朝陽に目を覚ます。裏柳は起き上がってあたりを見渡した。 　だが、漆黒は既に起きしまったのか姿はもう無い。 　行ってらっしゃいも言えなかった。 　そもそも漆黒とセックスするんだと意気込んで酒を勧めたと言うのに自分が先に酔って寝てしまうなんて最低である。 　やらかした。 　それにしても何故尿意を催さないのだろう。 　漆黒も朝の小水は毎日飲みたいと言っていた気がしたが。 　まさか勝手に直接飲んで行ったのだろうか。 　そう言えばあまりに切羽詰まって漆黒の口の中に直接出すなんて言うとんでもない悪夢を見たが、まさか…… 　俺、すごいやらかしたんじゃない。 　ヤバい、漆黒は怒っているかも。 　裏柳が頭を押さえていると、朝食をワニが持ってきたらしく、テーブルに置いて早業で消えて行った。 　取り敢えず朝食にしよう。 　裏柳はテーブルの前に腰掛ける。 　ハムエッグだ。 「またセックスしなかったんですか！」 「いい加減セックスしてください」 　今日も今日とて家臣にわーわー言われる漆黒。 「煩いなセックスセックスと、そんな事より昨日の続きだ」 　漆黒は話を聞くために足早に部屋を出る。 「そんな事ではありません。裏柳様とする気が無いのなら別のΩを拐って来て下さい」 「そもそも裏柳様ですが、Ωとしての役目を果たせるのでしょうか」 　羊とワニが漆黒の後を追いつつ説教を続けた。 　虎は今日も裏柳のお守りである。 「俺と裏柳の問題だお前らは口出しするな」 　しつこい羊とワニに漆黒はイライラしていた。 「いえ、王が子孫を残せないとなると世界の問題です」 「自分の立場を理解してください」 　羊とワニもイライラしている様子だ。 「解っている。兎に角、今は件の犯人探しが先だろう」 　一旦この問題は後にし、ひとつのひとつ片付けるべきだろう。優先すべきは犯人探しだと思う漆黒。 「いいえ、お子様の問題が先です。裏柳様を正妻に据えると言うなら解りますが、孕ませるΩを早急に連れてきて下さい」 　だが家臣の最優先事項は子供の件らしい。　 「煩いな。今から件の事情聴取をすると言っているだろう」 「このままですと暴動が起きかねません。兎に角、今夜裏柳様とセックスしないのでしたら裏柳様を白の王国に返して来て下さい」 「何だと！　誰に物を言っている。それは俺が決める事だ。差し出がましいぞ」 「私は王の事を考えて申しております」 「煩い、下がれ」 　漆黒は羊とワニを怒鳴り付けると一人で先を急いでしまう。 　あまりにもピリピリした状態でこれ以上話しても仕方ないと羊とワニは漆黒の怒りが冷めるのを待つことにした。 　護衛は他の者をへ任せて虎と合流し、話し合う事にするのだった。 「漆黒様にも困ったものだ。俺も裏柳様の護衛ではなく王の護衛だと言うのに……」 　二人の話しを聞き、虎も困ってしまう。 「黒の王が一人の者に肩入れし、愛してしまうのはやはり問題ではないでしょうか」 「歴代の王とは少し毛色が違うお方だから。お優しく情に厚い。そんな所を我らは気に入ってお慕いしているのだが、こうなってしまうと困りものだ」 　ワニと羊は腕を組んで頭が悩ませる。 　王が妃にぞっこんで肩入れしすぎである。 　今までの王のように力づくと恐怖で捩じ伏せるだけではなく、優しさと温情で接する所に荒くれ者の多い魔物達も漆黒には心を開いている。今までは奴隷の様に扱われてた者も漆黒は平等に接していた。愛される王なのだ。だから長々Ωを捕まえて来ず、子供を作らなくても心配はしていたが、強く言う者は居なかった。 　王は誰か一人を愛していて、その者との子供しか欲しく無いのだと皆知っていたのだ。 　愛する一人を手に入れて子宝に恵まれたとしても直ぐ手放さなければいけない現実は可哀想であるが、皆王を愛しているから応援した。 　だが、そろそろ限界である。 　一番限界なのは王だ。 　小水だけで凌ぎ続けられる訳もなく、先が見えているのだ。 　せめてセックスして先に繋げてくれれば良いものを、裏柳が嫌がるのか解らないがセックスしてくれないし、まさか王が不能と言う事はあるまい。 　このまま弱って行くと解っていて放置出来なかった。　 　王が子供も作らずに弱るとなると、この世界が崩壊してしまう。 　もはや王だけの問題では無いのである。 　ここまで悠長に様子を伺っていた家来達もそろそろ暴動を起こしそうだ。 　漆黒に何か有り、世継ぎも居ないとなれば結界は壊れ、魔物や獣が赤青緑白の国を襲う。地獄絵図だ。 　狭い国土に結界で閉じ込められているのも嫌で有るが、王の人柄は良いし、今は不満等ない、それより世界戦争にでもなった方が問題であった。 　外の世界と内の世界が交わっても良いこと等１つもない。 　皆が不幸せになるだけである。　 　今、漆黒が世界の均等を守っているのである。 　少なくとも漆黒を崇拝する家臣達は皆そう思っているのだ。 「どうする？」 　さすがにこのままにしておく訳には行かないと、虎も思案する。 「裏柳様には申し訳ないが、森に捨ててくるしかないか」 　非情であるが、もうそうするしか手がない。 「そうだな裏柳様が居なくなれば漆黒様も他を見てくれるだろう」 　裏柳の事も三人は気に入っていた。良い妻で良かったと、だがセックスもしなければ子供を作れるかも怪しい妻で、王が他のΩを連れて来る気も無いとなると…… 「そうだな。そうするしかないか」 　漆黒を思う家臣達は心を鬼にした。 　漆黒に気づかれ、処罰されるならばそれはそれで仕方ない。 　自分達の犠牲で世界が守れるならば。 　三人はそう思い、団結するのだった。