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第64話 高校入試
僕は先輩と離れた時、一つの大きな目標を立てた。
それは、
“いつでも先輩の人生のサポートが出来る状態でいる事”
と言う事だった。
僕はずっと、発情期さえ来れば、
先輩は僕が先輩の運命の番だと気付いてくれると信じていた。
だから、その時が来た時に、
しっかりと先輩の人生のサポートが
出来るようにしておきたかった。
かなちゃんの情報によると、
前はかなちゃんの勤める会社のみの
運営を先輩は任されていたようだけど、
今では母親の50%程のビジネスを受け継いだようだ。
後の50%を、結婚した時に、
みたいな感じで言われているみたいだ。
やっぱり、昔の人の考えなのか、
人は結婚をして半人前、子供を育てて一人前
みたいなところがあるみたいで、
ビジネスの世界も、
結婚をしている人が、成功する傾向にあるらしい。
特に、インテリなどの、生活を基準にしたビジネスなどは、
新婚さんに需要があるらしく、
やっぱり夫婦の空間を作る経験がある人が良いみたいだ。
そんな感じで、お願いをするなら、
縁起を担ぐ意味でも結婚をしてる人……見たいな感じだ。
だから僕は、先輩が100%母親のビジネスを受け継いだ時に
先輩のサポートとなるよう、
高校を受験の強いセント・ローズにして、
そこからハーバードのビジネススクールに行きたいと思った。
何故ハーバードかというと、
ビジネス界で戦い抜く術を教えてくれるから。
前に誰かが言っていたのを聞いた様な気がする。
それは、大学は管理職に着くために行く所。
でもハーバードや、ワートンは
起業する際の生き残る術を教えてくれる。
ビジネス界においてはトップクラスの大学で、
何時か先輩のビジネスをサポートしたい僕には持って来いの大学だ。
そしてビジネスのノウハウを極めて、
先輩の右腕になりたい。
そして僕の発情期が来て、
先輩に僕の番としての存在に気付いてもらい、
そこから今までとは違った愛の形を育くみ、
何時かは結婚して子供を持って、一緒に育ててって言ったような感じで、
それが僕の目標だった。
だから僕の道が開けた今、
後は発情期が来て先輩に気付いてもらうだけだった。
先輩中心の僕の人生設計だけど、
僕にはそれがあっていると思った。
ずっと今まで、心も、体も十分準備してきたと思う。
かなちゃんやお祖母ちゃんに発情期が来た高校一年生まであと少し。
僕はここまで自分の未来にワクワクとし、
期待を持ったことはなかった。
塾にも通い、
素晴らしい講師にも巡り合えた。
智君も精一杯僕の勉学をサポートしてくれた。
そして新年も迎え、受験まであと残すこと2か月ほど。
僕はそろそろ体調管理に切り替え、
ほとんどの勉強を過去問を解くことに集中した。
城之内先生も、過去問から応用編を作ってくれて、
それがとても重宝していた。
それと、勉強時間を夜型から朝方に切り替えた。
勉強する間も、
試験中の静かな教室を意識して、
静かな状態で勉強するようになった。
もともと騒がしい音楽などは聴かなかったけど、
時折静かな音楽を流して精神統一みたいなことをやっていたけど、
それもやめた。
そして夜は夜更かしをせずに、
早めに寝るようにした。
そして迎えた試験当日。
僕は智君と待ち合わせをして試験会場である
セント・ローズ学園へ向かった。
でも家を出たとき、矢野先輩に呼び止められた。
「陽一君、待って!」
振り向くと、矢野先輩が少しはにかんで立っていた。
“少し痩せた?”
そう思って凄く気になったけど、
「おはようございます」
と挨拶して会釈した。
「要君から聞いたんだけど、
今日は受験日なんでしょう?
すっと話掛けたかったけど、
中々チャンスが無くて……」
僕は心の中で、
“そりゃあ、詩織さんとあんな頻繁に会ってたら、
僕と話す時間もないでしょう?”
と皮肉のように思った。
「僕も忙しかったし、
先輩も忙しいようだから……
それに、僕の行事全てを先輩が知っておく必要もないから……」
そう言うと、先輩は少し気落ちしたように頭を掻いて、
「それもそうだね……
小さい時からずっと一緒だったから、
いきなり距離が出来るとなんだか寂しくて……」
“そう思うんだったら、
詩織さんなんかと戯れていないで
もっと僕の事を優先させてよ!”
そう思ってのどまで出かかった言葉を飲み込んだ。
「じゃあ、僕、急いでるので……」
そう言うと、先輩は僕の腕をつかみ何かを僕の手に握しめさせた。
「余り助けになるかわからないけど、
気晴らしくらいにはなるかもしれないから……」
そう言われて指を開けると、
中には学業成就のお守りが入っていた。
「ほら……
陽一君の大切な日だから、
何かしてあげたくって……
呼び止めてごめんね。
じゃあ、今日は頑張ってね」
そう言って振り返った先輩の背中は凄く小さく見えた。
いや、きっと僕がそれだけ成長したのもあるのだろうけど、
それでも今日は先輩が凄く小さく見えた。
僕は走って行って先輩の背中に抱き着きたい衝動を抑えながら、
「先パ~イ! ありがとう!
僕頑張るからちゃんと祈っててね!」
そう叫んで腕を振り回した。
久しぶりに気持ちよく先輩に答えられた日だった。
先輩も、久々の僕のポジティブな返答に、
凄くいい笑顔を見せてくれた。
“やっぱり彼が好きだ……
お願いだから、どうか、どうか僕が追いつくまで待っていて!”
心の中でそう唱えながら僕は智君との待ち合わせまで急いだ。
「陽一! こっち!」
電車を降りて改札口に回ると、
智君が待ち合わせをした場所で既に待っていてくれた。
「おはよう! 早かったね」
そう言って深呼吸すると、
「お前は顔色良いな。
しっかり夕べは休めたようだな。
それはそうと、ちゃんと受験票、
鉛筆、消しゴムは持って来たか?」
と尋ねられ、子供じゃないからと智君のお腹に軽くパンチを入れた。
学園に着くと、かなりの生徒が来ていた。
受験番号順に決められた教室に入ると、
実感がわいてだんだん緊張してきた。
幸い智君は僕の席の後ろだった。
おそらく学校ごとに受験番号が続け番号なんだろう。
僕らの学校からは僕と智君のみだったけど、
割かし学校ごとでグループになって席に着いた。
試験監督に在校生の補助が付いていて、
僕達の教室にはなんと、良太さんがいた。
僕が良太さんに目配せをすると、
良太さんは親指を立ててグイッと僕に向けると、
ニカッと笑った。
“やっぱり兄弟だな~
城之内先生に似てるや”
そう思うと、塾での模擬試験のような気持になって、
ドンドン落ち着いていた。
僕は今朝矢野先輩にもらったお守りを取り出し、
そっと抱きしめると、制服の胸ポケットにしまい込んで、
左手をその上にのせ、目をそっと閉じると深呼吸した。
「始め!」
の掛け声がかかると、教室の中はもう
鉛筆が試験用紙の上をすべる音しか聞こえなかった。
試験は二日掛けて行われた。
二日目が終わったときは、
精も根も尽き果てたという感じだった。
一つ一つの試験が終わった後智君と答え合わせをしたけど、
僕は旨い事いってると思った。
これで受からなければ、きっとどこの高校にも、
受からないだろうと言うくらい旨くいった。
僕には、99%の自身があった。
そしてその自信は大当たりで、
僕も、智君も、二人とも無事、見事に
セント・ローズ学園に合格することが出来た。
そして残すは卒業のみとなった。
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