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第40話 木村君の話
「あの…… 僕の話を聞いてくれますか?」
木村君は不安そうにそう言った。
「勿論だよ!
その為のお泊り会でα諸君を追いだしたんだから!
今夜は心行くまで、じっくり、みっちりΩ同士で話をしよう!」
かなちゃんがそう言うと、
木村君は安心したように話し出した。
「僕の家は新興住宅地に立っているんですけど、
去年の春に近くに出来た新しい家に、
新しい家族が引っ越してきたんです。
母親たちは直ぐに仲良くなったらしいんですけど、
子供たちの年齢層が違うから、
家族としての交流はありませんでした。
だから僕もその家族はあまり知らなくて、
ただ叔母さんに会った時に挨拶するくらいで。。。。
実際に家の両親の方が一回り位、上だとも思うし……
でも、ある日学校帰りに、
何だか良い匂いがするな~って
フラフラと匂いのする方まで行ってみたんです。
今まで嗅いだこと無いような匂いで、
何て言うんだろう?
何だかちょっと体がムズムズするような……」
木村君がそこまで言った所で、
かなちゃんが、
「あっ!」
と大声を出したので、
僕と木村君は少しビクッとした。
「あ、ごめん、ごめん、
折角の話を中断させてしまったね。
僕にも同じような覚えがあったから……
先ずは木村君が先に話を終わらせて?」
そうかなちゃんが言ったので、
木村君は続けてその話をした。
「僕、何でこんなところではしたないなって思ったんです。
でも丁度その頃、学校で友達とエッチな事について
頻繁に話すようになっていて、
友達が言っていた血が逆流して、
全神経があそこに集中するって言ってたのとは
ちょっと違うなって思って……
それでその匂いに誘われるように、
匂いのする方へ行ってみると、
土手の所で泣いている子を見つけたんです。
小学校、低学年くらいの子で……
あ、ちょうど愛里ちゃん位かも……
で、“僕、どうしたの? 大丈夫?”
そうやって声を掛けたらその子が振り向いて……
僕を見たその子が途端安心した様にブワット涙を流して、
その涙にのって匂いも強くなって、
僕、年甲斐もなく、その幼い子にドキドキしたんです。
話を聞いてみると、
その子は鍵っ子で、
友達と土手で遊んでたら家の鍵を亡くして
探しているうちに、迷子になって、鍵は見つけたらしいんですけど、
今何処にいるのか分からなくなったって。
それで泣いてて、携帯をその日に限って家に忘れて来たって……
それで住所を聞いたら、
僕んちの近くに引っ越してきていた家族の子だったんです。
だから、近所だから連れて行ってあげるって。
それで、手を引いている時もドキドキして、
次第に体が熱くなって、急に汗が出始めたんです。
逆にその子に、
“お兄ちゃん大丈夫?” って心配されて……
まさか自分が興奮してるって言えませんよね。
その間も匂いが凄いんです。
その子から漂ってきているのは間違いありませんでした。
その時の僕の第二次性はまだ分かっていなかったので、
まさかそれが発情だとは思っていませんでした。
家族みんなβなので、ずっとβだと信じて疑わなかったんです!」
「その時の木村君って何歳だったの?」
「中学校に入学したばかりの頃でした。
もう直ぐ、第二次性の検査があるってところでした」
「そうだったんだ。
びっくりしたよね?」
「それから家に帰って、
もう震えが止まらなくて……
抑制剤も無いし、
両親も居ないし、
家に鍵かけて、窓閉め切って、
毛布にくるまって、両親が帰って来るのをジーっと待ったんです。
その間も体が疼いて、疼いて……
もうどうしようもなくて、どうしようもなくて、
どうしていいかもわからなくて……
自慰なんて殆どしたこと無かったし……
ごめんなさい、生々しい話で……
でも体の熱も引かなくて……
息苦しくて……
死んじゃうかと思うくらい苦しくて……
お母さんが帰って来た時は僕は気を失ってて、
気付いた時は救急車で病院に運ばれた後でした。
その事でお父さんとお母さんが僕を巡って喧嘩し始めて……
Ωの僕が産まれたのはお母さんがΩと浮気をしたせいだって……
お母さん、毎日、毎日泣いて……
僕凄く申し訳なくて……
あ、両親の事は今ではもう和解して大丈夫なんですけど……」
「そうか~ まだ第二次性に関しての遺伝は
あまり普及されて無いからな~」
かなちゃんがそう言うので、
「βの両親からΩが生まれるのって珍しいの?」
僕はそう尋ねた。
「そうだね、あり得ない事では無いけど、
レアだと思う。
勿論、βの両親からαが生まれる事もあるし、
αの両親からβやΩが生まれる事もあるからね。
僕は今まで、Ω同士のカップルに会ったことは無いけど、
実在していたらきっと、
Ω同士のカップルからも、
βやαが生まれる事もあると思うよ」
そうかなちゃんは言った。
「じゃあ、木村君のご近所に引っ越してきた子って……」
僕がそう言うとかなちゃんが、
「多分、高い確率で木村君の運命の番なんだろうね」
とそう言った。
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