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第1話 説得?
「|泰誠《たいせい》、お前、人を説得すんの、得意?」
………またおかしな事、言い出したな…。
泰誠の、最初の感想は、それだった。
その言葉に、何の前触れもなかった。
|宮原 泰誠《みやはら たいせい》と |加藤 郁巳《かとう いくみ》は、中学から一緒。高校・大学も同じ。
もちろん偶然じゃなくて、高校からは一緒に受験した。
親友だと周知されているけれど、さすがに飽きないかとか、嫌な所が見えてこないのかという、友人たちの言葉にも、即「飽きない」と答えられる位。
郁巳と自分は合ってると、泰誠は思っていた。
家から大学まで遠かったので、お互い一人暮らしをするかという話が出た時に、一緒に暮らさないかと言い出したのは泰誠だった。郁巳は親とも話して考えてくると言って別れた翌朝、「一緒に暮らそ」と笑った。
二月末から準備をして三月から暮らし始めた。それから、もう三ヶ月。
そして、二週間後の、六月三十日は郁巳の誕生日。
夕飯の後、テレビをつけて、二人でコーヒーを飲んでいた。
ふと思い出して、誕生日に何が欲しいかと、そんな話を泰誠がし始めた時だった。
郁巳が急に言ったのが、さっきの台詞。
「泰誠、お前、人を説得すんの、得意?」
………………意味が、わからない。
オレ今、誕生日に欲しいもの、聞いたよな…。
こいつ、また、人の話、聞いてないな…。
郁巳の事は誰よりも好きだし、一緒に居たいと思ったからこそ、一緒に暮らし始めた。
性格は違うけれど、違うところがぴったりはまる、というのか。 とにかく、昔から知ってるのもあって、余計な気を使わなくても居心地が良くて、楽しい。基本的には、そう思ってる。
ただ、たまに、自分の世界に入って、話を聞いてないことはある。
今回も、そうかな、と思って、目の前の郁巳を見つめる。
「…お前、人の話聞いてた? オレは誕生日、欲しいものあるかって」
「欲しい物、ない」
まだ台詞の途中で遮られて、あっさりとそう言われた。
……………。
…何なんだ…。
毎年、誕生日を祝いあってきた。
プレゼントを決めるのも、去年までは楽しそうに、あれがいいとかこれがいいとか、色々話してた。
そういう話をするのも楽しかった、はず。
泰誠は去年までの記憶を思い起こし、このあんまりな郁巳の対応が、全く納得いかず、無言になる。
「何その顔? …怒んなよ」
なぜか、郁巳の方が、むっとする。
なんでお前が怒るんだ。
そう言いたいところだけれど、そこは少しこらえて、泰誠は、なるべく普通に言った。
「お前の誕生日プレゼントなんだから、少しは考えてくれてもいいだろ?」
「だって、今、無いんだよ。 もし思いついたら言うから」
「…んなこと言ったって、もうすぐだろ?」
準備とかもあるし。
すぐ手に入らないものだったら間に合わねーし。
泰誠が、ため息をつきそうな気分に陥ったその時。
「別に物もらわなくても、お前が祝ってくれるならそれでいいし」
さらりとそんな台詞。
「……あ、そう…」
なんだか、脱力感でいっぱいになる。
やっぱり、自分が、一緒に暮らしたいと思った相手が、そんな風に言ってくれると、嬉しい。
でも嬉しいけれど、何だか、ここで素直に喜ぶのもどうかと思って。
「でもやっぱり、何か祝いたいけど」
「――――……その話さ、後で考えとくからさ」
「から、何?」
郁巳の次の台詞を待っていると。
「だからさ、お前、説得すんの得意だよな?」
「説得? さっきから…それ、なんなんだよ?」
泰誠は深くため息をついて、目の前のまじめな顔をしてる郁巳から目をそらしてしまった。
今の今まで忘れていたけれど、そういえば、ごくたまに、郁巳はこういうことがある。何かがあった時、とにかくよく考えてから話してくるタイプなので、多分、郁巳の頭の中では、相当色々考えた末に出た言葉なのだろうとは思う。けれど、そのくだりを全く知らない泰誠にとってみれば、いきなり何を?という状態。
今度は、何の話だ…。
何を考えているのか、と思いながら、ゆっくり、郁巳に視線を戻した。
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泰誠のモヤモヤ悩みを楽しんで頂けたら…。
by悠里
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