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第16話
城に戻ると直ぐに灰男の事情聴取に取り掛かり、他の者に灰男の住居の調査に向かわせた。
代々の漆黒別に写真で埋め尽くされた部屋が有る等と報告を受け、気持ち悪い事この上ない。
動物達は裏柳のおかげで全員逃げた様なので、もう焼き捨てさせる事にした。
灰男も漆黒と同じ様に襲名制らしく、代々漆黒の運命だと思い続けて来た様である。漆黒は代々白の国からΩを攫って来ては孕ませて来たわけで、同国の、しかも魔物のΩ等相手しない。運命なのに見つけてくれないと勝手に憎悪を溜め込み、件の事件を起こしていた様である。
仕事が無くなったら自分を見てくれると思い込んでいたらしい。
やはり外の国に獣をけしかけていたのは灰男の一族らしく、本当に迷惑な事この上ない。
だがこれで暫くは落ち着くだろう。
良かった。
漆黒は肩の荷が少し降りるのであった。
一段落ついた漆黒は裏柳と虎と、羊、ワニを連れて裏柳の部屋に向かう。
コイツらの始末は裏柳に委ねる事にした。
「お疲れ様」
部屋に入ってきた漆黒に立ち上がる裏柳。ソファーに座って少しうとうとしてしまっていた。
「裏柳も疲れただろう。ほら、お前ら裏柳に謝るんだ」
虎と羊、ワニは申し訳なさそうに裏柳を見ると土下座して謝る。
「裏柳様、申し訳ありませんでした」
「私達が間違っていました」
「良くご無事で」
そう涙目で何度も頭を下げるものだから床に頭がゴンゴンぶつかって痛そうである。
「まぁ、まぁ、止めて下さい。私も悪かったのですから皆さんが心配するのも解ります。頭を上げて下さい」
必死に謝られ、裏柳も何だか申し訳なくなり膝をついて三人の背中を優しく擦る。怒って無い事を伝えた。
「甘いぞ裏柳、コイツらはお前を殺そうとしたんだ。主君である俺にも背いた行為である。許せん! 始末はどうする? お前の気の済むやりかたで構わない。釜茹でか? 鞭打ちか? 解雇するか?」
腕組みをした漆黒は、直ぐに許してしまう裏柳に信じられないと腹を立てる。
因みに釜茹でも鞭打ちも軽いお仕置き程度であるので、一番重いのは解雇だ。
「お前の事を思っての事だ。俺的には一番悪いのはお前だぞ漆黒」
キッと漆黒を睨む裏柳。
「えっ!? 俺か!?」
何で!?
思いも寄らないとばっちりであり、驚く漆黒はアタフタしてしまう。
「もとはと言えばお前が俺に何も話してくれないのが悪いんだ。国中にバリアを張ったり魔物や獣を見張るのに気を休める暇も無く魔力を使わなければいけないから、補充の為にセックスさせてくれと、ちゃんと言ってくれたら良かったのに。そもそもお前が直ぐ俺を犯せば良かったんだ! 何だ? 俺には魅力が無いからその気にならないのか? だったら白の王国に還らせて頂きます!」
早口で巻く仕立てる様に言う裏柳は腕組みし、プイッと漆黒から顔を背けてしまった。
急に『実家に帰らせて頂きます!』みたいな事を言われ、漆黒はあたふたとオロオロしてしまう。
「まってくれ裏柳。俺はそんなつもりじゃなくて裏柳が大事だから、そんな事実を伝えて事務的なセックスなんてしたく無かったんだ」
「はぁ? 子づくりの為に娶ったのだろう。それなのにセックスしたくないってどういう事だ。そもそもお前にとって子作りは大事な事で今すぐにも子供を作らなければならない状況の様だし、俺では役不足だろう。白の王国に帰らせて頂きます」
「セックスしたくない訳ではなくて、だからその、あの、だから」
「何なんだよ! お前は俺をどうしたいんだ!! 俺はお前のお人形じゃないんだ!!」
オロオロして宥めようとする漆黒に、裏柳の怒りは増幅し、止まらなくなってしまった様で、声も大きくなる。
「そんな風に思ってない。愛してるんだ裏柳」
落ち着かせようと手を伸ばす漆黒。その手を振払う裏柳は涙目であった。
「番にだってしてくれない癖に!!」
そう泣き叫ぶ。
「俺だって番にしたいさ! 出来ないんだよ!!」
漆黒もつい怒鳴りつけてしまう。
「落ち着いて下さい二人とも」
「一体どうしたと言うのですか?」
ただならぬ状況に呆然と見ていた羊とワニがハッとして二人の間に割って入る。
「この匂い……」
虎が何かに気付いた。
「裏柳様は発情期ではありませんか?」
鈴蘭の様な清楚で可憐な香りが鼻を掠める。
「え?」
「え?」
ハッとして漆黒は裏柳から距離を取る。
確かにこの鼻を掠める匂いは。Ωの発情期の匂い。
「これ、俺、発情してるのか?」
Ωとしてまともに発情した事のない裏柳は初めての感覚に戸惑う。何だか体が熱くて、ドキドキして、無償に腹が立つ。
「恐らく、灰男の発情期に引っ張られたのでしょう。兎に角一旦部屋を出ますよ。裏柳様は王に残る灰男の移り香が気に食わないのでしょう。風呂に入って来て下さい」
そう指示を出す虎。
「裏柳様にはΩである私が付き添いましょう。ワニは鹿を呼んできてください」
漆黒は虎と羊に言われるがまま、二人を連れて外に出る。
ワニは鹿を呼びに走った。
外に出ると少し気分が落ち着く。
どうやら自分も裏柳の発情に当てられ、気付かず興奮していたらしい。
そんな事より羊のやつΩだったのか。知らなかった。
そんなどうでもいい事を考えつつ、頭を冷やす。
漆黒は虎に引っ張られ風呂に向かうのだった。
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