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第3話
ここの城の住人は皆瞬間移動できるのだろうか。裏柳はポカーンとしてしまっていた。
「失礼します」
と、ピンクで可愛いフラミンゴが部屋に入ってきてから挨拶してきた。
「採寸させて頂きますね」
ジーっと裏柳を見つめるフラミンゴは、どうやら目測らしい。
「はい! 終わりました。さっそく作ります」
それだけ言っうと、さっさと消えた。
まるで嵐の様なので、裏柳は呆然となってしまう。
さっき食後の珈琲だと淹れに来てくれた羊さんも勝手に入って来て勝手に居なくなった。
もしかして、この部屋の扉はすり抜けられる扉だったりするのだろうか?
裏柳は試しに扉に手を置いてみる。普通に固い扉だ。何度試してもノブは回らないし。
もっと出たいという意志が必要なのだろうか。
裏柳はおもいっきり体当たりしてみる。
やはり白の王国の人間では駄目なのだろうか。魔法とか使えないし。
「裏柳、何をしている」
突然、バンと顔の横に手をつかれ、驚いて振り向く。
「漆黒……」
顔が近くて驚いた。凄い睨まれている。
「逃げたいか」
そう低く、唸る様な声で言われ、震えてしまう。
食事の時はあまり怖い人ではないのかもと思ったが、やはり怖い。
だが全く逃げようと言う気は無かった。逃げられる気もしなかった。ただ部屋から出られるのかどうか、気になっただけたなのだ。
裏柳はプルプルと首を振る。
「まぁ良い。お前では開けられないし逃げられ無いだろう。万が一逃げても迷子になるだけだ。魔物や獣の餌になりたく無ければ大人しくしてる事だな」
フンと不機嫌に鼻を鳴らしたかと思うと急に抱き抱えられ裏柳は驚く。
「うわぁ! 何だ!?」
「湯浴みの時間だ」
「お風呂?」
気付くと、もうそこは脱衣場の様な場所で、床に下ろされる。
「いちいち移動に抱き抱えるのはやめてくれ!」
何度も驚かされ、裏柳はたまったものではない。
「お前は一人でこの城を移動出来ないだろうが。こうするしかない」
「じゃあせめて部屋に入る時、ノックぐらいしたらどうなんだ。お前もだが誰もしないじゃないかマナーがなってないんだ!」
「ノックだと?」
「人の部屋に入る時はコンコンとドアを叩いてから入るものだ!」
「そうなのか。面倒だが仕方ない」
怒る裏柳にハァーと溜め息を吐く漆黒。なんだか自分が我が儘を言っている気分になる。心外だ。自分は何も変な事は言っていないと思うんだが。ノックは普通にするだろう。
「服を脱げ」
「え?」
急に命令され、聞き返す。
「風呂に入らないのか?」
「お前も入るのか?」
「当たり前だろ。風呂は毎日入るものだ」
「一緒に?」
「そうだ」
「背中を流して欲しいのか?」
「それなら下僕にさせる」
「?」
「?」
首を傾げる裏柳に、漆黒も首を傾げた。
お風呂って一緒に入るものなのだろうか。確かに白の王国の民には大浴場を複数人数で入る文化もあると聞く。そういうものなのだろうか。黒の国では王族も皆と入るのか?
「他の獣も入っているのか?」
そう確認する為に聞く裏柳。
「俺の風呂に下僕が入浴している訳ないだろう。白の王国ではそうなのか?」
漆黒は変な顔をしている。
「いや……」
と、言う事は、やはり二人っきりでお風呂……
「いいから脱げ。入浴出来ないじゃないか。面倒くせぇな脱がせてやれば良いのか?」
何が気にくわないのか、脱衣場まで来て一向に服を脱ごうとせず、意味の解らない質問を繰り返す裏柳に、漆黒はイライラしてきてしまった。見れば漆黒は既に服を脱ぎさっている。
がっちりとし、まるで彫刻の様な体つきである。
「うわ! ちょっ、ちょっと待ってくれ。俺達まだ挙式も上げてないのに一緒にお風呂に入って良いのか!?」
一瞬見とれてしまいそうになった。
裏柳は顔を背け、赤面してしまう。
「式など形に過ぎない。白の王国の礼儀は弁えているつもりだ。お前が俺の薔薇を受け取った時点でお前は俺の妻だろ」
「そ、そうだけど…… 心の準備が……」
「別にまだ何もしない。風呂の温度調節をしてやりたいだけだ」
漆黒はハァーと、溜め息を吐く。
「先に入っているぞ」
赤面し、顔を伏せてしまっ裏柳に仕方なく先に入る事にする漆黒。
さっきは思わず服を脱げと強く言ってしまったが、無理強いしても仕方ない。
裏柳が一緒に入りたく無いなら風呂は諦めさせるしかないだろう。
後で部屋に足風呂でも用意させるしかない。
何せここの風呂は温泉のしかも源泉掛けながし、湧き出たばかりのボコボコと煮たったお湯なのだ。
そのまま裏柳が入ったら大変な事になってしまう。
「煮、煮たってる! 俺の事食べる気なのか!?」
思いの外早く来てしまった裏柳は悲鳴を上げて腰を抜かせてしまった。
「温度調節をすると言っているだろ。45度ぐらいでどうだ?」
「40度が良い」
「40度?」
そんなにぬるくて良いのか?と、言うか40度なんて水だろう。
川に入りたかったのだろうか。
まぁ、裏柳が40度と言うのだから40度にしてやろう。
「よし、ほら来い。大丈夫か?」
腰を抜かせて立てそうにない裏柳を抱き抱える漆黒。
なんだか涙目である。悪いことをしてしまったかもしれない。
怖がらせるつもりは無いのだが……
長く魔物や獣しか相手にしていなかったものだから、人間の相手の仕方がよく解らないのだ。
「いやだ! 嘘つき!! まだ煮たってる!!」
バタバタ暴れ出す裏柳。
「仕方ないだろう」
このお湯はここから各階の風呂へと供給されているのだ全部冷やしてしまうと他の者が困る。急に風呂が水になってしまったら皆嫌だろう。
「イヤだ! 死んじゃう!! うわーん!!」
「俺の回りだけ冷す。大丈夫なんだ」
「俺なんて食べても不味いぞ!」
「食べない」
「怖いよ~~ 助けてくれ!! ぎゃぁっ!!」
泣き叫ぶ裏柳に困りつつも、ゆっくりお風呂に入ってみる。
怖くて漆黒にしがみつく裏柳。お湯が体に触れる。
「あれ?」
熱くない。
目を開いて風呂を見てみる。
自分達の回りだけお湯が静まっていた。
「どうだ? 熱くはないだろう」
と、言うか漆黒にとっては水である。
「……熱くない」
「ぬるかったり熱かったりしたら調節するから言え」
「ありがとう」
「うむ。あまり体を離すなよ。そっちは煮たってるからな」
「ヒエッ!」
お風呂に入るのも一苦労であった。
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