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過保護でゴホゴホ
3000アクセス記念としては没になったもの。
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夜中に寝返りをうってばかりで、うるさいやつだと思った。
朝になって、休日に限っては猫みたいに早く目覚め、俺にさっさと飯を作れと構い倒すくせに今日はどうも魘 されている。お前はお前らしく晴れ渡った花畑でアゲハチョウでも追いかけ回す夢でも見ていろと思った。そうして変なものを拾って食って、腹を壊す。どうせそういう夢をみているんだ……
―けれども心配になる。惚れた弱みだ。この犬みたいに人懐こいかと思うと猫みたいに気紛れを起こしサルみたいに身軽さで、どこへでも行ってしまいそうな自由なこいつが、何を恐れているのか。
「おい」
俺は布団を剥いだ。いやに蒸れた熱気を感じる。ぐったりとおとなしく枕に寝ていると、俺も不安になる。
「おい。大丈夫か」
「うん……?まだ、待って……今日ちょっと、あんまごはん、食べたくない……」
これは一大事だった。俺の頭は真っ白になって、一瞬止まってしまったが、ぼんやりしている場合ではなかった。
「すぐに何か買ってくるからおとなしく寝ていろ、いいな?」
俺もその後のことはよく覚えていない。とにかく手にはビニール袋があって、家中を引っかき回した痕もある。
「みかんゼリー食うか?プリンがいいか?粥もある。うどんにするか?玉子スープもあるぞ」
こいつが朝飯を抜くなんてことは有り得ない。そんなことになったら餓死してしまう。とにかく少しでも何か食わせて、薬を飲ませなければならない。
「オマエ、だいじょーぶ?なにコーフンしてんだよ」
汗ばんだ身体を支え起こしたら、俺の額にはこいつのやたらに熱い掌がぶつかった。
「熱あるんじゃね?病院いけよ」
こいつは自分の不調に気付いていないみたいだった。
「熱があるのはお前だ。しっかりしろ。みかんゼリーでいいな?今食わせてやるから……」
こいつはまだ自分の体調も把握できないで、俺がゼリーを開けるのを見ていた。いつもの丸呑みするみたいな食べ方は今のこいつには苦しいだろう。細かく掬い取る。みかんも半分に切った。
「なんでそんなちまちま食わすの。っていうかなんで食わしてくれんだよ。自分で食えるって」
「お前は熱があるんだ。おとなしく食べさせられていろ」
「はぁ?熱なんかないだろ。熱あるのオマエじゃね」
こいつは俺の腕をすり抜けて、あろうことか俺の額に頭突きをした。こいつと肌と肌がぶつかってる。実質それは、つまり……キ、キ、キ、……
「うお!オマエ冷たくて気持ちいーな!」
俺の手から食べかけのみかんゼリーもスプーンも無くなっていって、俺は氷枕の抱き枕にされてしまった。
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うつるが。
2021.10.22
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