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似合ってるよ
「あ、でもその前に着替えて。一応ドレスコードあんだわ。用意しといたから」
そう言われて、着替えるためにスタッフに客室へ案内される。その部屋の壁に掛けられていたのは、高級そうな黒のタキシードだった。
俺が着たら七五三じゃん。
絶対似合わないだろうなと思いながら、袖を通す。なぜかサイズがぴったりだった。その事実が瑛斗をまたゾッとさせた。自分は一体どこまで相良に調べられているのだろうか。
そう思いながら部屋を出て、またスタッフに案内されながらバーが併設されたレストランへと向かう。レストランの入り口に、もうすでに着替え終えて窓から景色をぼうっと見ている相良の後ろ姿があった。瑛斗が来た気配に気づいて、相良が振り返った。
「…………」
しばらく、お互い無言だった。わかってはいたが、相良のタキシード姿は完璧だった。女性スタッフが思わず見とれてしまうのも頷ける。すらっとした長身に、瑛斗が着ているものと同じシンプルな黒のタキシード。それと同系色のベストを中に羽織って、小さくまとまった蝶ネクタイが嫌味なく首元にある。とても似合っていた。顔が良いと、なにを着ても様になるなと思う。
そんな相良は、目を細めて、嬉しそうに瑛斗をしばらく鑑賞していた。
「……なに見てんだよ」
その舐め回すような視線に耐えられず、瑛斗は抗議した。
「似合ってるよ。タキシード」
「んなわけない。俺が着たら子供にしか見えねーだろ」
「そんなことないよ。似合うだろうなと思った。瑛斗、手足長いから」
「手足? そんなこと、言われたことないけど」
「そうなんだ? 瑛斗の周りの奴らは見る目ないんだな。瑛斗の魅力に気づかないなんて」
「……どんな魅力だよ、それ」
ふっと相良が笑った。
「まあいいじゃん。俺がわかってんだから。行こ」
レストランに入ると店員にバーへと案内されて、窓側に面した洒落たカウンター席に腰掛けた。
出されたカクテルを少しずつ飲みながら、相良と並んで船から夕日を眺める。最初は全く気が乗らなかったが、そのあまりにも綺麗なサンセットに次第に心を奪われていった。
「すっげえ、綺麗だな」
そう誰にでもなく呟いて、海に浮かぶ島々が昼から夜の顔へと徐々に変わっていく様子を見つめた。ぽつぽつと島の明かりが灯り、輝き始める。途端にハワイの海が濃紺に染まっていった。
隣を見ると、相良もじっと夜景を見つめていた。その整った人形のような顔に、またしても瑛斗の胸がドキリと鳴る。そこで、相良の表情が今日幾度となく見てきた自信満々の相良の顔つきとは違うことに気づいた。どことなく寂しそうな、悲しそうな表情に見えた。
ふと、相良のことを知りたいと思った。
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