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第17話

 冷たいシャワーを浴びた漆黒は焦る気持ちを落ち着かせる。  瞬間移動出来れば良かったのだが、まだ薬の効果が消えていないので走るしかない。  城内に不穏な動きも無ければ件の犯人も捕まえたので、暫くは安全だろう。それに仕事も落ちつくだろうから、俺の部屋に裏柳を連れ込んでは駄目だろうか。公私混同と怒られてしまうだろうか。漆黒は頭を抱える。    裏柳の部屋に辿り着き、呼吸を落ち着かせてから部屋に入る。 「王」  裏柳の様子を見に来た鹿が出迎えてくれた。 「様子はどうだ?」 「問題有りません。存分に子作りに励んで下さい」 「ああ……」  問題無いなら良かったが、まだ話の途中であったし、裏柳にその気が無いならセックスも子づくりもする気は無いのだが…… 「漆黒、漆黒……」  名前を呼ばれて近づく、ベッドに横たわる裏柳は苦しそうにシーツを掴み涙目である。漆黒を見つけてホッとした様に手を伸ばした。  鈴蘭の香りが濃く、漆黒はクラクラしてしまう。 「抑制薬はどうした?」 「飲ませるのですか? 子作りはどうするのです?」 「今はまだその時ではない」  ネグリジェで乱れる裏柳はセクシーでエッチで堪らない。誰だ裏柳にネグリジェを着せた奴は。羊か! 余計な事を。しかもフラミンゴめ、新作を作ってくれたらしい。メイド風の可愛いやつだ。俺が裏柳のメイド姿が可愛かったともらしたのを聞いていた様だ。  漆黒は早く薬を出せと手を出して鹿を睨みつける。 「その時では無いとは? 失礼ですが裏柳様はΩとしての機能に乏しい様ですし、この機を逃してしまうと次の発情がいつになるか解りません。発情している今でも妊娠出来るのか定かでは有りませんし……」  鹿はあくまでも漆黒に子作りをして貰いたいようだ。鹿としては、そもそも子作りする為に連れて来たΩに何を言っているのだろうと腑に落ちない。そもそも何故こんな出来損ないのΩにしたのか。甚だ疑問である。 「良いから抑制薬を飲ませてやれ!」  イライラし、声を荒げる漆黒。 「王の命令とて聞けません」  あくまで王の為を思い、反撃する鹿。そもそも使う予定のない物で、用意も無い。 「なんだと!」  どいつもこいつも!!  漆黒は思わず地団駄を踏み、鹿を睨み続ける。  鹿はこれ以上話しをしても仕方ないと無視し、逃げる様に部屋を出て行ってしまった。  もう全員、鞭打ちにしてやる!   そう漆黒は心に決めた。 「漆黒、漆黒」  裏柳は必死に漆黒の名前を呼び、抱きついてくる。  鹿を追いかけて薬を貰わなければと思うものの、こんな状況の裏柳を振り払えない。 「う、裏柳。駄目だ。裏柳、これは不可抗力で。その、ちゃんと話を……」 「漆黒とセックスしたい。漆黒の赤ちゃん欲しい。ねぇ、噛んで」  何処から出るのか、火事場の馬鹿力なのか、裏柳は割と力がある様で、漆黒を引き寄せベッドに押し倒し、馬乗りになってしまう。 「駄目だ。そんな事は出来ない」 「漆黒は俺が嫌いなのか?」  肩を掴んで押し返す漆黒に、目を潤ませ見つめて来る裏柳。 「嫌いな訳がない! 愛している」  ずっとお前だけを想っていたのだ。毎日夢に見た。会いたかった。やっと会えたのに……  こんな運命しか無いのか。  漆黒は悲しく、辛い。  裏柳が自分を求めてくれるのは嬉しいが、発情したΩはαを求めるものである。相手が俺で無くても関係無いのだ。  そう思うと虚しく、胸が苦しい。  ただただ辛いだけでだ。 「……ごめんなさい。漆黒。泣かないで」  裏柳の手で涙を拭われ、自分が泣いてしまっている事に気付いた。 「俺は漆黒が好きだ。お前も俺を愛していると言う。なのに何故抱いてくれないんだ? 俺がこんなに辛いのに、お前は何故俺を番にしてくれない」  肩を落として項垂れてしまう裏柳。  それも発情したΩだからのセリフである。  悲しいのに自分の下半身は痛いほど反応している。俯いた裏柳もそれに気付いて手で擦った。 「下半身はこんなにも反応しているのに……」  そう寂しそうに呟くのだ。  裏柳の発情に当てられ、漆黒もだんだん上手く考えられなくなってきた。  ただ目の前のΩを孕ませたい、そんな乱暴な感情を抱く。  だが孕ませてしまったら白の国に帰さなければいけない。  そう長くは一緒に居られない事は解っている。問題も先送りには出来ない。   どうしたって裏柳とはずっと一緒に居られないのだ。  無理矢理にでも裏柳を孕ませて国に返すか、他のΩを攫って来て孕ませるか、どうするかまだ答えは出ていない。いや、答えが出ること等ないのかもしれない。  裏柳に無体を働くぐらいならば、他のΩには悪いが攫って来て孕ませる他無いのかも知れない。  今、裏柳を抱いてどうなるのだ。  裏柳を抱いた所で裏柳は孕ませられないかもしれない。そもそも裏柳はΩとしての能力に乏しいから発情していても苦痛を与えてしまうかも知れない。  そして正気に戻ったら酷く傷つくだろう。  裏柳を傷つけた上に孕ませられない可能性があるのに抱いてどうする。  子供が出来たら国に帰さなければいけないし、最悪の悪手でしかない。  そうは思うものの本能には逆らえなかった。  気付けば裏柳を押し倒し、その可愛らしく熱い唇に己の浅ましい唇を押し付け、艶めかしい舌にむしゃぶりついていた。

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