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第50話 自由課題
『智君、もうちょっと上だよ。
違う違う、もうちょっと右……』
『陽一、もっと静かにしないと逃げるぞ!』
『そう言う智君の方が声大っきいよ!』
『待って、待って!
僕がカゴ持つから、智君、もうちょっと上まで登ってみる?』
『あ、じゃあ木村君、このアミもちょっと持っててくれるかな?
両手で枝を掴まないと、おっこちそう……
頑丈そうな所に座ってみるから』
そう言って智君は木村君に虫かごとアミを渡した。
智君が頑丈で座りやすそうな枝の分かれ目を見つけると、
そこに座ってアミとカゴをもう一度木村君から受け取った。
『どう?
そへんから声聞こえるんだけど、
姿見える?』
『陽一、シーッ!』
智君がそう言ったかと思うと、
アミのカシャカシャという音と共に、
ジジジジジという暴れるような声がした。
「や〜り〜!
一匹捕まえた〜!」
智君の掛け声と主に、
僕と木村君はハイファイブをした。
「子供達……
君達はそんなに騒いで何をしているのかね?」
そう言って散歩に出てきたっぽい先輩が
智君の座っている枝を見上げながら尋ねてきた。
「先輩! セミ見た事ありますか?
セミですよ!
今までは声は聞こえたけど、
見た事なかったんですよ!
それにですね、
昨日は魚取りをしたんですよ!
知ってました?
川魚って跳ねるんですよ?」
僕が興奮した様にしていうと、
「何だか、誰かさんの再来みたいだね〜」
そう言って先輩がかなちゃんを見た。
かなちゃんは真っ赤になって、
「先輩! 変なこと覚えてますね!
一体、何年前のことですか!」
とたじろいでた。
「それにしても君たちってホント、
何から何までそっくりだよね」
そう言って僕の頭をポンポンする先輩は、
遠い昔を見る様な目で僕を見た。
「それで? これが自由課題のテーマ?」
「そうだよ。
僕がセミの生態で、智君が川魚。
明日は阿蘇の博物館に行くんだ。
木村君が阿蘇山についてのテーマでやるから!」
「セミの生態に川魚……プフフ
小学生の課題みたい。
まあ、都会っ子だからワンテンポ遅れててもバチは当たらないよね。
でも課題のテーマが見つかってよかったね」
そう言って笑いながら矢野先輩は
もう一度木を見上げた。
「この木はね、
僕も小さい頃よく登って遊んだんだよ。
今よりはずいぶん細かったんだけど、
今智樹君が座ってるところと、全く同じ所に座って、
僕もセミ取りをしたんだ。
知ってた? 気を付けないと、
セミって逃げる時におしっこかけていくんだよ」
そう先輩が教えてくれた。
「え〜! おしっこ?!
やだ~ 智君、早く降りておいでよ!」
そう言って僕は声をかけた。
智君も、えっちら、おっちらと、
セミにおしっこをかけられないようにそっと降りてきた。
先輩は木に手をかけると、
「それに昔はね、早朝に行くと、
カブトムシやクワガタも沢山いたんだよ」
と教えてくれた。
「カブトムシですか?
昆虫の王様じゃないですか!
今はいないんですか?」
「今はね〜 木が一杯伐採されてね、
昔よりも開けてきてるから、
見なくなった虫もいっぱいいるね〜」
「ヒイ〜 虫?
僕、昆虫まではいいけど、虫はいや〜」
「ハハハ、虫って言っても、
ミノムシって言って、体に一杯落ち葉や小枝をくっつけて、
木の上からぶら下がってる可愛いやつなんだよ。
最近は全然見ないな〜
カマキリなんかもよくいたし、
カミキリムシや、タマムシなんかも一杯いたんだけどね〜」
「あっ、カマキリは聞いたことあるよ!
実際見たことはないけど、
よく写真や絵なんかは見るよね。
でもカミキリムシや、タマムシって聞いた事ないな〜」
僕がそう言うと、先輩が○ーグルを使って
写真を見せてくれた。
「陽ちゃんがこっちで育ってたら、
保育園とかで聞く機会があったかもね」
かなちゃんが付け足しでそう言った。
木から降りてきた智くんと木村君は、
うん、うんと頷いて、
自分たちは保育園で学んだと言っていた。
「じゃあ、僕も学んでたかも知れないね。
日本では保育園に行ったのは短い期間だったし、
最初は知らない日本語もいっぱいあったから、
もしかしたら聞き逃していたのかも知れない」
「そうだったな、
陽一、入園してきた時は、
帰国子女の子達とばかり一緒にいたもんな」
「そうだよ、あの時学んだ英語も、
今ではからっきしだよ」
そう言って皆んなで笑った。
「じゃあ、日も直ぐ落ちるだろうし、
裕也とあ〜ちゃんが帰ってきたらバーベキューだから、
今から下拵えするから、皆んな手伝ってくれる?」
かなちゃんがそう言って僕達は捕まえたばかりの蝉を写真に収めると、
また自然の中に戻してあげた。
その後しばらくすると、お父さんとあ〜ちゃんが帰ってきたので、
僕達はバーベキューをする事になった。
「僕、外でこうやってバーベキューするのも初めて!
凄く美味しいね!」
木村君がホフホフしながら大きなお肉を頬張った。
「遠慮せずにいっぱい食べてね。
智君もちゃんと食べてる?」
かなちゃんは忙しく人々の間を回って
食べ物や飲み物を補充していた。
「要君、僕も手伝うよ」
そう言って矢野先輩も、かなちゃんと楽しそうにお野菜やお肉を
串に差していた。
彼らの姿をいつの間にか凝視していた僕に、
「お兄ちゃん、ヤキモチ?」
そう言ってあ〜ちゃんが後ろからそっと囁いた。
「え?」
と言いて振り返ると、
「お兄ちゃんって、
お母さんと矢野のおじさんが2人だけで一緒にいると、
チラチラとそっちばかり見るんだよ」
そうあ〜ちゃんに指摘されて、
そこまで見ていたのかと少し自己嫌悪になった。
「僕、そんなに2人のこと見てる?
そんなつもりはないんだけど……」
そう言うと、
「でね、ほら!
向こうにも、もう一人、2人をチラチラと見ている人が!」
そう言ってあ〜ちゃんの指差す方を見ていると、
お父さんがあからさまにプ〜っと膨れて、
2人の方をチラチラと見ていた。
僕はその姿にブ〜ッと吹き出したけど、
「僕って、あんななの?
お父さんの方があからさまじゃない?」
と尋ねた。
「お兄ちゃんね、お母さんにそっくりだって言われるけど、
ああ言うところはね、お父さんにそっくりだよ」
そうあ〜ちゃんに言われて、
何だか違った意味で悲しくなってきた。
本当にお父さんの様だったら、
驚きという前に少し恥ずかしい……
僕があ〜ちゃんとヒソヒソとやっていると、
「陽ちゃん!
僕、佐々木先輩の方を手伝ってくるから、
こっちお願いできる?」
そう言ってかなちゃんが僕とバトンタッチした。
僕は先輩と接触できる時間が嬉しかった。
ここにきて、課題の事で忙しくて、
あまり接触できていなかった。
「よかったね、お兄ちゃん」
そう言ってあ〜ちゃんがまた耳打ちしてきた。
「ぼ……僕は別に……」
そういうと、
「あからさまに顔が喜んでいるよ。
お父さんを見て、思いっきり同じ顔してるから!」
そうあ〜ちゃんに言われお父さんを見ると、
隣に来たかなちゃんに、鼻の下を伸ばしてデレデレとしていた。
え〜! 僕は絶体あんなんじゃ無い!
そう思って、
「あ〜ちゃん!」
と叫ぶと、
「陽一く〜ん! 何やってるの〜
早く手伝いに来て〜」
と矢野先輩が呼んだので、
「は〜い! 今行きます!」
と大きく返事をしたら、あ〜ちゃんが、
「お兄ちゃん、
もう口の端が緩んじゃってるよ!」
と言って、キャハハとお父さんとかなちゃんの所へ駆けて行った。
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