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第41話 木村君の話2

「運命の番? だって彼…… 8歳ですよ? そんな事ってあるんですか? 僕の発情期が来た時、偶然にそこに居たのが彼って事は無いんですか?」 「それもあり得るだろうけど、 彼から匂いがしたって言うのは、 きっと木村君のフェロモンが、彼のフェロモンに反応したんだよ」 「でも彼、未だフェロモンも出せないような歳の子どなんですよ? そんな事って可能なんですか?」 「そうだね、普通だったら誰も気付かないだろうね。 でも、運命の番って言ったら、 話は別だよ。 彼は未だ身体的にも、 メンタル面でも未熟だから 木村のフェロモンが分からなかったってだけで、 もし彼が10歳位だったらどうなっていたか 分からなかったかもね。 性の成長が早い子は、それ位の歳ではって事もあるからね。 それにΩの方が、フェロモンの匂いを 嗅ぎ分けるスキルに対しては優れているかもしれない……」 そう言ってかなちゃんが僕をチラッと見た。 かなちゃんの目線は気になったけど、 「そっか~ 良いな〜 木村君は既に運命の番に出会ったのか~」 と僕は羨ましそうにそう木村君に言った。 「そっか…… やっぱりこれって運命の番だったんですね。 もしかしてって思いは、ほんの少し過ったんですけど、 確信無かったし、かと言って誰かに聞ける訳でも無かったし……」 そう言う木村君に、 「でもその子って小学校低学年?って言ってたよね? じゃあ、その子が木村君に気付くのは、 もうしばらくかかっちゃうね。 でも、もしかしたら、何らかの感情はもう芽生えているかもだね」 かなちゃんがそう言うと木村君は、 「恐らく…… あの時以来、 お兄ちゃん、お兄ちゃんってまとわりついて来るんです。 僕のこと、良い匂いがするって…… 向こうは僕が香水か何か付けてるって思ってるみたいなんですが…… 僕の匂いに誘発されたってのはまだありません。 でも、彼に会う度に僕が……」 そう言って悩んでいる木村君が僕は凄く羨ましかった。 少なくとも、彼が成長するのを見守ることが出来る。 悪い虫が付かない様に見張ることもできる。 でも僕の相手は33歳の立派な大人だ。 僕が見ていない所では、 僕の考えも及ばないことが出来る歳だ。 悪い虫が付かない様に見張る事も出来なければ、 悪く言うと、僕が発情期来る前に、 僕の知らない所へ飛んでいく可能性だってある。 木村君も年の差を気にしているようだけど、 僕と比べたら6歳差何て屁の様なものだ。 直ぐに6歳差何て気にならない時が来る。 でも僕の20歳という年の差は、 どんなにあがいても、どんなに背伸びしても、 どんなに年を取ろうとも、 世間は良い目では見てくれない。 「あの…… 僕はこれからその子と、 どのように接していけばいいのでしょうか?」 木村君の問いに、 「そうだね~ その子の近くにいて木村君の症状が抑えられないんだったら、 きついかもしれないね…… 抑制剤は常用するものじゃないし、 注射薬だって緊急用だし…… ねえ、今掛かっているドクターには相談してみた?」 かなちゃんがそう尋ねた。 「いえ、僕自身、どう説明すればいいか分からなかったし、 ドクター事態αっぽくて 僕の事ちゃんと理解してくれるかなってちょっと不安で……」 「そのドクターはどうやって選んだの?」 「あ、僕が救急車で運ばれた時のドクターでそのまま……」 木村君がそう言うと、 かなちゃんは少し考えた様にして、 「佐々木先輩の知り合いに、 Ω専門のドクターが居るんだけど、 会ってみる? 彼女はαなんだけど、 Ωの奥さんが居るんだよ」 「え…… じゃあ、αの女性がΩを妊娠させることが出来るって 本当だったんですか?!」 「あ~ うん、そうみたいだね…… 僕も自分の事で一杯、一杯で良くは知らなかったんだけど、 お子さんがいらっしゃるから、 そう言う事なんだろうね……」 「何だか凄い世界ですね。 第二次性って奥が深くてまだまだ未知の世界なんですね~ そうですね、そのドクターに予約取れるように計らってもらえますか? 仕える手は何があっても使いたいです!」 それが木村君の答えだった。 僕はそこで少し疑問があったので、 木村君に聞いてみた。 「ねえ木村君、 木村君は運命の番を見つけたけど、 その子はまだ8歳でしょう? その子に対して恋愛感情あるの?」 僕がそう尋ねると、 木村君の顔がブワッと真っ赤になった。 そして彼からふんわりと柔らかい香りがしてきた。 「あ……この香り……」 僕が言うとかなちゃんが、 「Ωのフェロモンだね。 ハハ、そっか〜 木村君、そうだね、ようだよね。 番がいる佐々木先輩は良いけど、 これくらいだったら自我の強い矢野先輩は大丈夫だろう……」 と言った。 木村君は更に真っ赤になって、 「ごめんなさい、 ごめんなさい」 としきりに謝っていた。 そこに矢野先輩がダダダダダと走って僕の部屋に来た。 そしてドアをバーンと開けると、 「もしかして陽一君……」 と慌てた様にしてしていた。 でも、真っ赤になってうろたえる木村君を見て、 ホッとしたような表情をした。 「もしかして木村君?……」 「先輩、ほら、αはあっち行って! ここはα禁止です!」 そうかなちゃんが言ったので、 先輩はスゴスゴとリビングに戻って行ったけど、 多分先輩には木村君には 既に発情期が来てる事が分かったはずだ。 「何慌ててるんだろうね、あのオジサン。 きっと陽ちゃんに発情期が訪れたと思って ビックリして飛んできたんだろうね。 なんたって陽ちゃんの事、 陽ちゃんが小さい時から大好きだからね」 そうかなちゃんが言った事に、 木村君が意味深な目で僕の事を見ていた。 今度は僕が真っ赤になる番だった。 「そっか~ 陽一君、そっか~」 と木村君は繰り返していたけど、 かなちゃんは僕達のやり取りを見て、 ただ静かに微笑んでいた。 それからいろんな話をして、 気が付けば僕達は、みなベッドに並んだようにして 丸まって眠っていた。 夜中も過ぎたであろう頃、 コトンと小さな音がして目が覚めた。 “あれ? お父さん……” うっすらと目を開けると、お父さんが僕の部屋に居た。 木村君も気配に気付いて起きたようで、 お父さんの立っている方をボーっと見ていた。 僕達が起きたことに気付いたお父さんは、 唇に指を当て、シーっと静かに囁いた。 そしてお父さんは、 僕のベッドで寝ているかなちゃんにキスをすると、 軽々と抱き上げ自室へと消えて行った。 それを見ていたの僕と木村君は目をあわせ、 「かーっこいい!」 と二人でワイワイと感動していた。 お父さんのそんな姿を見たのは初めてだ。 何時も冗談のようにバカばかりしているので、 時々お父さんの頭を疑いたくなる。 “なんだお父さん、 やればちゃんとカッコよく出来るんじゃん! 本当にかなちゃんの事大好きなんだな……” と少し見直した。 途端、凄く矢野先輩の傍に行きたくなった。 ソワソワしていた僕に木村君は気付いたのか、 「陽一君って矢野さんのこと恋愛の意味で好きなんでしょう? 傍に行きたいんでしょう?」 と、ボソッと僕に呟いた。 「うん、ごめん、僕、凄く先輩の隣に行きたい……」 なんだかお父さんとかなちゃんに当てられたみたいだ。 「じゃあ、僕も行くよ。 2人だけで寝てたら、きっと明日の朝、 君のお父さんもお母さんもびっくりすると思うから」 木村君はそう言うと、布団をクルクルと丸めて、 “よいしょ” と肩に抱え上げた。 「凄いね、やっぱりそう言う所は男の子だね」 そう言うと、僕達はお父さんたちに聞こえない様に ハハハと静かに笑って、 矢野先輩の寝ているリビングまで忍び足で行った。 リビングの床に横たわり、 スースー眠る先輩を見つけた時は、 胸が苦しくなる思いだった。 “やっぱり凄く好きだ……” 早速布団を横に敷くと、 僕と木村君はそこに横たわった。 一瞬先輩はう~んと言って寝返りを打ったけど、 よく眠っているようだった。 木村君の少年に対する気持ちは、 木村君の態度で理解したような形になったので、 自分と比較するためにも、 もっと聞いてみたいと思った。 でも二人共凄く疲れていたので、 その夜はそのまま眠りに落ちてしまった。 朝起きると、すでに起きていた先輩が、 訳が分からないと言う様な顔で横に眠る僕達を眺めていたので、 遅れて起きた木村君と僕は、 先輩のそんなアホっぽい顔を見て、 ゲラゲラと笑っていた。

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