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Love1 始まりの出会い

雲ひとつない青空。 眩しい日の光に、目を細めながら手をかざして見上げる。 ジメジメした梅雨がようやく明け、乾いた風が肌に当たりながら通り過ぎていく。 大学に足を踏み入れれば、途端にひそひそと声が飛び交う理由は分かっている。 僕の事を噂しているんだ。 その証拠に、聞こえてくる声の方に視線を向ければ一瞬にして顔を逸らされる。 苦笑いを浮かべ、僕は自分の学部がある校舎へと向かう。 「ほら、あいつだろ?ゲイで男好きって噂の奴」 不意に聞こえてきた言葉に、僕は歩みを止め振り向く。 僕と視線が合った相手の男性は、何とも言えない表情をしながら去って行った。 その後ろ姿を見つめながら、肩に掛けているリュックのショルダーストラップを強く握り締める。 仕方ない…。 僕は、同じ同性しか愛せないゲイだ。 だからと言って誰彼構わず好きになる事なんてない。 むしろ、好きになった相手さえ居ない。 いつも気味悪がられ暴言を吐かれてきた僕に、誰かを好きになる事なんて出来なかった。 ただ、普通の人達と同じ恋愛をしたかっただけなのに。 それでもいつか……。 こんな僕にも好きと言ってくれる人が現れたら、どんなに幸せな事なのだろうか─。 ✻✻✻✻✻ ✻✻✻✻✻ ✻✻✻✻✻ ✻✻✻✻✻ ✻✻✻✻✻ 「…あの、僕、急がないと講義に間に合わないんです。お願いですから通して下さい」 「だーかーら!少し写真撮るだけだから良いだろ!」 「どうせ毎日男とやってんだろ。今さら純情ぶんなよ」 僕は5人の男性に囲まれて身動き出来ずにいた。 校舎に着く目前で腕を捕まれ、違う学部の校舎裏に連れて来られた僕は、好き勝手に言われるがまま立ち尽くす。 男性2人の手にはカメラが見えた。 僕の裸を撮って売るつもりなんだ…。 今に始まったわけじゃないけれど、それでも何とか回避してきた。 ………。 今日は難しそう。 「ハーフで美少年の君だからこそ頼んでるんだ。むしろ喜んでほしいんだけど?」 目の前で話す男性に、僕は何も言い返せなかった。 美少年って言うのは自分では分からないけれど…ハーフなのは確かだ。 母親譲りの白い肌に、声変わりしたのに女の子のような声。 からかわれるのはどこの国でも同じだ。 ふと、左手にしている時計を見た僕は、講義に間に合わなかった事に小さくため息を付く。 だからその行為が、男性達を怒らせてしまった事に気付けなかった。 「俺達を舐めやがって」 「えっ?ちょっ、何するんですか!」 「うるせぇな!じっとしとかないと怪我するぞ!」 「や、止めっ…誰か!助けんんっ!!」 突然ワイシャツを引き裂かれ、身動き出来ない僕は必死に抵抗した。 けれど、両腕を壁に押さえつけられ怖くなった僕は叫ぶも、手で口を塞がれ暴れる。 怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い! 誰か助けてっ!! 目を瞑る瞬間、人影が見えた。 「おい、お前等!数人で寄ってたかって何してんだ!」 突然の声に、男性達が一斉に振り向く。 彼等を睨みつけながら男性が立っていた。 口を塞がれたままの僕は目で訴える。 どうか助けてと。 「俺達の問題だから外野はすっこんでろ」 「おい、俺は助けに入らない方が良いのか?」 「てめぇ、俺の話聞いてなかったのか?」 「黙れ。俺はそいつに聞いてるんだ」 数人相手に彼が敵うわけない。 …それでも、助けに来てくれた。 僕の叫び声を聞いて。 彼と視線が合う。 逸らされる事なく、真っ直ぐ視線を向ける彼に、僕は塞がれていた手を押し退け叫ぶ。 「助けてっ!」 その言葉を聞いた彼は小さく笑うと、あっという間に男性達を倒していった。 一瞬の出来事に、僕はただ呆然と見ていた。 地面に倒れた彼等を避けながら目の前に来た彼。 「大丈夫か?」 「は、はい。あの、あ、ありがとうございました」 「助けて当然の事をしたまでだから礼は良いって。…それより派手にやられたな。着替えはあるのか?」 「えっ?あ……ないです」 「んー…」 引き裂かれた服を触りながら困った顔で彼に話す。 すると、一瞬何かを考える表情をした彼が突然自身の着ている服を脱ぎ始めた。 気が付けば僕の服を脱がし、彼が着ていた服を着せられた。 僕を見た上半身裸の彼が苦笑う。 「俺の服で悪いけど…ないよりかはマシだろ」 「でも、それじゃああなたの服が…」 「ほら、替えの服あるから心配すんな」 彼はそう言うと、カバンの中から黒いワイシャツを取り出した。 替えの服を着た彼が、まだ地面に転がる男性達に近付く。 「おい、お前等。今度こいつに近付いてみろ。俺がただじゃおかねぇからな。分かったか」 彼の言葉に男性達が強く頷く。 …なんて、強い人なんだろう。 背中を見つめながら、僕は何とも言えない気持ちになった。 ほら行くぞ。と言われ、僕は彼の後ろを付いて行く。 風に乗って、服から彼の匂いが香る。 石鹸の爽やかな匂い。 思わず襟元に鼻を寄せる。 「悪い、汗臭かったか?」 「へっ?あっ、いえ、良い香りがしたので嗅いでしま…っじゃなくて大丈夫です」 「ふっ、変な奴」 変な言い方になり、慌てて訂正する。 それでも嫌な顔をせず笑って話してくれる彼に、僕の体温は1度ずつ上がっていく。 「あの、その、僕と一緒に居て平気ですか?」 「は?どう言う意味だ?」 「…僕の事を知らないんですか?」 「何の話をして「碧生(あおい)!!」…げっ」 突然遮られた会話に、彼は声の主を見て嫌な顔をした。 気になり後ろを振り向くと、相手が僕を見て固まる。 「おい、何固まってんだ!早く来い!」 「っと、そうだったそうだった。…じゃなくて碧生!お前いつの間にこの美少年と知り合いになったんだ?」 「はぁ?」 「お前知らないのか?ゲイで有名なハーフ美少年の篠原(ささはら)ノアだよ」 相手の言葉に彼が僕をジッと見る。 変な汗が流れた。 彼も、気持ち悪がるに決まってる。 僕は視線を逸して下を向いた。 「やっぱりお前ハーフだったのか」 「そこかよ!ゲイなんだぞ!?」 「はぁ?ゲイだからって何だよ」 「……気持ち悪くないんですか?」 「お前も何言ってんだ。ゲイだからって気持ち悪くなるかよ」 それよりこいつの事ゲイって呼ぶな!と、彼は相手に怒っていた。 …今までこんなにも優しい人なんて居なかった。 気持ち悪がられるどころか、拒絶さえされなかった。 「!…おい、やっぱり殴られたのか?どこが痛むんだ?ん?」 駆け寄って来た彼を見て、僕は自分が泣いている事に気付いた。 心配そうな顔をしながら顔を覗く彼に、僕は静かに泣き崩れた。 肩を震わせて泣く僕に、そっと優しく背中を撫でる彼の手は……とても温かった。        篠原ノア─19歳。 僕は太陽のように暖かく、優しいヒーローに出会った。

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