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【6000アクセス記念】或る未完の上のみかん色

 衣替えは少し遅かったかも知れない。こたつで(ぬく)まる俺を放っておいて、彼はせっせと夏物と冬物を仕分けていた。少し寂しいが、俺は彼の姿を見ていられたらそれでもう幸せで、彼も俺が居るときでないとやる気が出ないそうだ。それなら仕方がないだろう? 「これは古着屋、これは着る。これも。これも……」  俺は動物の動画を流しっぱなしにして、ショウガラゴみたいな恋人を眺めていた。  彼の仕分けは容赦がない。これが俺との性格の違いか。俺はあれこれ考えて、後悔するときのことまで考える。だから捨てられないものばかり。やらないことも多い。けれど彼は違う。手に取ったそのときからもう決めているみたいだった。  そして捨てることになる山に、みかん色のパーカーを見つける。 「それ」  俺は気付くと彼を呼んでいた。 「うーん?」 「気に入ってただろう……?」  眩しいオレンジ色のパーカーを、俺はよく覚えている。初めて彼と会ったときもこれを着ていた。彼は何もかも眩しかった。 「結構長いこと着たしさ。擦り切れてきたし、もういっかなって」  持主は彼で、その彼には何の頓着も無さそうだった。 「なんで?」  俺は顔に出ていたのか。彼は首を傾げた。昔と変わっていない。 「気に入ってたから……」 「ああ。着たかった?着る?結構ぼろぼろだぜ。っていうかサイズ合う?」 「いいや……そうではなく……」  彼は昔と変わらない。形のあるものは古くなって傷み、脆くなっていく。俺たちは確かにまだ若くて、両親や周りの友人なんかを見ていると、人は変わっていくもので、俺も彼もまだ未完成だ。服は俺たちの関係の通過点で、いずれ忘れ去られていくもの。ただ、あの鮮やかなみかん色が俺の目を惹いて、眩しく思った。顔を見た途端、もっと惹きつけられた。太陽が傍にある。目が潰れるかと思った。あの日は曇りだったのに。 「いい色だよな。一目見てこれだって思ったんだよ。結構長く着たし、ありがとなって。それからお疲れ様ってね」  彼の優しさが、たまに残酷に映ることがある。俺と考えが根本的に違う。だから惹かれているのだろうけれど。いつか俺も捨てられるのではないか。 「ちょっと迷ったケドさ、おまえが覚えててくれてるなら、やっぱ遠慮なく捨てられるわ」  俺は彼が好きでもうどうしようもない。彼が俺を捨てるとき、俺は多分、みっともなく縋り付いて、恨みながら嫌いになれないのだろう。 *** 1000字弱 メンヘラ気にしぃ美青年→→→→鈍感奔放ワンコ(ショウガラゴ…?) 2022.12.6

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