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「……てください。遼太郎さん、朝ですよ! 遼太郎さん!」 「うわ!? な、あ、え……?」 「もう……まだ寝惚けてるんですか? お仕事、遅刻しちゃいますよ?」  朝……? アラームは? 目を遣った目覚まし時計は止められていた。時間としては、いつもの起床時刻より十分程度遅いだけだったが。 「目覚まし鳴ってるのに起きないんで、ぼくが止めちゃいました」 「マジか……悪い」  そう言うミヅキは先日二人で買いに行った服を着て、朝食の用意をしているようだった。サイズのぴったり合ったそれは、やはり彼によく似合っているような気がする。 「シャワーは浴びれるようにしてありますので、朝ごはんの前にどうぞ。昨日は……たくさん汗、掻きましたし」  目尻を淡く染め、そんな風に言ってすぐ後ろを向いてしまうミヅキ。今の言葉で、昨夜の行為が早回しのAVのように、鮮明かつ怒濤の如くフラッシュバックする。  昨日あれだけしたのに、もう彼を抱けそうな気持ちになった自分にちょっと引いたので、頭を冷やす意味も込めて、俺はミヅキの言うとおりシャワーを浴びることにした。 「ミヅキ……処理、自分でしたのか? ていうか俺も服着せられてたし……ごめん」 「いえ、ぼくの方が早く目が覚めたので、そうしただけですし……。それに、遼太郎さんのおかげで、今日はすごく元気なんです」  ――たくさん愛していただけたので、充電がたっぷり出来ました!  にこやかにそう述べる彼に、気になったことを聞く。 「そういや、結構フワフワした言い方してたけどさ……お前って結局どうやって充電するのが正しいの?」  俺の質問に、ミヅキはあからさまに「まずいことを言った」という顔をした。おい……もしかして、まだ何か言われてないことあんのか? 「その……端的に言うと、「好きな人との接触」なんです。だから、先日のようなデートとかキスでもいいですし、昨日のように、えっち、でもいいんです……」  何かしらの接触によって、ミヅキが「どきどき」すること。それが条件となるらしい。内蔵されたパーツが自家発電を行うのだそうだ。ドキドキする時間が長ければ長いほど、より多くのエネルギーを得られるという寸法だ。 「ん? じゃあ、腰のとこのプラグってなんなんだ?」 「これは、本当に予備のパーツというか……。所有者の仕事の都合とかで、長期的に離れることになった際などに使うんです。……本当はどの型のアンドロイドにも付いてるんです」  お前そんなとこでも誤魔化してたのかよ……。  考えてることが顔に出ていたのか、ミヅキが取り繕うように補足する。 「あ、でもカンパニーに戻っていた際にきちんとメンテナンスを受けたので、もうブレーカーは落ちませんよ!」 「そりゃどうも……。でも、実際は暫く使わねえだろ。俺が居るんだし」  俺のその言葉の意味が通じたらしく、真っ赤になるミヅキを見ながら、彼の用意した朝食を平らげた。たった一日居なかった間に、若干料理の腕が上がっている。将来有望だ。 ***  出勤すると、昨日勝手に有給を消化したことと、職場からの着信に応じなかったことについて、案の定説教を食らった。特にお咎めが無かったのが幸いだ。  ちなみに、上司の「君が有給取るなんて、入社以来初めてだよね!? あんまりにも驚いて、僕倒れるかと思ったよ!」というコメントについては聞かなかったことにしておいてやろうと思う。 「佐藤、じゃあ俺先帰るな。お疲れさん」 「あ、はい! お疲れさまです! ……あの、十倉さん!」 「ん、何?」 「……もう、残業するの、やめたんですか?」  これまで、残業しない日が無い、というくらい働きづめだった俺の姿しか知らない後輩が、そう聞いてきた。まあ、そう思うよな。 「ああ、どうしても必要な時以外はもうしない。……家で、待ってる奴居るし」  その言葉に呆気にとられている後輩の顔を見て、俺は笑い出したい気持ちを抑えながら、今度こそオフィスを後にした。  そうだ、近いうちミヅキに携帯を持たせてやらないとならないな。急な残業が入った時なんかに、連絡手段が必要だ。  電話越しに聞こえる、少し拗ねたような、寂しげな声を想像して、俺は今から胸の奥がほっこりと温かくなるのを感じていた。 【了】

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