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第68話 もう一人の佐々木君

ーーーーー現在 高校2年 17歳ーーーーー この学園はクラブに入っていない生徒は委員会に入る必要があった。 僕はクラブに入る予定がなかった。 だから自然と、委員になる必要があった。 クラス委員長や体育委員にはなりたくない。 一番簡単そうな保健委員あたりを考えていたけど、 もしかしたら同じ事を考えてる人も多いかもしれない。 でも僕は図書委員になった。 どういう経緯で図書委員になったのかと言うと、 「陽一君、図書委員になったら?」 という城之内先生の推薦だった。 入学当初、学校より招待客員としてやってきたのは、 僕の想像通り城之内先生だった。 僕はびっくりしたのと同時に、 城之内先生と学校でも会えるというのが凄くうれしかった。 そんな城之内先生に勧められた図書委員。 「え? 図書委員ですか? どうして?」 「ほら、どうせ委員をしなくちゃならないんだったら、 自分から立候補した方が良いでしょう? 立候補すると、やりたく無い委員に当たる事ないし、 なんてったって図書館は、 僕がほとんどの放課後を過ごすかもしれない場所だからね」 そう言って城之内先生はウィンクをした。 「図書館でですか?」 「そう。 僕がここに来た理由は生徒たちの勉強に対する補助だからね。 大体は図書館で予習、復習、補習などの補助をするんだ。 それとセミナー合宿とか……」 「じゃあ、もう塾では教えないんですか? 僕、先生のサポートなしでは高校生活は皆無かも?!」 僕は勉学の面ではかなり先生にお世話になっていた。 高校でももちろん塾に通い続け、 成績をキープしながら大学のサポートもしてもらうつもりだった。 「僕にとっては塾も大切だから、 時間を調整しながらうまくやっていくよ。 心配しなくても大丈夫だよ。 陽一君との時間もちゃんと組み込んであげるから」 先生の頭の中には、ちゃんと僕の事が組み込まれていることがうれしかった。 そう言う渡りで僕は図書委員になり、 放課後のほとんどの時間を城之内先生と図書室で過ごすことになった。 2年生になってからも、図書委員を引き継いだ僕は、 今年は先輩になる。 “どんな一年生が来るかな?” と、放課後ワクワクとして図書館へと出向いた。 ドアを開けて初めに目についたのが、 背が高くてスラッとした男子生徒だった。 “ヒャ~ こんな子が一年生だなんて、 先輩としての威厳なんて僕に出来るのかな~?” そう思いながら図書館へ入ると、 その男子生徒が後ろを振り向いた。 “うゎっ、カッコいい子だな~” それが彼の第一印象だった。 「君は新入生なの?」 「はい、佐々木悠生と言います。 よろしくお願いします!」 そう言って彼は、綺麗なお辞儀をした。 「君、佐々木って名字なの? 僕と一緒だね! 僕は佐々木陽一です! よろしく! 名前忘れても佐々木君で行けるから簡単だね! 君にとっても僕は覚えやすい名前だよね!  ただし顔と名前が一致すればだけどね!」 と言って僕は笑った。 「先輩って名前みたいにお日様みたいな人ですね。 ころころと笑って可愛いです!」 彼に不意打ちを打たれて僕はカーっと顔が熱くなるのを感じた。 「先輩、照れた顔も可愛いですね」 と、彼もぐいぐいと押してくる。 僕は照れ隠しのように、 「ほら、3年の部長の先輩も来たみたいだから」 そう言って、それぞれの席に着いた。 その間も、彼は僕から目線を離さなかった。 “なんなんだろう…… 何故僕の事をじっと見ているのだろう? 初対面だよね? 前に会ったことある?” そんな感じの対面だった。 部長の 「オッホン! あ~ 今年……」 と言う自己紹介が始まって僕は部長の方を向いた。 その間もチラチラと佐々木君の方を見ていたけど、 彼はやはり僕から目を離さなかった。 “もしかして、ひとめぼれされちゃった?” とその時は呑気に考えていた。 「じゃあ~ それぞれに自己紹介を~」 と言う部長の声でハッと我に返った。 委員は各クラスから2名ずつ。 僕と、新しくクラスメイトになった女生徒の 大貫咲子さんがやはり去年からの引き続きと言う事で図書委員になった。 僕は大貫さんの事は良くは知らないけど、 去年委員会で顔を合わせていたので、 全く知らない仲でもなかった。 図書館には交代制で二人一組になって常務する。 これは誰と組んでも良いと言う事だったので、 僕は1年生の佐々木君の申し出て、 彼と組むことになった。 毎月第一週目の水曜日が僕らの担当だった。 時折、月に2度図書室に張り詰める時もあった。 大体の仕事は本の貸し出し、返却、返却のあった本の整理、 生徒のリクエストなどの仕分けなど、去年と変わらない内容だけれども、 図書委員の仕事は割と忙しかった。 それでも図書館に出向くのは月一の割合だったので、 その面では割と楽だった。 最初に城之内先生が宣言したとおり、 城之内先生は放課後は図書室に通い詰めていた。 だから委員の仕事が無い時は、 僕も座るのは図書委員のスポットではなく、 城之内先生の補習組のサイドだった。 僕がいつものように図書室で城之内先生に質問をしていると、 「先輩って委員の仕事がない時ってここにいたんですか?」 そう言って佐々木君が僕の横に座り込んできた。 「佐々木君、僕がここにいるって良くわかったね」 「先輩のクラスの図書委員に聞いたんです。 先輩がいつも補習組と一緒に城之内先生に補習を受けているって」 「言い直すけど、ここにいるのは補習組ばかりじゃないんだよ。 授業で分からないところや、予習や復習で分からないところがあった場合なんかも、 城之内先生はここでみんなの質問に答えてくれるんだ。 それに進路の相談にも乗ってくれるし、 いわば、フリーの家庭教師だね!」 そう言うと、城之内先生は参考書を僕の頭にポーンと乗せて、 「フリーの家庭教師ね~ 陽一君は手間暇かかるから、授業料取ろうかな~」 と、からかったようにして言った。 「先生、僕今週の日曜日、自習室の方に行くんですけど、 先生はいますか?」 そう尋ねると、佐々木君はピクッとしたようにして、 「自習室って?」 と尋ねた。 「僕ね、城之内先生の勤める塾にも通っているんだ。 僕がこの学園に受かったのも、先生のサポートがあったからなんだよ! 自習室はね、塾でオープンされている勉強部屋の事。 塾の講師が常勤していて、いつでも質問とかできるんだ。 城之内先生は今客員としてここにきてるから、 塾ではほとんど会えないんだよね。 だから会えるとすると、週末の自習室なんだ。 僕、先生のいない学校なんて今となってはもう考えられないかも?」 そう言うと、 「僕も、陽一君のような手のかかる生徒は、いざいなくなってしまうと、 寂しくてたまらないかも?!」 と返ってきたので、佐々木君は素早く、 「二人ってもしかしてそう言う関係なんですか?」 と尋ねてきた。 僕は城之内先生を見てクスっと笑うと、 「それが違うんだよね~。 僕たち、中学一年生の時からの付き合いだから、 凄く仲がいいんだよ。 それも、この学園に入るために、 手取り、足取り教えられたからね。 どちらかと言うと、兄弟みたいな感じなんだよ! 僕たちを知らない人からは良く佐々木君と同じように言われるんだけどね!」 そう説明しても佐々木君は疑いのような目で僕たちを見ていた。 「佐々木君も参加してみる? 城之内先生の教え方って凄くわかりやすいんだよ!」 「う~ん、佐々木君って確かトップで学園に入ったんだよね?」 そう城之内先生に言われ、僕はグルンと彼の方を向いた。 「ハハハ、佐々木先輩、変な顔! そんなに驚くことですか~?」 そう言って佐々木君にホッペをつつかれた。 「凄いね! この学園に一番で入るなんて! 一体将来はどんなプランを決めてるの?」 僕がそう尋ねると、 「それは秘密。 じゃあ先輩。またね」 そう言って彼は図書館を後にした。

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