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ぐるぐる時計のジレンマカウント

愛知後(えちご)×宇野とCP名が決まる。 * * *  愛知後(えちご)は宇野を待たせていた。会計を終え、他の客の邪魔にならないようにと少し離れた時計売り場にその後ろ姿がある。  全体的に茶髪だったが近付くと銅線みたいな毛がたまにぴょんぴょん跳ねていた。時計を見上げているらしく後頭部は控えめに、茶目っ気のある旋毛(つむじ)が見える。マフラーを嫌がり代わりのネックウォーマーが枕みたいになっていた。  振り子時計が左右に揺れ、それが真下の宇野の尻から生えた、見えない尻尾のようだった。振り向けば少し愛嬌多めの猫に似て、雰囲気はウサギ、性格は柴犬を思わせる。  振り子に合わせ、愛知後の中の宇野の尻尾が左右に触れる。右、左、右、左、カツ、コツ、カツ、コツ、チク、タク、チク、タク。  彼に近付く、ゆっくりと。抜き足、差し足、忍び足。後ろから、静かに。彼に、近付く。鼓動が速くなる。早く、早く、早く。話しかけたい。それでいて、彼の中で自分が大きくなる方法を知っている。買い物袋を持ち替えて、扱い慣れたほうの手を伸ばす- 「あ、終わった?」  宇野が振り向く。にかりと笑うと白い歯が見えた。彼の奥で時計が嗤っている。18時55分。6時56分になる。予定より少し遅くなってしまった。 「遅れた。悪い」 「いいよ、いいよ。ってかこの目覚まし時計かわいくね?」  可愛いという概念を動物や異性以外に抱けたのかと愛知後は少し驚いた。青い掌サイズの目覚まし時計を彼が指す。 「なんかさっきのジリジリしてるエチゴも可愛いかったよ」  顔が一気に熱くなる。揶揄う様子のない、店内の光を集めた目に真っ直ぐ、真っ直ぐ射抜かれる。胸が秒針になった。 * * * 2020.12.17

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