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第44話 ポール親子
僕は空港が大好きだ。
最近は学校でも進路について話すようになってきている。
パイロットまでとはいかなくても、
何か飛行機に関する仕事がしたい。
ライトアテンダントも魅力的だけど、
長距離フライト中の、
Ωに対する対策がどのようにされているのかまだわからない。
でもできれば、飛行機に乗って世界を回る仕事がしたい。
僕が一番最初にある記憶は、
フランスから日本へ帰るときに乗った飛行機だ。
そこで挨拶してくれたフライトアテンダントの
お姉さんの笑顔は素敵だった。
そのあと何度も飛行機には乗ったけど、
その時のお姉さんの笑顔が僕は一番覚えている。
その時にもらったプラスチックの飛行機もまだきれいにとってある。
「かなちゃん、僕ちょっとコンビニまで行ってくる」
僕は時計を見ながらそう言った。
「分かった。
ポールたちの飛行機はもう到着してるみたいだから、
入国審査終わり次第、すぐに出てくると思うから
あまり長くならないように!」
そう言って僕は空港の端にあるコンビニまで歩いてきた。
のどが渇いていたのでお茶と、
小腹を満たすためのおにぎりを二つ買った。
買い物を終えて到着ロビーまで行くと、
まだポールは出てきていなかった。
「ポールはまだ?」
そういうと、
「あれ見て……」
そう言ってかなちゃんがロビーの一角を指さした。
「ウワ~
これ、レポーターたち?
どっから嗅ぎ付けて……」
僕はポールの未だ劣らない知名度に度肝を抜かれた。
なんとポールは報道陣につかまって、
質問攻めにさているようだった。
そこに僕を見つけたジュリアが、
「あ~ 陽一!」
と大声を出して僕のほうへ向かってくるので、
ジュリアと一緒に報道陣も動き出した。
“ヤバイ!”
そう思ったのも束の間、
僕たちの映像は全国に報道されてしまった。
そして僕は今、僕にまとわりつくジュリアを横に、
矢野先輩と一緒にというか、
僕の家に夕食にお招きされた矢野先輩の前にひきつったようにして座っていた。
「浩二も久しぶりだね。
ビジネスのほうはどう?
うまくいってる?」
ポールのその問いに
矢野先輩も僕にまとわりつくジュリアをチラチラと見ながら
「おかげさまで~」
とヒクヒクとしたように返していた。
それを見たポールが、
「本当にお似合いの二人だよね~
ジュリアは陽ちゃんのお嫁さんになるって
小さい時から花嫁修業してるんだよね~
ちょうどαとΩだし、
ぴったりだよね~」
とダメ出しをする。
先輩と一緒にお呼ばれしていたお祖父ちゃんと
お祖母ちゃんも、ポールの頭をスコーンと叩いて、
「そういうのは親が出たらだめだ。
子供たちの意思に任せなさい!」
とポールを諫めていた。
「司さんも、優さんも、もっと言ってあげて下さい。
ポールったら、ちっとも僕の言うことを聞いてくれないんです。
そりゃあ、陽一君がジュリアをもらってくれたら
すごくうれしいんですけど、
やっぱり陽一君の気持ちも……ね?」
そう言って良さんは矢野先輩の方をちらっと見た。
僕は、
“え? え? え? え~~~~!!”
状態だった。
“なんで? なんで? なんで~?
僕ってそこまで分かりやすい?
嘘でしょう? 嘘でしょう? 嘘でしょう?
あっ! きっとかなちゃんが話したんだ!”
そう思ってかなちゃんをみると、
彼はさっと顔を僕からそらした。
“やっぱり……
と言うことは……
ポールも知ってるのか?
だからこの態度なのか?
まさかジュリアにまでは言ってないよね?”
僕は泣きたくなってきた。
本当にこの中にあって、
気が付いてないのは矢野先輩のみくらいだ……
ここまでくると、
後はこれでも気が付かない矢野先輩にイラっと来るだけだった。
その時僕の携帯がなった。
「あ! 木村君だ!
ジュリア、ちょっとごめんね」
僕はそう言うと、ジュリアを腕から離し、
天の助け!とそそくさと自分の部屋へと行った。
通話ボタンを押すよりも早く木村君が、
「ちょっと! 夕方のニュースで見たけど、
あれって陽一君とジュリアだよね?
僕あれからジュリアの事やポールについて
ネットで調べたんだよ!
あれは間違いなくジュリアだった!
なんでジュリアと陽一君が一緒にいるの~」
そう膜立てて息もつかないようにして訪ねてきた。
「木村君、落ち着いて、落ち着いて!」
そういうと、木村君はフ~、フ~と深呼吸をしていた。
「実をいうと、僕、ジュリアとは知り合いなんだ」
「え~ ジュリアと?
いったいどういう知り合いなの?
いつどこであんな有名人と知り合ったの?
もしかしてお母さんがフランスにいたときの繋がり?」
「まあ、それもあるんだけど、
ジュリアって僕の遠い親戚なんだ」
そういうと、携帯の向こうから、
開いた口が塞がらないとでもいうような雰囲気が漂ってきた。
「木村君? 大丈夫? 未だいる?」
「あ、ごめん、ごめん。
ビックリするような情報で……
陽一君の親戚だったなんてすごいね!
僕ネットで知ったけど、
ポールってすごいモデルだったみたいだね。
そんな人が親戚だなんて……
ずっと調べると、先祖は王様ってこともあり得るかも……」
そのくらい木村君はびっくりしていた。
「いや、王様は大げさだけど、
ポールは小さい時から一緒に住んでたから、
どっちかというと、僕にとっては親戚のお兄さんって感じで……
ジュリアだって別れたときはまだ話もできないときだったから
再開した今、あまり実感わかなくて……」
「ひゃ~ あのポールと一緒に住んでたんだ!
ということは、お母さんの方の親戚だよね?
陽一君の家系ってきっと美形揃いなんだね!
お父さんももちろん、すごいかっこいいけど、
男の人にこれ言ったらあれだけど、
お母さんもすごくハーフっぽくて可愛いよねっていうか、
綺麗だよね。
あ~ なんだかこうなったら、
陽一君のお母さんの両親も見てみたいや!」
と話がドンドン膨らんできた。
僕は仕方ないので、
苦笑いしながら、
「また今度機会があったらね」
というしかなかった。
「ねえ、陽一君は撮影現場に入ったりとかできるのかな?」
急に木村君がそう尋ねた。
「ポールに頼めばできると思うけど
どうして?」
「いやさ、大我君がだだこねちゃってて、
僕が一緒に行ってあげたら励みになるかなって思ってたんだけど、
僕、部外者だし、大我君の力では僕を忍び込ませるなんて出来ないからさ、
もし陽一君がスタジオに行けるんだったら、
僕も連れて行ってくれないかなって、フッと思っただけ。
無理だったら、全然いいんだよ」
木村君がとても深刻そうだったので、
「じゃあ、ポールに尋ねてみる。
僕が頼むと多分ポールはOKしてくれると思うけど、
それ、僕も一緒に行っていい?」
そういうと、木村君は
「もちろんだよ!
その方が僕も力強いし!」
と凄く喜んでいた。
会話を終えた後キッチンに戻ろうとしたら、
ドアのところに矢野先輩が腕を組んで、
壁にもたれかかり僕の方を見ていたのでびっくりした。
「びっくりした~
矢野先輩、どうしたの?
みんなと話はしないの?」
そう尋ねると、
「陽一君がジュリアとあんなに仲が良かったなんて知らなかったよ。
それに今話してたの木村君?
一緒に行くって……
どこに一緒に行くの?」
と、怒ったような顔をして僕の部屋に入ってきたので、
僕はびっくりしたようにして一歩下がった。
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