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第48話 言葉の意味

あの先輩の劇的な告白からしばらく時間が経ち、 今は中学生になって初めての夏休みに突入している。 あの後、そこに居た僕達3人は、 先輩の言葉の意味を理解する事なく、 あの場を解散する事となった。 それはあの後直ぐに撮影が始まったから。 それまでは、どういった反応をしていいのか分からず、 緊張と強張った回らない頭で、 僕はただそこにボーっと立ち尽くしていた。 矢野先輩がお祖父ちゃんのお気に入りだということは、 かなちゃんからずっと聞かされていた。 それに一緒に住んでいれば、矢野先輩が訪ねてくる度の、 お祖父ちゃんの態度でなんとなくそれが分かってしまった。 だからお祖父ちゃんは、 矢野先輩のそのセリフをどう理解したのか分からないけど、 パーっと目を輝かせ興奮したようにして 「矢野く~ん、それ、陽ちゃんへのプロポーズ? ねえ、プロポーズなの? そこの所もうちょっと詳しく……」 と突っ込んできたので、 僕は凄く恥ずかしくて、 穴があったら入りたいと思った。 まさかお祖父ちゃんが、 そんなストレートに聞き返すとは思っていなかった。 でも、ジュリアと僕を結婚させようと目論んでいるポールはポールで、 「どういう意味? それ、どう言う意味〜」 とジリジリと矢野先輩に詰め寄っていた。 心の中で僕は、 “もうやめて~ お願いだからそっとしておいて!!” と叫ぶくらいしかできなかった。 本当は先輩に言葉の意図を知りたかったけど、 怖いという思いも同時にあった。 だから先輩が彼らの質問に どうこたえるのか凄く興味があった。 でも肝心の先輩は、 「どう言う意味ってそのまんまの意味ですよ! ね、陽一君」 と訳のわからない事を僕に振ってきたので、 僕は更に戸惑ったけど、同時に更に期待する思いも生まれた。 “え? もしかして本当に? 本当に先輩は僕の事?” そうドキドキしていたら、 「蘇我さんお願いしま〜す」 と声がかかった。 お祖父ちゃんは僕達を振り返り、振り返り 続きが聞けないので残念な顔をしていたけど、 先輩は涼しそうな顔をして、 ニコニコとお祖父ちゃんに手を振っていた。 ポールも準備ができて出番がやってきたジュリアに呼ばれて、 納得できない様な素振りでセットの方へと歩いて行った。 二人がいなくなった後直ぐ、 矢野先輩もコーディネーターの人と何処かへ行ってしまった。 肝心の答えは分からず、 何も先に進まない状況に肩を落とした僕は、 そこに1人残され悶々として、 撮影が始まったにも関わらず、 僕はその場所から動けずにいた。 ちょうどそこにかなちゃんがやってきた。 「あれ? もう皆は撮影に行っちゃった? 今までここでワイワイやってたと思ったんだけど…… ところで陽ちゃん、浮かない顔してるけど、どうしたの?」 かなちゃんには僕の様子が直ぐにわかった様だ。 僕はかなちゃんを見て少し戸惑った様な顔をした。 「どうしたの? 何かイヤな事でもあった?」 かなちゃんの問いに、 「実はね…… 今こう言うやりとりがあったんだけど、 僕どう言う意味なのか……」 ちょっと困惑した様にして、 ついさっき矢野先輩とやったやり取りをかなちゃんに伝えた。 「あ〜 矢野先輩ってそう言うところあるよね。 自分では気付いてないみたいだけどね」 かなちゃんがそう言ったので、 「えっ」 っと思った。 「そう言うところっていうと……?」 僕は違った意味で少しドキドキした。 「先輩ってちょっと思わせ振りな事言ったり、 態度とることあるんだよね。 全部が全部そうじゃないとは思うけど、 先輩のそう言った思わせぶりな所は 冗談半分で聞いてたほうがいいよ。 僕に言えるアドバイスって言ったらそんな所かな?」 「じゃあ、かなちゃんもそんな経験があるの?」 僕はドキドキしながら尋ねた。 「陽ちゃん、 僕が佐々木先輩以外の人を 好きだった事実を聞くのはイヤかもしれないけど、 僕が矢野先輩の事好きだった時は、 もうほとんどそんな感じだったんだよ。 それでいて、僕の事は弟だってずっと言われてて…… 佐々木先輩も割とそういうところはあるんだけど、 矢野先輩って凄い天然っていうか、鈍感っていうか、 はっきりと口で言わないと分からないタイプなんだよ。 好き好きって遠回りでやっちゃうと、 全然的外れな答えが返ってくるからね~ だから、もしね、あくまでも、もしだよ? 陽ちゃんが矢野先輩を好きになることがあるとしたら、 ストレートに言わないと、彼は分からないだろうね~」 かなちゃんのそのセリフに、 やっぱりかと言う思いはあった。 でも正直言うと、もしかしたらっていう、 期待の部分があった事も歪めない。 でもかなちゃんは最後に凄く気になる事を言った。 「でもね陽ちゃん、 矢野先輩が思わせぶりな態度をとってる時ってね、 その人のことが好きな可能性は高いんだよ。 ただ、矢野先輩がその事に気付いてないってだけで…… それにね、矢野先輩が優しくするのって、 好きな人だけになんだよ。 後は塩対応だし! 特に先輩の事、好きな子とかに対しては…… まあ、期待を持たせないって思いがあるんだとは思うけど、 その点陽ちゃんは先輩の懐にがっちり入ってると思うよ。 でもやっぱり矢野先輩はちょっと 食わせ者のようなところがあるから、 そこは陽ちゃんがどうとるか次第だよ。 まあ、先輩も色々と痛い思いして学んでくれたと思ったんだけど、 また同じ轍を踏んでるのかなあ〜?」 と…… 僕はかなちゃんのセリフに含まれる意味を知りたかったけど、 かなちゃんには、今はまだ知る必要はないと言われた。 あまり早く知っても、 どうにもすることが出来ないし、 かえって、悪い方ヘ進んでしまうこともあるといわれた。 でも僕の気持ちは凄く逸った。 矢野先輩のセリフや態度からは、 先輩も僕の事が好きな様に思える。 先輩はその気持ちを隠すためにああいう態度をとっているか、 またはテレ隠しでやっているかのように感じる。 だから先輩の本当の気持ちを確認したい。 もしかしたら自分の独りよがりかも知れないけど、 どう考えても “先輩も僕の事が好き” それ以外に考えられない。 そうでなければ、それはかなちゃんが言う様に、 先輩の悪い癖が出たのだろう。 僕はまだ年端もいかない13歳の中学生だ。 常識的に考えて、 矢野先輩のような大人が僕に恋をしているとは考えられない。 もし仮に、奇跡が起きて、先輩が僕の事を好きになってくれても、 先輩が言わない限りは、かなちゃんが言う様に、 僕には矢野先輩をどうこうしようなんて 今はまだ早いかもしれない。 時期が悪すぎる。 少なくとも発情期が来る迄は…… そう思って僕は再び自分の心に蓋をした。

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