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第35話 ケーキバイキング3

「え? 発情期?」 最初聞き間違えたのかと思った。 「うん、発情期」 木村君が尋ねたのは間違いなく発情期に関してだった。 「いや、僕はまだだよ。 かなちゃん、あ、僕のお母さんね、 かなちゃんは高校一年生の時だって言ってたから、 僕もその頃じゃないかな?って話はしてる。 お祖母ちゃんもその頃だって言ってたしね」 「じゃあ、君のお祖母さんもΩなんだ……」 「そうだよ。それにね、お祖母ちゃんも男なんだよ」 そう言うと木村君はびっくりして僕を見た。 「どうしたの? そんなに男性のΩが珍しい?」 「だって、僕の周りには……」 「Ωは居ないの?」 「女性のΩでさえも見たことがないよ?」 「そうなんだ? 僕は男性Ωの中で育ったからあまり気にした事無かったな〜 木村君の両親は? どちらかがΩじゃないの?」 「ううん、僕の両親も、両祖父母も、兄弟姉妹だってβだよ」 「そうなんだ…… だったら僕のお祖母ちゃんと一緒だね。 僕のお祖母ちゃんはβの両親から生まれたんだよ」 そう言うと、木村君の顔の加減が微妙に変わった。 ちょっと難しい顔をしていたけど、 角が取れたような、緩んだ様な顔つきになった。 「本当に? 間違いじゃ無い?」 僕はコクコクと相槌をうって、 「確かだよ。 お祖母ちゃんだけじゃなく、 時々そう言う人達が居るってのも聞くよ?」 と返事をすると、 木村君は明らかにホッとした様にして、 「そうなんだ〜 僕だけじゃなかったんだ~ 僕、本当は両親の子供じゃ無いんじゃないかって凄く悩んでて…… でも誰にも言えなくて……」 と言った。 「そうか~ そう言えば、そいう風にも取れるよね。 そう思うと、僕の周りって結構変化球だらけだったんだね。 僕の場合、いろんな状況がまじりあってるから、 余り疑問に思った事がなかったや…… でも良く考えればそうかもだね…… まあ、これが血液型だったらアウトかもだけど…… 第二次性だから何も心配しなくても良いと思うよ? それとこれはちょっとちがうけど、隔世遺伝って言ったら、 ほら、かなちゃんってちょっと見では外国の血入ってる?って感じじゃ無い?」 そういうと木村君はかなちゃんを見直して、 「言われて見ればそうだよね。 色素薄いのかなっては思ってたけど……」 と言った。 「お祖母ちゃんはね、もっと外国人顔してるんだよ。 でもお祖母ちゃんの両親は普通〜の日本人顔。 でもずっと遡った何処かに、北欧の血が入ってるみたい。 隔世遺伝だね。多分そこらへんがΩだったんだと思う! だから木村君もきっとご先祖さまにΩが居たんだよ!」 「そうか、それだったら安心だけど…… でもどうして僕だけΩに生まれたんだろう……」 そう言って木村君はため息をついた。 「なにか不都合でも有るの? 確かにΩって希少だし、 βの両親からしたら戸惑うことばかりかもだけど、 今では昔よりも知識も広がったし、 補助もしっかりしてるから、 育てやすくなったってお祖母ちゃんが言ってたよ。 それに、つがいができるって、ちょとロマンチックじゃ無い?」 僕がそう言うと、木村君は少し複雑な顔をした。 でも、ケーキを取って戻ってきたかなちゃんと矢野先輩に僕たちの会話は遮られた。 2人が席に着くと、矢野先輩が離し始めた。 「僕ね、これだけ男性のΩが揃う事は余りないと思うんだ。 折角知り合えたんだから、何でも聞きたい事は聞いてね。 特に要君は大先輩になるから!」 そう先輩が言うと、木村君は頷いていた。 そこでまず、矢野先輩が自己紹介をした。 「僕の名前はもう知ってると思うけど、 矢野です。 この中で唯一のαで~す。 要君とは高校の時の先輩後輩でね、 もう二人で色んな事経験したよね~」 先輩がそう言うと、かなちゃんが、 「ちょっと先輩! 何言ってんですか! 誤解を招くような変な言い方しないで下さい! 全く、全然違うんだよ。 こんなオジサンの言う事は軽く聞き流してね。 僕は佐々木要。 Ωで正真正銘、陽一を産んだ男性Ωです」 と突っ込んでいた。 この姿はお父さんが現れる前から変わっていない。 何かあれば先輩はかなちゃんにちょっかいを出している。 こういう先輩を見ると、 今でもかなちゃんの事が好きなんじゃないかと思ってしまう。 勿論先輩は違うと言っている…… でもどこかかなちゃんを引きずっているような気さえしてくる。 勿論かなちゃんは上手に?そう言った先輩をあしらっている。 かなちゃんがお父さん一筋なのは一目瞭然で、 先輩もその事は百も承知だ。 かなちゃんが自己紹介をすると、 木村君が口を開いた。 「あの…… 男性でありながら子供を産むって 抵抗ありませんでしたか?」 彼のその質問に、 “あ~ そこに抵抗あるのかな?” と僕は思った。 僕はお祖母ちゃんも、 かなちゃんも男性Ωで出産をしているので、 やっぱりその事に対しても、普通に思っていて、 抵抗という抵抗は無かった。 どちらかと言うと、それが当たり前のように思っていた。 かなちゃんは、 「う~ん、はっきり言うと、 余り意識して無かったかな?」 と答えた。 多分そうだろう、自分の母親も男性Ωだから…… でも続けて、 「でも、運命の番は絶対見つけるぞって 意気込んでたけどね~」 と言った。 その時、木村君の体が僅かに ピクッと硬直したのを僕は見逃さなかった。 その後矢野先輩が、 「そうだったよね。 要君、本当に頑張ってたよね」 と続けた。 「先輩だってそうじゃないですか~! 小さい時から運命の番を探してたでしょう?」 そう言って2人が交互に会話を交わした後に木村君が、 「佐々木さんってご主人と運命の番なんですか?」 とびっくりした様にして尋ねた。 それを矢野先輩が、 「そうなんだよ。 僕の方が先に要君に会ったのに、 僕の幼馴染に持ってかれちゃったよ~ 何と二人は運命の番だったんだよ~」 と付け足した。 木村君はわずかに震えていた。 僕は、 “どうしたんだろう? 木村君も、運命の番に憧れている一人なのかな?” と思った。 最近は皆運命の番について伝説化させていて、 そんなものは伝説上の物語だと思っている節がある。 運命の番について、 気軽に友達と話せなくなってきているのは確かだ。 だから僕も両親の事は皆に話さない。 どうせ馬鹿にされて、嘘つき呼ばわりされるのが落ちだから。 でも木村君はちょっと感じが違った。 「どうしたの? 大丈夫?」 僕が木村君に声を掛けると、 「ねえ、この後陽一君の所に行っても良い? 少し話したいことがあるんだ」 そう言って彼は僕に耳打ちした。

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