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【3000アクセス記念】三千世界は3cm
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俺は朝飯を元気に食べている彼を見ていた。見ていたというよりは眺めていた。観察かも知れない。
俺の作ったタマゴサンド、こいつ好みにほんのり辛 め。カレーは甘口、寿司はサビ抜き、納豆はカラシ無し。けれどもキムチ鍋は好きで、こうしてタマゴサンドは胡椒多めで辛子 マヨネーズ。とにかく注文が多い。カレーはライスの真上にかけないと、どちらかが残ってエンドレスに食い続けたりだとか、焼き魚は解さないと骨まで食べる気になったりだとか、とにかく例を挙げるとキリがない。
食べ方も、別に口の中身を見せてくるわけではないが、お世辞にも綺麗とはいえない。箸の使い方も、差したり引いたりはしないけれど、むしろ器用なくらいおかしな持ち方だ。俺が几帳面なだけなのだ。それでこいつが、か、か、か、かわ……かわい、かわいくない!とにかくこいつはかわいくない。
こいつに合わせられるのは俺だけだ。地球上で、地球上といわず、世界中で、宇宙で、森羅万象の中で、こいつを理解できるのは……
「昨日の……」
話しかけると彼はオニオンスープを混ぜ回していたスプーンを咥えて俺を見る。やめろ、それ。行儀が悪い。俺の前だけにしろ。俺だけの前にしろ!俺だけに見せろ!
「うん?何?」
昨日、デ……デート、だからそのつまり、こいつの買い物に付き合ったとき、こいつの元カレとばったり会った。
「昨日の、あの男……お前の元カレとかいう……本当なのか」
「ああ!うん。高1のときにコクられて付き合った。まさかお坊さんになってるとは思わなかったね〜」
髪をすべて剃った背の高い、顔立ちも頭の形も綺麗な男だった。年は俺たちより大分上だと思ったが、今の発言からするとあれで3つも変わらないのかも知れない。物腰の柔らかな大人の男という感じだった。
――彼の新しい"オトモダチ"ですか。世間は狭いですね。
そのときの笑みで余裕を見せつけられた。あの坊主は顔見知りのこいつにではなく初対面の俺のほうに向かって言ったのが、なんだか腹が立つ。世間は狭いってどういう意味だ。
「告白されたら誰とでも付き合うのか?」
「誰でもってワケじゃねぇよ!料理上手で飯いっぱい食わしてくれる人じゃなきゃヤだよ。」
俺は料理は、ヘタではないはずだ。こいつほぼほぼ毎日俺の手料理を食べている。俺の弁当もねだる。量もそれなりに作っているはずだ。
イケるか?イクか?
「おい!…………」
「なんだよ、コワいカオして」
「お、俺と、つ、つ、つ、付き合え!」
かっこよく決めたかった。いつもそうだ。こいつに大切なことを言うときに限って吃 ってしまう。プレゼンテーションではこんなことはないのにな。
こいつも、変な表情 をしている。沈黙が怖い。数秒前に戻ってくれ。
もっと言い方があったはずだ。いいや、言い方を変えても多分おそらく絶対に吃った。こいつの前だから。こいつの前で余裕なんかない。この、好き嫌いの多いお子様みたいなヤツ相手に、感情が先走って、全部伝えたいはずが、焦って、言葉が追いつかなくなって、転んでいる。
「えっ、オレたちって付き合ってなかったんだ!ヤバいな。ひぃー、昨日付き合ってるって言っちゃったわ。まぁいいか、付き合うんだもんな」
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3000アクセス→三千世界→仏教用語→元カレが現在お坊さん。
ツン寄りクールデレ美青年→×3000←奔放ワンコ(⇦保護者系仏門年上美青年)で大学生想定。
2021.10.22
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