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第36話 木村君をお招きして

ガチャリと玄関のドアを開けた途端、 奥からパタパタと駆けてくる足音が聞こえた。 「要〜」 と出迎えてくれたのは勿論お父さんで、 呆然とそこに立つ木村君に唖然としていた。 お父さんは状況を把握したのか、 かなちゃんがそこにいないのを認めると、 真っ赤になって“テヘヘ”と言いながら頭を掻いた。 最近お父さんはお祖父ちゃん化している。 まあ、自分の父親とは縁を切り、 かなちゃんのお父さんを師と仰ぐくらいだから、 祖父ちゃん化するのは分かりきっている事だろうけど、 お父さんのかなちゃん命は本当に息子の僕から見ても目に余る。 そっぽど離れていた時のことがトラウマになっているんだろう。 照れながら、 「いらっしゃい」 と木村君に言う姿は出来れば見せたく無かったと思った。 木村くんはそんなお父さんを一眼見ると、 「初めまして。 陽一くんの友達で木村と言います。 よろしくお願いします」 と丁寧に挨拶した。 「ねえ、ねえ、陽ちゃん、 要君は〜? 一緒には帰ってきてないの〜?」 とお父さんとしては、早くかなちゃんに会いたいようだ。 「かなちゃんは先輩の所に寄って来るって言ってたよ」 そういうと、 「浩二の奴〜 陽ちゃん、あ〜ちゃんの事ちょっとお願い!」 そう言ってドアから飛び出していった。 あの勢いだと、矢野先輩の所に突撃するのだろう。 「ホント、お父さん、 お母さんの事になると周りが見えなくなるよね。 それも、矢野さんが絡むと! お兄ちゃんに私を頼むだなんて、 もう子守の必要な年じゃないわよ」 そう言ってリビングでは、 妹のあ〜ちゃんが腕を組んで立っていた。 そんなあ〜ちゃんを、 またまた呆気に取られて 木村君が口をポカンと開けて見ていた。 「ごめんね、騒がしい家族で……」 僕がそう言って謝ると、 「いや、ダイナミックで面白い家族だね。 僕は好きだよ。 行動はアレでも凄いカッコイイお父さんだね? 妹さんも歳のわりには、しっかりして綺麗な子だね」 そう言う木村君にあ〜ちゃんが、 「あなた話が分かるわね。 歳の割には余計だけど、お兄ちゃんのお友達?」 と尋ねた。 「そうだよ、僕、木村葵って言います。 中学二年生だよ」 そう自己紹介すると、 「初めまして。 佐々木愛里です。 佐々木家の紅一点よ」 とあ〜ちゃんも自己紹介した。 木村君は興奮したようにして、 「本当に男性一家なんだね」 と目をキラキラさせていた。 「あ〜ちゃん、僕たち折り入った話があるから、 僕の部屋へ行っても良いかな? 暫くリビングに一人になると思うけど……」 そう尋ねると、 「どうぞ、どうぞ。 私は読みかけの本を読んでるから ごゆっくり〜」 そう言って、テーブルに伏せておいた読み掛けの本を取って、 ソファーに腰掛けた。 「じゃあ木村君はこっちへ」 そう言って僕の部屋へと案内した。 「ベッドでも椅子でも好きな方に座って。 何か飲み物は?」 そう尋ねると、木村くんは 「バイキングでお腹いっぱい。 どうぞお構いまく」 そう言いながらベッドに座ったので、 僕は椅子に腰掛けた。 「あのさ……」 木村君が話を切り出した。 「どうしたの? 何か相談事?」 「僕、陽一君に会えてすごく嬉しい。 これまで僕の悩みを相談できる人がいなかったから、 一人で悶々として、不安で……」 「と言う事は、Ωに関する事?」 そう言うと、木村くんは大きく頷いた。 「そうだよね、周りにΩが居なかったら 分かってもらえない事多いよね。 僕でどれだけ役に立つか分からないけど、 少なくとも話は聞いてあげられるよ。 それに木村君さえ良ければ、 かなちゃんやお祖母ちゃんにも 話を聞いてもらう事も出来るよ。 なんてったて彼らは経験者だからね」 「有り難う。 凄く心強いよ」 そう言って木村君は涙ぐんだ。 きっと凄く不安で一人で頑張って居たんだろう。 男の自分がΩだと言う事にいっぱい、いっぱいだったんだろう。 「ねえ、陽一くんの発情は未だだって言ってたけど、 平均すると、何時位なのか知ってる?」 へ? そんな事は考えたこともない。 時が来ればって思ってたくらいだ。 「僕はハッキリとは分からないけど、 かなちゃんも、お祖母ちゃんも、 高校一年生って言ってたから僕もその頃かな? とは思ってるけど…… 木村君はどう思うの?」 その問いに木村君は、 「実はね、僕もう発情期来ちゃって……」 との告白に僕は面食らった。 「へ? もうなの?」 そう僕が尋ね返すと、 木村君はコク・コク・コクと何度も頷いた。 「話では男性のΩの発情は遅いって聞いてたんだけど 僕はちょっと違ったみたいで……」 ちょっとそこに沈黙があった。 「あ……いや……ゴメン、ちょっとびっくりしちゃった。 僕は平均年齢なんて全然気にして無かったから 考えた事無かった。 かなちゃんやお祖母ちゃんからこうなんじゃない? ってのは漠然として聞いてたから、 何の疑問にも思わなかったよ…… 僕、実際はどうなのかわからないや…… ごめん、あんまり助けにならないね? かなちゃんに相談してみる? でも、その事が木村君が相談したかった事なの? まだほかにある?」 僕がそう尋ねると木村君は直天井に目を向けて、 暫く静かになった。 きっとまだあるんだ。 木村君の様子からそう取れた。 木村君が話し出すのを待っていると、 彼が静かに話し始めた。 「それもね、一理あるんだけど、 実を言うと、発情期が来た時の状況の方が気になって……」 「え? 発情期来た時の状況って……」 「うん、もし陽一君がもう発情期が来て居たんだったら、 どうなんだろうと思ったんだけど、 バイキングでは未だって言ってたから、 お母さんやお祖母ちゃんから何か詳しい事聞いてるかな?って思って……」 「そうか…… 発情期来たときの状況か…… 僕もそれは気になって前にかなちゃんに聞いた事があるよ…… 経験して無いから、 漠然としたものだったんだけど、 好きな人ができたらとか、 番が現れたらとか、 運命の番に出会ったらとか…… そんな話だったと思うんだけど、 それだったらかなちゃんやお祖母ちゃんの方が詳しいと思う。 ねえ、今日泊まっていきなよ。 そしてかなちゃん含めて今夜はΩ同士で語り合おうよ?」 「え? でも、お父さんは…… 迷惑じゃ無い?」 「ハハハ、彼はね…… う~ん、大丈夫だと思うよ?多分ね」 そう言ったところで、 かなちゃんがお父さんと、 「ただいま〜」 と帰ってきた。

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