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ハワイへやってきた

 どこまでも真っ青な晴天の空に、綿菓子のような白い雲が気持ち良さそうに泳いでいる。  そこにヤシの木の緑が映えてとても美しい。この風景をそのまま切り取って、鞄に詰めて持ち帰ることができたらいいのに、と思う。  これで、周りに誰もいなかったら完璧だけどな。  温かい砂浜の上に座り込んで、中嶋瑛斗(なかじまえいと)は辺りを見渡した。  午前中の早い時間にも関わらず、ワイキキのビーチは沢山の地元民や観光客ですでに賑わいを見せていた。  夏休みの混雑を避け、あえて9月にハワイへとやってきたのだが。雨期に入る直前でもあり、大きなイベントも開催されるこの時期は、8月と変わらずハワイ全島が繁忙期だった。きちんと下調べをしてこなかった自分が悔やまれる。 「瑛ちゃん、こっち向いて」  そう言われて、声がしたほうに顔を向ける。そのタイミングで一眼レフのシャター音がして、カメラの向こうから山本(やまもと)の笑顔が覗いた。 「ヤマ、こっち来てから何枚撮ってんの? しかも俺ばっか」 「えーいいじゃん。だって、俺が撮ってたら、被写体になるの瑛ちゃんしかいないし」 「そうだけど、もっと他の人撮ったら? 綺麗なお姉さんとか」 「見ず知らずの人撮ったら、捕まるって」  瑛ちゃんがモデルでいいの。そう言って、山本が瑛斗の隣へ腰を下ろした。  山本は、猫も杓子も携帯で写真を撮りたがる今日に、一眼レフをわざわざ持ち歩くほどの写真好きだった。趣味とはいえ、大学生には痛い値段のする一眼レフを思いきって購入したぐらいなので、写真を撮るこだわりは人一倍あった。  確かに山本の撮る写真は、どれも心の中がじんわりと温かくなるような、印象に残る写真が多い。趣味ではなく、本当にその道を目指せばいいのに、と瑛斗は秘かに思っている。  瑛斗と山本は、関東にある大学の同期だった。山本は温厚な性格で、少し気は弱いが人の良いやつだった。曲がったことが嫌いでよく典型的な日本男児だと言われる瑛斗とは全く性格が違ったが、入学当初から不思議とウマが合ってよく一緒に時間を過ごしている相手だった。  大学最後の今年度はずっと就職活動で苦労して、1ヶ月ほど前にふたり揃ってようやく内定を手に入れたあとだった。せっかくなので、内定祝いも兼ねてちょっと贅沢な海外旅行でもしようとハワイにやってきたのだ。  実を言えばもう夏休みも終わり、新学期はとっくに始まってはいる。しかし、残りの大学生活は卒業できる程度に単位を確保すればいいだけなので、多少休もうがなんとかなりそうだった。休むと言っても1週間だけで、大した影響もないだろうし。  そんなわけで、今までバイトなどで貯めた有り金全てをはたいて旅に出て、こうしてのんびりと休暇を楽しんでいる。

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