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第69話 僕の思いはいずこへ?

私立の学校には、 私立なりの趣があり、僕は割と好きだ。 お父さんや矢野先輩が卒業した学校も私立で、 うちの学校とはまた違った趣がある。 かなちゃんは途中で退学してしまったけど、 彼は旧校舎の美術部・部室が大好きだったと言っていた。 小さい頃、僕も何度か行った事があるけど、 旧校舎だった美術部・部室は、 新しく建て替えられた校舎へと移ってしまい、 旧校舎は壊された後だった。 かなちゃん達はさみしがっていたけど、 彼らはそこで大切な出会いを沢山した。 まずかなちゃんは、運命の番と出会った お祖父ちゃんとお祖母ちゃんの経験に願掛けて、 自分も同じように運命の番と出会うべく、同じ高校へ進学した。 そしてそこで、矢野先輩に出会った。 矢野先輩は高校への通学路の途中にある公園で、 何度もスケッチをしているかなちゃんを見かけたと言っていた。 だから新入生の受付でかなちゃんを見た時は凄く興奮したと言っていた。 それからかなちゃんを口説き落として?美術部に入部させ、 高校最後の1年間をかなちゃんと共に過ごした。 でもその中で先輩は、沢山の経験をし、想いを抱え、 挫折しながらも頑張って自分の道を見つけた。 かなちゃんも、矢野先輩に失恋しながらも、 お父さんと出会い恋に落ちた。 かなちゃんも先輩に劣らず、沢山の葛藤があったと言っていた。 運命の番を探しに行った高校のはずだったのに、 ずっとそばにいた運命の番であるお父さんを他所に、 矢野先輩に恋をした。 そしていつしか運命の番であるお父さんに惹かれながらも、 同時に矢野先輩の事もずっと引きずっていた。 僕はその話を聞いた時、 運命の番でも、出会ってすぐに惹かれるのでは無いんだと言う事を学んだ。 もちろん、出会った瞬間にって言うのもあると思う。 実際にお祖父ちゃんとお祖母ちゃんはそうだったから。 僕の場合はまだ小さかったので、 その想いをずっと温めていると言う感じだ。 それぞれの番が、それぞれの思いを抱いて 出会い、そして恋に落ちる。 でも僕がそれまでの話で出した結論は、 最初の出会いがどうであろうと、 仮に他に好きな人がいろうとも、 最終的には運命と出会えば恋に落ちると言うことだ。 矢野先輩が僕に気付いて無いので、 まだ一概には言えないけど、 僕の発情期がくれば、僕たちはお互いに恋に落ちる。 そう僕は信じている。 でも僕にはまだ発情期がない。 16歳で経験するものと思っていたけど、 その兆候さえない。 僕は既に17歳だ。 これまでにも、色んなドキドキとする瞬間があった。 普通だったらそれが引き金になっても良さそうなシーンだ。 でも…… 僕は矢野先輩から離れた時に、 発情期が来たらと、ある計画をたてたけど、 僕の計画はお流れになったままだ。 このままだと、矢野先輩に僕が運命の番だって知ってもらうのは皆無になってしまう。 その前に彼が僕の元を去ってしまう…… 彼が運命の番だと思っているのは僕の独りよがりなのだろうか? 僕が彼を好きで、彼の匂いが好きだから そう言う風に僕の脳が勘違いをしているのだろうか? 本当は矢野先輩の運命も、僕の運命も別にいるのだろうか? 最近僕の思いがぐらつき始めている。 このままだと、本当に矢野先輩は運命の番探しを諦めてしまう。 僕はこの先どうしたら良いのだろう? 一体どうアプローチしたら良いのだろう? 最近かなちゃんの高校生の時のお父さんとの恋バナを聞いた。 凄く羨ましかった。 僕は大人でも無い、子供でも無い、 そんな狭間に居る高校生という時の恋愛は凄く特別な時間だと思う。 きっと一生を賭けても、 その時にしか出来ない恋愛だと思う。 そんな高校生の時にお互いを見つけて恋をした両親が 僕は凄く、凄く羨ましかった。 ここに先輩がいたらきっと僕は 一生忘れない恋愛を繰り広げていただろう。 僕は色んなシチュエーションを想像した。 もしかしたら1年生の僕と、 3年生の矢野先輩が廊下ですれ違って一瞬で恋に落ちるとか、 全校集会で目があって一瞬で恋に落ちるとか、 保健室で寝ている時、 怪我をして、たまたまやってきた先輩と恋に落ちるとか、 図書館でぶつかり合って落とした本を拾った瞬間に、 手が触れあってハッと来るとか…… 僕はこの図書館が好きだ。 きっとかなちゃんで言う美術室になっていると思う。 でも僕はここで僕の運命と出会うことは一生叶わない。 先輩はここにはいないから。 その時、図書館のドアが開く音がした。 「先輩、またここにいたんですか?」 僕は入ってきた人物をみてため息をついた。 「佐々木君……」 図書委員になって、僕たちは数回の係りを共にした。 また、僕がここで勉強をしていると、 どこからともなく現れては、 僕の周りをうろついて、いつの間にかいなくなっている。 彼の行動からは、僕と仲良くなりたいのだろうけど、 僕は彼に対してどうしたら良いのかわからない。 別に何かを言うわけでもないし、するわけでもない。 彼はいつもの様に僕の隣にスッと座ると、 「先輩の両親って何をしてるんですか?」 といきなり両親のことを尋ねてきたので面食らった。 「え? 僕の両親? どうして?」 「先輩って、どんな家庭で育ったのかな〜?って。 ほら、先輩って明るくて朗らかでしょう? コロコロと笑って笑顔が可愛いし、 きっと良い両親に育てられたんだろうな〜って……」 「まあ、家はどこにでもいるような両親じゃないのかな? 特別なことはなく…… お父さんがいて、お母さんがいて、厳しいけど優しくて…… 君のところはどうなの?」 そう尋ね返すと、彼は少し気まずそうにして目を逸らした。 「僕の両親の事はいいじゃないですか。 別に興味の湧くような人達じゃないし…… それよりも、もうすぐ夏休みですね。 一緒にどこかへ出かけませんか?」 思いもしなかったお誘いにびっくりした。 「一緒にって僕と?」 「他に誰かいますか? ここには先輩しかいないんですけど?」 キョロキョロと周りを見回すと、 いつの間にか図書館に残っている生徒は 僕を除いて数名だけになっていた。 城之内先生は補習組と教室で補習を行なっている。 「それって…… 友達も含めてってこと……なのかな?」 「先輩、何寝ぼけたこと言ってるんですか! 先輩と二人きりに決まってるでしょう?」 「僕と二人っきり? どうして?」 「先輩って鈍いんですか? そりゃあ、先輩の事をもっと知りたいからでしょう?」 僕は何と答えていいのかわからなかった… でも彼とは図書委員で一緒に組む仲。 気まずくなりたく無かった。 「分かった。 じゃあ……」 そう言い淀んでいると、 「先輩の連絡先教えてくださいよ」 そう言って彼は携帯を自分のボケットから取り出した。 「分かってるとは思いますけど、 僕の情報、誰にも教えないでくださいね。 これでもモテるんです」 と迷わずに言う彼に、 「そうだろうねぇ……」 とぼそっと返した。 それは一緒に図書委員をしていると 自然と分かってきた。 男女問わず、彼の周りには人が多い。 僕がぼっちと言うわけではないけど、 彼の周りには取っ替え、引っ換えと人が後を絶たない。 「じゃあ先輩、くれぐれも夏休み補修組にはならないように!」 そう言って彼は颯爽と僕の前から去っていった。

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