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ほっぺプクーは断固拒否
「ああ、俺、小さいころ、誘拐されそうになったことがあったんだけど。そのことがあってからどっか行く時は同行させろって言われてて、その名残みたいなもん」
「そうなの……?」
さらっと言ってるけど、誘拐って。かなり深刻な過去じゃねーの?
そう心の中で思ったが、なにも言わずに相良の話の続きを聞く。
「まあ、もう俺もでかいし、必要ないと言えばないけど、この状況に慣れてるから。ある意味こいつはもう友達みたいなもんだし。ガードというよりは付き合ってもらう感覚でたまに付けてる」
『友達』と言われた、黒人のボディーガードをチラリと見ると、思いっきり目が合った。ビビる瑛斗をよそに、ニコリと笑顔を返してきた。
それに気づいた相良が、ボディーガードに英語でなにか話しかけた。
当たり前だけど、そりゃ、喋れるよな、英語。
ボディーガードがそれに対してなにか答えると、相良は満足そうに笑った。
「なあ、今、なに話してたの?」
自分のことをなにか言われていた気がして、相良に聞いてみる。
「ん? ああ、瑛斗に手ぇ出すなよって言っただけ。俺のだから」
「……それ、どういう意味?」
っていうか、いつからお前のもんになったんだ、俺は。
「言葉通りだろ。そしたら、そんな上玉の可愛らしい子には恐れ多くて手ぇ出せないって」
「なにそれ……」
俺は、どっかの芸妓か。
自分が男として扱われてない気がしてなんだか腹が立つ。ボディーガードの彼からすると、それは褒め言葉として言ってくれたのかもしれないが、今まで普通に男として生きてきた自分には『可愛い』と言われることには抵抗があった。
反抗する意味を込めて相良を軽く睨むと、顔を逸らしてふんっ、と顔を窓へと向けた。その際に、無意識にプクっと頬を膨らませていたらしい。
「瑛斗……」
名前を呼ばれてちらりと視線を向けると、相良が歓喜の表情でこちらを見ていた。
「なんだよ?」
「それ、もう1回やって。ほっぺプクーって」
「は?」
「今したじゃん。めちゃめちゃ可愛い」
「ただの癖なんだけど……」
「いいじゃん。すげぇいい。ほら、もう1回」
「嫌だ!!」
可愛い、可愛い、うっさいんだよっ!!
瑛斗はそれから着陸するまで、脅されようがなにされようが、断固としてほっぺプクーを拒否したのだった。
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