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第67話 登校一日目
僕は舞い散る桜を見上げていた。
“先輩は何故あの絵を僕にくれようと思ったんだろう?“
先輩の意図が分からなかった。
先輩の描いた絵を僕にくれると言うのは分かるけど、
あの絵は先輩のお気に入りだと言っていた……
僕は絵に対して心得がないので、
何を意味しているのかさっぱりわからない。
先輩は
“僕に持っていて欲しい“
そう言った。
それには何か意味があるはずだ。
その事ばかりが頭をグルグルとして、
昨夜は寝付けないでいた。
チラチラと桜の間から漏れる溢れ陽は、
寝不足の目には眩しくて、そっと目を閉じた。
そよ風が少し気持ちよくて、
閉じた目をまた開くと、
目の前に城之内先生が立って僕の顔を覗き込んでいた。
「おはよう、陽一君。
登校はいつもこの時間なの?」
「ビックリした〜
先生、急に目の前に現れ無いで下さいよ〜」
「いや、目を閉じて上を向いて立ち止まっていたから
何してるのかなって思って……」
「先生こそこんな所で何してるんですか?
あ、もしかして、良太さんに何か用なんですか?」
「いや、学園にちょと用事があってね」
「学園に用事?
そっか〜 先生も卒業生だしね」
そんな話をしながら学園へ向かっていると、
「陽一!」
と後ろから智君がやってきた。
「智樹君はいつも元気だね」
「あれ〜、城之内先生?
こんな所で何してるんですか〜?」
智君も同じ事を聞いた。
「それ、僕も今同じことを聞いたばかりなんだよ。
これから学園に用があるんだって」
僕がそう言うと、智君は、
「そうなんだ。
じゃあそこまで一緒にいきましょう。
でも今年も陽一とはクラス別れてがっかりだよなー」
と言い出した。
「そうなんだ?
二人、離れちゃったんだね。
中学校でもずっとクラスは別々だったよね?」
「そうなんですよ!
俺、今年こそは同じクラスになりたかったのにな」
「そんなこと言ってると、ガールフレンド出来ないぞ~
あっ、もしかしてもういるとか?」
と突然の突っ込みに、僕は智君を振った手前少し気まずくなった。
それに智君が気付いたのか、
「実を言うとですね、
陽一とは離れて悲しいけど、
クラスにすっごい可愛い子がいるんですよ!」
と助言?をしてくれた。
でもそれが本当だったらうれしい。
城之内先生も、
「凄いね。
一日で目をつけるなんて、
智樹君もやるね~」
と突っ込んでいた。
「先生には女性の影、ありませんよね?
塾生にいっつも告白されてたのに、
先生こそ彼女は?」
と、智君も遠慮がない。
そう言えば、城之内先生の浮いた話なんて今まで聞いたことがない。
週末は良く僕に付き合ってくれてたし、
夜も割かし遅くまで塾生たちの質問に答えている。
城之内先生も、
「大人には色々と事情があるんだよ」
とはぐらかしてばかりで、
本当の所は分からない。
でも僕は矢野先輩の事で一杯、一杯だったので、
他の人の恋バナを気にしている暇はなかった。
「ほら、もう学校だよ!
今日は入学後第一日目でしょ?
シャンと胸を張って頑張って!」
そう城之内先生に言われ、
「じゃ、行ってきま~す!」
と僕と智君で学園の門をくぐった。
「それにしても、城之内先生、今更学園に
一体何の用があるんだろうね?
良太さん絡みかな?」
そう言いながら僕たちは自分たちの教室へと向かっていった。
教室の前まで来ると、後ろから、
「よ! おはようさん! 入らないのか?」
と声をかけてきた人がいた。
後ろを振り向くと、顔は見覚えあるけど、
まだ名前が一致しない。
「え~っと……」
そう言って思い出そうとしていると、
「二日目でクラス全員の名前を覚えるのは難しいよな!
俺は倉本和馬。稲葉中から来たんだ。お前は……」
「佐々木陽一です。
新都三中から来たんだ。
よろしく!」
そう言ってあいさつした。
「倉本君はクラスに同中の友達とかいるの?」
「和馬でいいよ。
俺も陽一って呼ぶし!
同中は一人だけ……
女子なんだけど……ほら! あいつ!
お~い! 和音!」
と言って振り向いた彼女は和馬君にそっくりだった。
僕がほけーっとした顔で見ていると、
和馬君は大笑いして
「俺達双子なんだ!」
と一言言った。
「凄いね、男の子と女の子の双子でも、
此処まで似るんだね~」
僕がマジマジと眺めていると、
「和馬? 何か用なの?」
そう言って和音さんがやってきた。
「これ、陽一。
今…… 友達になったんだよな!」
そう言って和馬君が二カッと笑った。
和音さんは
「へ~」
とか言いながら、
「私は倉本和音。
もう知ってると思うけど、和馬の双子の姉ね」
と手を差し出した。
「あ、お姉さんなんだ!」
そう言って彼女と握手をすると、
「あら、あなたΩなのね」
と来たので、凄くびっくりした。
「どうしてわかったの?!」
と尋ねると、
「私もΩだからなんとなく」
と彼女は答えた。
「お前な、ここはαの巣窟なんだから、
あまり大きな声では言わない方が良いぞ」
そう和音君に言われ、
「お姉さまと呼びなさいと言ったでしょ!」
と耳をつかんで引っ張っていた。
和馬君はイテテと耳をさすっていたけど、
僕の目線を感じたのか、
「ん? 何?」
と尋ねた。
「あのさ、ちょっとした疑問なんだけど、
双子のお姉さんがΩだったら、
もしかして和馬君もΩ?」
「ハハ、それってよく聞かれるんだよな。
だけど違うんだよ。
俺はα。
和音はα家族で一人だけのΩなんだよな」
「へー それって大変じゃない?
苦労してることってない?
僕で何か出来ることがあれば、いつでも言って」
「ありがとう。
でも大丈夫だよ。
昔は私みたいな子は大変だったみたいだけど、
私たちがまだ小さい時に行われたΩに対する法の改正で
凄く境遇が変わったって聞いたよ。
私達の親もあれが無かったら、きっと私の事、
施設に出してたわ~って冗談みたいに言ってるけど、
あの時法を変えてくれた人には感謝感激だわ~
それにしてもそれまでの法はΩに対してクソだよね!」
と言われ、僕はハハハ~と横目流しをするしかなかった。
実を言うと、法曹界を陣取ってたのも、
法を変えたのも自分の身内だとはとても言えない。
「でも僕、女性のΩ初めて!
凄くうれしい!
助け合っていこうね!」
「何? じゃ、陽一のとこって男性のΩが母親とか?」
「ハハハ~ 実を言うとそうなんだよね~」
とテレて頭を掻いていると、二人して
「凄い!
Ωの男って本当に子供産めるんだ!
初めて見た!」
とびっくりしていた。
もうこの光景は何度も見るけど、
やっぱりΩの男性が子供を産むってあまりないんだ……
と、自分にもちゃんと発情期が来てくれるのか心配になってきた。
そんな時、
“生徒の皆さんは、速やかに体育館に移動してください。
繰り返します……”
という校内放送が流れた。
「そう言えば今日の一限は全校集会ってなってたよね。
じゃあ、このまま体育館へ移動しよう」
「うん、ちょっと待ってて、
僕カバンおいてくるから!」
そう言って戻ってくると、僕達は体育館へ向けて歩き出した。
「ところでさ~
新しく招待客員が来るらしいよ~」
「え? 何ですか? それ?」
「特別枠で教師として雇われる先生!
毎年予算の都合がつけば来るらしいけど、
今回は凄い学歴の人が来るらしいよ。
なんでもうちの卒業生でハーバードに行った後、
T大の大学院に行って教育の研究者になったんだって!
最近大学進学の業績が落ちてるから、
ずっと断られていたのを学園側が無理を言って落としたらしいよ!
一体急にどうしたんだろうね?
この学園に気になる人がいたりしてね」
と和音さんは、ヒヒヒと笑っていたけど僕は
“ん? 聞き覚えのある学歴だな……”
とぼんやりと思った。
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