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第97話 渡米
僕は前から計画をしていた様に、
クリスマスが終わってから新年に掛けて、
アメリカで住む場所を探しに行った。
実際であれば、一年目は寮に住む必要があるけど、
僕は結婚をしていると言う理由からその校則からは除外された。
そう、僕と先輩はクリスマスの日に婚姻届を出した。
式はしない予定だったけど、
家族同士が集まって食事をすることになった。
驚いたのは、
先輩のお父さんと僕のお祖父ちゃんが
知り合いだと言うことだった。
世間はお祖父ちゃんが結婚している事は知っているけど、
プライベートに関しては一向に謎のままだったので、勿論先輩のお父さんは、
息子の結婚相手が蘇我総司の孫だと知って驚いたのは言うまでも無い。
又自分の息子を連れてお祖母ちゃんのコンサートに行った事を覚えていた彼が、
又々息子の結婚相手が如月優の孫だと知って、その事にもびっくりしていた。
まあ、同じ芸能界で仕事をしていれば
白愛もするだろう。
でも、僕達の遠距離新婚生活にずっと悩んでいた先輩は、
彼の父親の
「世界は狭いんだな。
まさか君と親戚になるとはな」
とその時言った父親の言葉で先輩は覚悟を決めた。
それは僕に付いてアメリカに行くと言う事に。
僕はH大一本でいったので、
他はどこも受けていなかった。
「入るのが超難関な大学にせっかく受かったんだから、
卒業するまでやり通しておいで」
と言った先輩だったけどやっぱり僕と離れられないと、
かなちゃんや先輩のお母さんと調整をつけて、
日本の会社は彼らに任せて、先輩はアメリカへ僕と一緒に行く事になった。
そして先輩はアメリカで関連会社を立ち上げる事になった。
だから僕たちは大学近くにあるアパートに決め、
卒業を待たずに2月の半ばで渡米する事に決めたけど、
僕の妊娠の判明と、
悪阻の過程から、結局は安定期に入ってからの渡米に決まった。
そして今僕は講堂で卒業生一同と最後の記念撮影を行っていた。
「しかしお前、急っちゃ急だったよな。
まさか矢野さんを射止めるとは諦めずに粘った甲斐があったな。
それに子供まで……
お前、観音様みたいな顔して、やる事はちゃんとやってたんだな」
と、智君がさいかちゃんの手を引いてやって来た。
智君はT大の経済学部への進学が決まって、
彩香ちゃんはK大の国文科への進学が決まった。
2人の未来は未だ未定だけど、
このまま付き合い続けて行くそうだ。
お互いαなので、Ωの自分がこう言っては変だけど、
Ωのフェロモンに流されず、
ずっと仲良くいって欲しい。
そして城之内先生はと言うと、
H大の大学院研究員のポジションを2年契約で受け入れた。
出身校であるセント・ローズの受験体制を軌道に乗せた先生は、
学園の皆に惜しまれて学園を去った。
そしてそんな僕達の卒業式も無事終わり、
今日は僕達がアメリカへ立つ日。
「陽一君、このお魚美味しいよ。
少し食べてみる?」
城之内先生のセリフに、
「なぜ君が此処にいるんだ!」
と先輩がワナワナとして窓際を向いた。
「いや、だってほら同じ所に行くんだったら、
一緒に行った方が楽しいじゃ無いですか?」
そう言って、ナントなぜか城之内先生も
僕たちと同じ便で渡米する事になっていた。
「先生、あの時僕に根掘り葉掘り渡米の情報を聞いたのはこのためだったんですね。
良く僕たちの座る場所がわかりましたね」
と僕たちは三人仲良く並んで飛行機の座席に座って
夕食にと出されたお魚とお肉を食べていた。
「陽一君は魚は今は食べないので結構です。
それに自分の伴侶くらい自分でお世話できますので城之内さんはお構いなく」
と真ん中の席に座っている先輩が僕に代わって返事した。
「まあ、まあ、矢野さん、
そんなにカリカリせずに……
カルシウム足りてますか?」
と先輩と城之内先生は丸で漫才の様な2人になっていて、
先輩は城之内先生に少し押され気味だった。
「君〜 まさか住むところまでお隣さんとかじゃ無いよね!」
とのセリフに、
「そんな訳ないじゃないですか〜」
と答える城之内先生に、
先輩は疑心暗鬼になっていた。
「先生、余り先輩を虐めないで下さいよ〜」
僕がそう言うと、
「陽一君、僕はもう君の先生じゃ無いんだから、
鷹也さんって呼んでも良いんだよ?」
先生のセリフに益々先輩はカッカと来て、
僕の左手を取るなり城之内先生の前に差し出して、
「城之内君! 君、これが見える?
この陽一君の左手薬指に光るこのリングが見える?
ほら、見て! 僕のとペアなの!
言ってる意味分かる?
僕たち、結婚してるんです!
それにほら、
まだわからないけど、
このお腹みえますか?
此処にはぼくとの愛の結晶がいるんです!
だから陽一君には必要以上近寄らないでくださいね」
と僕のお腹を摩りながら彼に宣言した。
「矢野さん、陽一君は妊娠してるかもしれませんが、
もしかしたら僕の子かも知れませんよ〜」
との彼のセリフに先輩がギョッとして僕の方をグルッと振り向いた。
その時の先輩の顔が可笑しくて、笑いをこらえながら、
「先輩! そんなはずないじゃありませんか!
城之内先生も先輩の事いじめないで下さい!
全く2人ともいい歳した大人が……
僕は到着するまで寝るので、
くれぐれも邪魔しない様にお願いします」
そう言ってブランケットを首まで掛けると、
ス〜っと眠りに入った。
目が覚めると、2人は何故か仲良くなっていて、陽気にワインを飲んでいた。
この二人は仲が良いのか悪いのか全く分からない。
僕に無様な姿を見られたせいか、
先輩は僕に対する執着心を隠さなくなった。
それにメタメタでダメダメな姿もさらしてくれるようになり、
そんな姿を見たことなかった僕は今でも自分も目を疑う時がある。
“全く、詩織さんの事、束縛体質で嫉妬がひどいって言ってたけど、
先輩だっていい勝負だと思うけど……”
そう思いながら二人を眺めていると、
飛行機が着陸態勢に入ったようで、
先輩たちのワインカップは
フライトアテンダントさんに持っていかれてしまった。
飛行機が着陸して荷物受取場まで歩いて行くと、
城之内先生は大学の方からお迎えが来ていたので、
僕たちはそこで分かれることとなった。
「陽一君、大学では何時でも会えるんだから、
何かあったら、直ぐに僕のオフィスに来てね。
じゃ、矢野さんもまたね」
そう挨拶すると、城之内先生は颯爽と大学関係者と車に乗りその場を去った。
僕は首をコキコキと鳴らしながら、
「は~ 疲れちゃったよ。
先輩たち、一体あのやり取は何なの?
ケンカ?していたのかと思えば仲良くしてって……
まったく5歳児かってとこですよね!」
僕が嫌みのように言っても先輩には通じない。
「陽一君、大丈夫?
時差ぼけは?
お腹は張ったりしていない?
一花ちゃんは元気?
おんぶしようか?」
ともう馬鹿丸出しだ。
赤ちゃんは超音波検査で女の子だと言う事が分かっている。
もちろん先輩は直ぐに一花ちゃんにメロメロになった。
超音波の映像を見ながら、
もう嫁に行くことを考え泣いていた。
僕は女の子と分かり直ぐに先輩に夢の話をした。
そして、絶対この子の名前は一花ちゃん以外ありえない!
と言う事で、先輩も同意し、僕たちは赤ちゃんの名前を一花とすることに決めた。
僕は先輩の顔を見上げると、
ニコリとほほ笑んで、
「大丈夫! なんだかパワーがみなぎってるよ。
これも、一重に先輩の愛のおかげだね!
それに一花ちゃんも元気だよ」
そう答えると、僕たちはやってきたスーツケースを引っ張って
タクシー乗り場へと向かっていった。
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