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第32話
裏柳が目を覚ましたのはお昼過ぎであった。
疲労感が凄く、まだ体が怠い。
「俺の卵は……」
暖めなきゃ!
そう思って周りを見渡すが産んだ卵は何処にも無い。
「卵……」
裏柳は重い体を起こし、ベッドの下等も確かめたが何処にも無かった。
俺の卵は何処に行ってしまったんだ。
裏柳は不安になる。
早く暖めないと死んでしまう。
俺と漆黒の赤ちゃんが死んじゃう!
「裏柳!?」
部屋に戻って来た漆黒は、ベッドから降りて座り込んでしまっている裏柳を見つけ、駆け寄った。
「どうかしたのか?」
そう膝をついて声をかける。
顔を上げた裏柳は涙目であった。
「漆黒。俺の卵は?」
「卵ならこれだ」
「これ……」
美味しそうなオムレツである。
「朝食にしようかと思ったんだが、昼になってしまったな。食べられそうか?」
「俺の卵……」
オムレツになっちゃった。
裏柳はショックで倒れそうになる。
「おっと」
倒れかけた裏柳を支える漆黒。
まだ疲れが癒えて無いのだろう。そう思ってベッドに寝かせた。
「大丈夫か?」
そう声をかけ、額に手を当てる。熱は無さそうだ。
だが裏柳はポロポロ泣き出してしまう。
「俺の卵…… 全部死んじゃったの?」
か細い声でそう呟いた。
「……全部、無精卵だったんだ。鳥族になっていた裏柳と俺とでは着床しなかったのだろう」
深く考えずに勝手に料理にしてしまったが、裏柳はショックを受けてしまった様だ。漆黒は申し訳ない気持ちになる。
「全部?」
あんなに沢山産んだのに。全部駄目だったのか。
沢山産んだから一つぐらいは奇跡が起きて出来てるんじゃないかと期待してしまったのかも知れない。
裏柳にはショックが大きかった。
「俺達の卵は孵らないけれど、美味しいく食べられる」
漆黒は裏柳の頭を撫でる。
自分が元に戻るのがもう少し遅かったら、もしかしたら卵は有精卵になっていたかも知れない。
そう思うと漆黒もなんだか悲しくなるが、もしもの事を考えても仕方ない。
それに有精卵を産めたとして、こそから産まれてくる物が何になるか解らない。
しょせん薬で化けただけである。まともな物が産まれて来るとは思えなかった。
もしそうなっていたら、裏柳は余計にショックを受けていただろう。
だから結果的には良かったのだと、漆黒は考える。
裏柳も漆黒の言葉に小さく頷くと、漆黒が持ってきてくれたオムレツを手に取った。
上手に産んであげられなくてごめんね。
せめてもの供養だ。
そう思いながら大事に食べた。
オムレツはすごく美味しかった。
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