよ」
「でも、まだ13歳でしょう?
発情期もまだだし……
何時か実際発情期が来ると、
気持ちが変わるって事は……」
陽一君はまだ若い。
今は小さな世界でしか生きていない。
この年齢の子達は成長と共に心も成長する。
また、世界が開ける事で出会いも増える。
それは心変わりの可能性を意味する。
当たり前であって、
人が成長するために避けて通れない道だ。
陽一君はそんな未来をちゃんと分かっているのだろうか?
「それはあり得ません。
僕はまだ13歳だけど、
僕は、自分が好きな人が誰なのかを、
ちゃんと知っています。
そして僕がΩであり、番を持つことの意味も。
もしそれが、年若い早い時期の出会いであっても、
その思いは覆らないことも!」
陽一君のそのセリフに、
また胸がズキッとした。
?????この気持ちは?????
最近陽一君といると、
自分でも分からない感情に振り回される。
「陽一君はちゃんと自分の考えを持っていて凄いね。
陽一君の恋もちゃんと成就してくれると良いね。
僕も陽一君に負けない様に運命の番を探さなくちゃ!」
そう言うと、陽一君は何か考えた様にして、
「ね、先輩、先輩は小さい時から
運命の番を探してるんでしょう?」
と尋ねて来た。
「そうだよ。
陽一君が知ってる通り、
僕と裕也は幼馴染でね、
2人でずっと運命の番を追いかけていたんだよ」
「先輩は自分の運命の番が見つかるってちゃんと信じてる?
見つけるのは宝くじの一等賞に当たるのよりも
難しいって言われてるんでしょう?
皆おとぎ話の様に思っているけど、
それでも先輩はちゃんと信じてる?」
「そうだね、
確かにそう言う風に言われているよね。
実際に僕は陽一君のお祖父ちゃん、お祖母ちゃん、
そして要君と裕也のカップルにしか会ったこと無いしね。
正直言うと、ここで二組も運目の番が出るって事は、
もう僕の周りに当たりは残って無いんじゃないかな?とか、
もう僕には望みは無いのかな?って
時々諦める気持ちが出たりはするんだけど、
でも小さい時から培ってきた思いは簡単には消えないよね」
「……」
陽一君は只黙って僕の話を聞いていてくれた。
「ねえ、陽一君は運命の番についてどう思ってるの?」
「僕は…… 僕には絶対、運命の番が居ると思う。
いいえ、思う出なく、僕は絶対居るって知ってます!」
「凄い断言したね~」
「だって本当に僕は知ってるから……
だから先輩も絶対あきらめないで!
絶対、絶対いつか現れるから!」
陽一君があまりにも真剣にそう言ってくれたので、
それは僕に取って凄く励みになった。
僕よりも経験の少ないこんなに若い子が頑張ってるんだ。
きっといつか自分にも、
要君や裕也の様に、
運命の番が現れるに違いない!
要君達を見てるのはつらい時があるけど、
陽一君も頑張っている。
僕ももう少し頑張ってみよう。
そう思わせた、陽一君との初めてのお泊りの夜の出来事だった。
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