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108式手探りエレジー
原題「打ち砕いてエネルギッシュエレジィ」
自慰を彷彿させ極めて卑猥なため改題。
* * *
こたつに入る。彼と。付き合っている、もう、こんなのは。付き合っていないのに、大晦日、家族から離れてこたつで、過ごすか?ただの同期と。もう、付き合っている、こんなのは。赤い半纏がよく似合う。いつもの軽快な服装もいいけれど。
彼は食い入るようにテレビを見ている。男女で白赤と分かれて歌う、長寿の音楽番組。現代の季語といえる。彼はみかんを剥きっぱなしにして、50人近くいるアイドルの1人を探している。そんな彼の横顔を俺は見つめしまう。まるで漁夫の利だ。ああ、別にあのアイドルは彼を狙っていないし、彼が一方的にお茶の間ファンをやっているだけ。お転婆げな八重歯、大きく瞳に光の入る吊り目、艶のある黒髪、顔立ちは整っているが、キャラクターの際立つような底意地の悪そうな雰囲気。派手さはないが陽気で明るく周りを囲う友人の絶えない彼とは、もし同じクラスだったら、きっと釣り合わない。彼女は派手なグループを追い回すのだろう。高校時代ならばそういう類似した場面を幾度もみてきた。
「来年の抱負!来年の抱負、おまえ、何?」
司会が出演者に訊ねた話題を、彼は俺にも振る。もっと明確な関係を持ちたい。互いに言葉でも確認し合えるような。来年はこんな曖昧で生殺しで不確かな関係ではなくて……
もう言ってしまおうか。そうしたら残りの時間を恋人として過ごせるのか?もったいぶらないで、今すぐに、確かな恋人になりたい。初詣が初デートになるように……なんて、不真面目か?
「日付が変わってから、言う」
俺の口はもったいぶった。彼の唇がみかんを噛んだ。薄皮で張りのある、甘そうなものを選んだんだ。
もう少しだけ焦らされたい。いつもみたいに。
「お前は?」
「あのバカタレにコクる」
あのバカタレ。減らず口ばかりの八重歯、睨んでばかりの吊り目、整髪料臭い黒髪。顔立ちは整っているが陰険さの隠せていない雰囲気。
「どうして……」
「アイツ、オレから歩み寄ってやんなきゃ、ずっとウザ絡みしてくんじゃん。オレ、オトナだから、オレが折れてやんの」
こたつが少し熱いのか、彼の顔がネットに入ったみかんみたいに赤くなる。
近くの寺が、俺の煩悩を打ち砕く。もっと、早く、この核を打ち砕いてくれ、来年の抱負も、スケジュールも。初詣は、清い友人として行けるように。
* * *
大学生想定。スパダリ超絶美青年クールデレデレ×気紛れ陽気わんわん系→←ガキ大将系ツンデレ陽キャをイメージ。
2020.12.31
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