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第46話 撮影現場
ずっと前に、かなちゃんが
僕を生んだ時の事について話を聞いたことがある。
それは散歩中に不意に始まったお産についてだ。
ポールの撮影現場に近かったため、彼に助けを求め、
撮影中だったにもかかわらず、
かなちゃんをお姫様抱っこして撮影現場から抜け出して、
病院まで連れて行ってくれたらしけど、
撮影現場から有無を言わさず抜け出したポールを天晴だと思う。
僕は今いる状況の中で本気そう思った。
「陽一が来てくれるなんて凄く嬉しい!
日本に来てまでお仕事なんて嫌だったけど、
私、頑張っちゃうから!」
そう言ってジュリアは、またまた僕の腕に絡んできた。
「ねえ、向こうでお姉さんが呼んでるよ?
行かなくていいの?」
ジュリアは向こうの方をちらっと見て、
リョウさんがそこに立ってるのに気付き、
そっと僕の陰に隠れた。
リョウさんはツカツカとジュリアの所まで歩いてくると、
「ジュリア、早く準備しに行きなさい!
関係者の皆さんに迷惑かけたら分かってるよね?」
と、さすがのジュリアもリョウさんには頭が上がらないようだ。
「は〜い、もうママったらいつまでも私の事子供扱いして!
今まで迷惑かけた事一度もないでしょう?
それに私、現場ではとても聞き分けの良い子だって有名なのよ!
この前の打ち合わせだって、凄く褒められたのよ!」
そう言って迎えに来ていた
ファッション・コーディネートの人に連れて行かれた。
「陽一君ごめんね。
全くポールが甘やかすからワガママになっちゃって……
ずっと陽一、陽一ってすごく楽しみにしてたから……
でも陽一君も迷惑だったらハッキリ、
ビシッと言ってくれて構わないんだからね」
そうリョウさんに言われて何だかこの親子が微笑ましかった。
そして、
「向こうも苦戦してるみたいだね。
彼、大丈夫かな?
新人さんなんだよね?
確か陽一君のお友達の……」
そうリョウさんに指を刺され、
そちらの方を見てみると、
大我君を励ましている木村君が目に入った。
「そうなんですよね、
彼、モデルやりたくないみたいで……
でも両親にも逆らえないから
仕方なくやってるところがあるらしくって……
我儘な子ではないんですよ。
ただ、今は野球がやりたいって……
彼の友達は今日はリーグ戦に行ってるみたいで、
一人だけ仲間に入れなくて、それが凄くネックになってるみたい」
僕がそういうと、リョウさんが、
「そっか~
ジュリアとは正反対なんだね。
僕はジュリアには普通の女の子として育ってほしかったけど、
ポールの血かなぁ~
物心付いた頃にはもう、カメラの前でポーズ取ってたからね~
まあ、小さい時からポールのモデル事務所にも出入りしてたし、
ポールのモデル仲間からもちやほやされて育ったからね~
モデルはダメって言っても聞かなかったよ」
と教えてくれた。
「そうか~ ジュリアちゃんはそういう過程でモデルになったのか~
恵まれてるっていえば、恵まれてるけど、人それぞれだよね。
じゃあ、僕ちょっと木村君に声かけて、
大我君の激励に行ってくるよ」
「うん、僕はジュリアの方チェックしに行ってみる。
後で要君も来るって言ってたから、
又後でね」
そう言って僕は木村君の方へと歩いて行った。
今日はジュリアとポールの、
来日の目的である広告の撮影が行われていた。
ポールの助けもあり、
木村君も撮影現場まで来る事が出来た。
「大我君、調子はどう?」
木村君の背後から声をかけると、
大我君が自身無さげに僕を見上げた。
「こんな大きな撮影だなんて誰も教えてくれなかった。
いつもより人がいっぱいだし、
怖そうな人もいっぱいだし……」
大我君がそう言ったところで周りを見回すと、
確かに大掛かりな設定で撮影の準備がされている。
それに人出も多いし、
どちらかというと、ドラマの撮影現場のようだ。
そんな中にモデルになりたての、
やる気のない8歳の子を投げ込むのは酷なことかもしれない。
それにフランスから
ファッション関係者や記者団もやって来ている。
“そりゃあ、こんなデカい外国人が
分けの分からない言葉でまくし立てて、
一斉に囲んで見下ろせば恐縮だってするよな”
僕は大我君が少し哀れになってきた。
でも僕も、なんと言って慰めてあげれば良いのか分からない。
木村君と2人でオタオタとしていると、
現場がバタバタと少しうるさくなった。
何だか慌てたようにして忙しなく動きまわり始めた。
その時、
「いらっしゃいましたので、
皆さんよろしくお願いします」
と言いている声が聞こえた。
その時、少しザワザワとして、
「今日はよろしくお願いしま〜す」
と言って聞きなれた声がしたから、
後ろを振り向いた瞬間びっくりした。
僕は開いた口をパクパクとして木村君の方を向いた。
木村君の方を見ると、
木村君は顔を真っ赤にしてハフハフしていた。
「陽一君、あれ、あれ!」
木村君が、僕の肩をガッと掴んで、
震えている手でガシガシと揺らした。
僕はドキドキとしていた。
木村君に何と言っていいのか分からなかった。
とっさの事で、
「そ……そ……そうだね~
どうしたんだろうね?
今日一緒に撮影だったの~?
木村君は知ってた~?」
と聞いてみた。
「彼らが一緒だなんて全然聞いてないよ!」
それが木村君の答えだった。
本当に知らなかったらしい。
僕も、もちろん知らなかった。
「こんなところで会うなんて、
ほんと凄い偶然だね~……ハハハ……」
「いや、もう偶然っていうか、
撮影にも同行させてもらえる上に、
彼らにも会えるなんて、僕一生分の運を使ったかも……」
そう言って木村君は呆けていた。
「ねえ、大我君、彼らが撮影に参加するって知ってた?」
僕が大我君に尋ねると、一瞬彼らを見て、
「彼らかは分からないけど、
夫婦役の人が来るっていうのは聞いたよ。
親子のシーンがあるみたい……
それってあの人達の事かな?」
そう言ったので、木村君が興奮したようにして、
「ちょっと、ちょっと、大我君、
彼らが誰か知ってるの?!」
と尋ねた。
「僕、あまりモデル達知らないし……
彼らとは初めてだから分からない……
でもどこかで見たような顔だよね?
どこでだったっけ?
テレビ? 男の人の方はドラマに出てなかったっけ?
彼らがどうかしたの?
お兄ちゃんは知ってるの?」
その問いに木村君は、
「僕、写真一緒にとってサインもらえるかな?」
と答え、大我君は木村君の興奮様に、
少しムッとしたようにしていた。
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