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相良のこと ①
「なあ……」
「ん?」
相良がこちらを見る。
「相良のこと、教えて」
「俺?」
「うん。俺、お前のこと、まだなんも知らないし。知らないままさよならするのも、なんか嫌だし」
「……さよなら、なわけ?」
「いや、だって、明日、俺帰るしさ、日本に」
「……俺のことなんて、大した話ないよ」
「そんなことないだろ。あ、そしたら、俺が質問するから答えてよ」
「……いいけど」
「相良って、日本人だよな?」
「そう。色白のせいでよく外国人に間違われるけどな」
「ハーフとかじゃないの?」
「違う。親、どっちも日本人」
「関東の人?」
「じいちゃんはな。親はよく知らない。俺が小さいころ死んだから」
「え……。そうなの……?」
「ん。交通事故だって聞いたけど。俺、1歳ぐらいだったから、記憶ないんだよ」
「そうだったんだ……。ごめん、思い出させて……」
「いいよ。昔のことだし。俺にはじいちゃんがいたから、寂しくなかったし」
「ご健在なのか?」
「いや、もういない。3年前ぐらいに死んだから」
「姉弟は?」
「いない。親戚に従兄弟はいるけどな。年下だから弟みたいに可愛がってる」
「そうか……」
相良がグラスを手にして、カクテルを一口含んだ。窓の外に視線を向けたまま話を続ける。
「まあ、じいちゃんのおかげで親戚との付き合いも円満だし、血筋という意味では繋がりはあるけど、本当の家族は俺を育ててくれたじいちゃんだけだった」
「……いい人だったんだな」
「ん。すげぇ人だった。今の会社もじいちゃんがいたから、ここまで大きくなったと思うし、人望も厚かった。俺にも色んなこと教えてくれたしな」
「会社は継がねーの?」
「……いつかはな。それが、じいちゃんの意志だったし」
「今は親戚の人が継いでるんだろ?」
「ん……。それも、じいちゃんとの合意の上なんだよ。俺が、その器になるまで、親戚……まあ、叔父にあたる人なんだけど、叔父一家が会社を面倒みてくれるっていう」
「そうか……」
「じいちゃんに聞いたことある。なんで、そんなに会社のために頑張るんだって。そしたら、じいちゃんは、自分には守りたいものがあるって。その守りたいもののために、この会社を守ってるんだって」
「なんだったんだろうな。守りたいものって」
「……俺だって言ってた」
「……そうなの?」
「ん。俺が、この先なにがあっても自分の力で生きていけるように、それを支えるものを残したいって。じいちゃんは、俺を全力で守ってくれた。だから、いつか、俺に守りたいものができた時に、じいちゃんが残してくれた会社を、俺の守りたいもののためにまた残していけたらとは思ってる」
「そうか……」
「金があれば幸せっちゅーわけじゃないけど、でも、自分が守りたい、大事にしたいものに、少しでも楽な思いをさせてやりたいとは思う」
「…………」
相良は別に、祖父から残されたものでただ遊んでいるわけではなかったんだな、と瑛斗は思った。会社の将来も見据えて、それなりに、色んなことを考えているのだろう。
その時期がきたら、守りたいものができたら、きっとこの男はなにもかもを犠牲にしてでも、そのために動く覚悟はできているのかもしれない。
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