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第6話

「そんな急に延期等言われても困ります」 「急に式を挙げると言ってみたり取り止めると言ってみたり」  食事の席で家臣に小言を言われる漆黒。 「花嫁が体調不慮なんだぞ。何か有ったらどうする気だ! そもそも式なんて俺は挙げたくねぇんだよ」 「フラミンゴももう衣装を作り上げていますし」 「会場準備も整っていますし」 「皆にも伝えてしまいましたし」 「別に大きな国でもねぇんだ。問題は無いだろう」 「信用問題になります」 「あーもう! 飯の時にごちゃごちゃとうるせぇ」 「飯の時に話を出した王に問題が有るかと」 「なんだと、お前解雇するぞ」 「何かあると直ぐに解雇解雇と」 「本当に解雇してやる!」  あーだこうだと言い合いを繰り返す漆黒と家臣達。 「そうだぞお前から言い出したんだ。俺には何の問題も無い。もう元気だ。さっさと面倒な事は終わらせよう。式も挙げた方が良いだろう。体裁がある」  見かねた裏柳が仲裁の為に口出しする。  自分も結婚式など挙げられたくは無いが、白亜が式なんて挙げたくないよ等と言い出したらお尻ペンペンする。 「おお、流石は花嫁殿は話が解りますな~」 「いやぁ確りした花嫁殿で安心しました」 「肝が座っておりますなぁ」  ハハハと笑う家臣たちに笑顔を返す裏柳。 「ワニさんの料理は美味しいですね。これは何ですか?」 「ニュジュアジアのニユルニユルです」 「聞いても解りませんな」  ワニと談笑しだす裏柳に何だか面白くない漆黒。  裏柳の為に言ったのに、何だか自分が我が儘を言った様になってしまった。  そもそも王である自分にタメ口で家臣であるワニに敬語とはどういう事だろうか。  まぁ、別に良いんだが……  因みに裏柳が今食べていのはただのワカメスープみたいなものだ。  食事の後、漆黒が備え付けてくれたであろうユニットバスで体を洗う。  途中、手伝おう等と言って入って来ようとした漆黒に桶を投げつけて追い出した。  時折怖い顔をしたり、凄んで威圧的な態度を取る漆黒であるが、割りとお願いは聞いてくれるし、元に出て行けと桶を投げたら大人しく出て行ってくれた。  家臣達も気さくに話してくれる。  大きい体格と見た目の怖さから誤解したが、割りと良い奴らなのかも知れないと思えてくる。  鼻歌混じりにシャワーを浴びる裏柳。  どこでも住めば都だ。  小水は飲ませなければいけないし、そのうち子作りもしなければいけなかったり、食べられるかも知れないけど……  やっぱりちょっと怖いな。  あまり先の事を考えるのはよそう。  シャワーから出るとフラミンゴが待ち構えていた。  目にも止まらぬ早さでドレスを着付けてくれる。  花嫁と言われるだけあって、やはり花嫁衣裳である。漆黒のドレスであるが。 「せっかく綺麗なお顔なのに隠してしまうのが勿体ないですね」  そう残念そうなフラミンゴ。 「支度は出来たか」  丁度良く漆黒が部屋に現れる。  カッコいいタキシード姿である。  体格が良く、足も長いモデルの様な体型なので何を着ても様になる。 「ほう、なかなかの別嬪じゃねぇか」 「アンタもカッコいいな」 「えっ……」  まさか誉められるとは思わず、驚く漆黒。  空耳かもしれない。  カッコいいと言われた気がした。 「花婿がそんな間抜け面でどおする」  アハハと笑う裏柳。 「間抜け面も何も面は変わらんがな。お前も悪いがこれを着けろ」  そう言って漆黒が差し出したのはお面である。  般若の様な…… 「これって、えっ……」  待って、これ。 「俺とお揃いだ」 「お面だったのか!?」 「気付かなかったか?」 「だって……」  表情が自然に動いて見える。 「人前に出る時には着けるのが仕来たりなんだ。羊や虎、ワニとフラミンゴ辺りは俺の側近中の側近なので別に外してても構わないがな」 「俺は駄目なのか?」 「ん?」 「俺には見せてくれないのか?」  側近には素顔を見せると言うのに妻である筈の俺には見せないとはどういう了見なんだ。  少しムッとしてしまう裏柳。 「ああ、すまないな。俺は外しても良いかと思ったんだが礼儀として式を上げるまでは外すなと側近達が煩かったんだ」 「じゃあ式を挙げたら見られるのか?」 「ああ、まぁ。大した顔では無いから期待すんなよ。もしかしたらお面の方が良いかもな」 「そうか! それは楽しみだな」 「楽しみにするなと言ってるんだろ」  ハァと溜め息を吐く漆黒に、裏柳は何だかワクワクしつつお面を付ける。  すごいフィット感だ。直ぐに違和感を感じなくなり、お面の上から眼鏡をかけるともう普通の状態であった。  支度が終わり最終確認をすると、漆黒が裏柳を抱き上げ瞬間移動する。  次の瞬間にはバルコニーであり、下には沢山の獣達がワーワーと蠢いていた。 「おめでとうございます!」「おめでとうございます!」  と、ちゃんと祝の声が聞こえる。  漆黒は魔物や獣達に信頼されているらしい。  しっかりした王様なのだなと関心した。 「手を振ってくれ」  そう言われて手を振る。 「今日は我の結婚式に集まって頂き感謝する。今日、我はこの者、裏柳を妻とする」  そう宣言する漆黒に拍手が巻き起こるのであった。  漆黒は裏柳に誓いのキスを贈り、指にリングを嵌める。  裏柳は言われた通りに「はい」と言って頷くだけだ。  式は直ぐに終わった。  最後に集まった獣達に手を振る漆黒。裏柳も一緒に手を振っていた。  その時である。  裏柳を目掛けて何かが飛んで来た。  大きな鳥である。  鳥が裏柳の腕を掴む。 「裏柳! この馬鹿でデカい鳥め!!」  直ぐに反撃しようとする漆黒に「止めろ!」と止めたのは裏柳である。 「怯えるな。何もしない。誰に操られている? 言えない? おいで大丈夫だ」  裏柳が話しかけると、鳥は落ち着いて裏柳を離し、側に降り立つと大人しくなる。 「動物を操れるのか?」  裏柳の様子に驚く漆黒。  動物と会話できる者は魔法使いにも多くはない。魔法ではなく特質の様なものなので才能である。 「操ったりしない。少し話せるだけだ。誰かに俺を襲うよう言われたらしい。酷く怯えているから助けてやってくれ」 「うむ、解った」  漆黒は直ぐに鳥を保護し、集まった魔物や獣達には解散を言い渡すと、裏柳を連れて城の中に引っ込むのだった。

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