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第30話 中学生の気持ち
僕は大久保さんに言われた通りに、
少し生徒たちの間を歩き渡り、
この子達がどんなことに興味があるのかチェックしてみる事にした。
あまり中学生と接する機会がないので、
少しワクワクとした。
一歩下がって周りを見渡すと、
数人の女子生徒が絵画には興味無さそうに戯れて、
キャッキャとしていた。
“まあ、そんなもんだよな、中学生なんて……”
そう思いながら、少し傍まで寄って耳を傾けた。
「ねえ、放課後、ケーキ屋さん寄ってかない?」
一人の生徒が話し掛けていた。
“フムフム、ケーキ屋さん、いいね!”
「あ、もしかして新しく出来たバイキング?」
“おっ! バイキング?
要君も欲しい情報かも?!”
「そうそう、すっごい可愛いの。
中、プチ宮殿みたいなんだって!
従姉妹が彼氏と一緒に行ったら凄かったって言ってたよ。
結構カップルも多いから、
男の人でも抵抗なく入れるみたい。
まあ、男同士だとどうか分からないけどね」
プププ…… スイーツに関して世の中の女子たちは、
皆考える事は子供から大人まで同じらしい。
「君たち〜」
ちょっと声をかけて見た。
「キャッ! ビックリした〜
確か小野さんでしたよね?」
バイキングについて語らっていた子が、
僕が声を掛けた途端びっくりして一歩下がった。
「よっちゃん、驚きすぎ~!」
その子はよっちゃんと言うらしい。
他の子達に笑われながら、よっちゃんは顔を真っ赤にしていた。
でも僕も追い打ちをかけて、
「いや、僕は小野ではなく、矢野です」
と言うと、
「キャー御免なさい!」
と更に顔を真っ赤にして平に謝っていた。
「ハハハ良いんだよ。
丁度通りかかったら、
ケーキのバイキングとか聞こえたからね」
「矢野さんケーキ好きなんですか?」
「僕、甘いものには目がないんだよ。
新しいものはチェックする様にしてるんだ!
そのバイキングどこに出来たの?」
そう尋ねると、
「彼女さんと行くんですか?」
と来た。
やっぱりこの年になるとスイーツもそうだが、
恋愛方面にもやっぱり興味があるらしい。
「ん? ま〜そんなとこかな?」
と答えると、
「きゃ~」
と一斉に黄色い声を出した後、
「じゃあ、ちょっと待って下さいね」
そう言ってよっちゃんは、
カバンの中からさっとメモを出して、
住所と地図を書いてくれた。
「はい、これどうぞ」
見ると、それは要君の
デザインしたメモ帳だった。
「このメモ帳、使っていてくれてるんだ」
そう言うと、彼女は
“?”
としたようにして僕を見てニッコリ笑うと、
「この絵、凄く好きなんです。
私、パステルカラーが一番好きで、
これを書いた人の絵、最近中高生女子の間で人気あるんですよ!
小物とかも色々と豊富に揃ってますよね。
私の部屋はこの人の物で埋まってるんですよ!」
「そうだよね~
私も好きだけど、
よっちゃんの部屋特別に凄いよね~
もうパステルだらけで……
でも確かに沢山あっても、
雰囲気が柔らかくって落ち着くよね~」
と思いがけない情報を掴んで、
自分の事の様にとても嬉しくなった。
「バイキング情報有難う。
是非、行ってみるよ!
お礼序でと言っちゃなんだけど、
そのメモのデザインしたのはね、
ほら、あそこに居る彼なんだよ。
あとで話に行ってあげると喜ぶと思うよ!」
そう言って要君を指差すと、
彼女はまるで有名人を見るかの様に緊張し始めた。
「ぎゃ~ どうしよう、
ね、私の髪、ちゃんとしてる?
リップは何処にしまったっけ?
制服は皺になってない?
トイレは何処~
鏡見に行かなくっちゃ!?」
僕がハハハと笑っていると、
「ここ、今だとオープン記念で20%オフだそうですよ!」
そう言って彼女は友達を引き連れて、おトイレへ走って行った。
トイレへ駆けて行く彼女達の
ヤングパワーに押されたように見送っていてると、
トイレに続く角の所に一人で佇んでいる男子生徒が目に入った。
“友達、おトイレかな?”
そう思って振り返り、
直ぐに目に入った生徒たちに話し掛けに言った。
「どう? 今日は楽しんでる?」
数人の男女で固まっていた生徒たちに声を掛けた。
「へへへ絵ってよく分からなくって〜
でも楽しんでますよ!」
まあ、このくらいの年の子達って
美術品なんかには興味を持つ子はいないだろう。
居たとしても全体の10%にも満たない。
「質問があったらなんでも聞いてね」
そう言ってまた別の生徒達の間を渡り歩いた。
僕には関係の無い事だけど、
結構色んな情報が入って来て面白かった。
女の子達は殆どが食べ物か恋バナ。
男の子達は殆どがスポーツ。
中には後継者曰く、
きっと企業の跡取りたちのお家問題の愚痴。
勿論男子生徒も恋バナと言うよりは、
頭の中はあの事ばかり……
流石ティーンエイジャー……
でもこの年の子供たちが何を考えているのか
ちょっとわかったような気がした。
僕もこの年には思っていた筈なのに、
年と共に忘れて行ってしまう。
陽一君の年代と同化したようで
少しワクワクした。
『夏になったら俺は一発キメるんだ〜』
とワイワイやってる男子学生とか、
『ねえ、先輩とはどうなってるの?』
『受験態勢に入るからもう別れようって言われた』
『呆れた! 続ける気無いって事よね。
やっぱりあの噂は本当だったんだ〜』
『ほかの子と歩いてたって噂でしょ?
大丈夫、あれお姉さんだから』
『そっか、じゃあ、先輩よりいい人見つけないとね!』
『うん、でも私も高校生になるまで彼氏はもう良いかな?』
等の恋バナとか、
『お前ん家さ、こんど新しくシンガポールに進出するんだろ?』
『お前、よく知ってるな』
『ああ、親父がそんなこと言ってたからな。
お前も同行するんだろ?
見習えって煩く言ってたからな〜
俺、家継ぐ気は全く無いっちゅ〜の』
後継ぎ問題など……
皆様々だ。
皆本当に次から次へと
会話の内容が思いつくなと感心してしまう。
楽しいけどもこのパワーには
もう付いて行けないかもとも思った。
要君の方を見ると、さっきの女の子達が
囲んで、サインをねだっているようだった。
その光景が少しおかしかった。
最近は色々と悩むことが多かったので、
今日は気分転換になって良かった。
でも恋愛に関しては、
僕もあまり中学生と変わらないかもしれない。
もしかしたら、年をとっても、
基本的にはティーンと変わらない。
ティーンの方がどちらかと言うと、
純粋な気持ちで恋愛をしているかもしれない。
そうだな。
何時でもこの純粋さを忘れずだな。
年を取ると、知識だけが増えて、
駆け引きを覚える分厄介だ。
少しそん面ではリフレッシュしたような気がした。
もう一度館内を見回すと、
トイレへ続く角に居た男子生徒が、
一人で一つの絵の所に立っているのがうかがえた。
“あれ? 友達を待ってたんじゃ無かったのかな?”
そう思い、大久保さんの所へ行って尋ねた。
「ねえ、あの生徒、さっきからずっと一人だけど、
友達いないの?
いじめられたりしてるんじゃないよね?」
大久保さんはその生徒を見ると、
「あ~ 木村君ね。
彼ね、何があったのか分からないんだけど、
とても友達を作ることを怖がってるんだよね。
もともと大人しい生徒だったんだけど、
この前の第二次性の結果が分かって以来、
更にふさぎ込んじゃって……」
「ねえ、彼ってもしかしてΩなの?」
「そうなのよね~
訳を聞いても話してくれないし、
三者面談の時だって、
別に親に虐待されている風でも無かったのよね。
母親が来たんだけど、
家では普通にふるまってるみたいで、
私もちょっとお手上げなんだよね~」
「ちょっと話に行っても大丈夫かな?」
「う~ん、怖がられるって事は無いと思うけど、
何も話してくれないと思うよ?」
「分かった、ちょっと様子見て来るだけにする」
そう言って僕は彼の所へと近ずいて行った。
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