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第38話
無事に追手を振り払いバリアを抜ける事が出来た虎。バリアを抜けると漆黒の髪の色は黒に戻り、瞳の色も赤へと変化した。
荒かった息や熱も引く。薬への耐久性も元に戻った様だ。
だが疲れた体は直ぐに回復しない様でぐったりしてしまっていた。
「漆黒様」
そう虎が声をかけ、様子を伺う。
「ああ、一旦城へ戻る……」
内心は直ぐに裏柳を連れ戻しに行きたかったが、今の体力的に無理である。
体制を立てなおす必要があった。
それに虎が通った為に弱くなってしまったバリアの補強も必要である。
バリアは取り敢えず応急処置程度の補強をし、漆黒は虎を連れて城へと瞬間移動する。
部屋に着くと、虎にベッドに寝かされた。
冷蔵庫に残されていた裏柳の寝起きの小水に気づき、飲むと少し元気が出た。
よし、裏柳を連れ戻しに行こう!
と、なってしまう漆黒であるが、まだ休養が必要だ。
漆黒が出ていかない様にと、部屋に魔法阻害をされ、閉じ込められてしまった。
だが白の王国とは違い、漆黒が元気ならば破れる程の阻害である。これが破れないとなると白の王国に乗り込むのは危険過ぎると言うことだった。
それにしても、牢から助けられたと思ったが、また牢に入れた気分であった。
白亜によって捕らえられた裏柳は自分の部屋に連れて行かれ、色々質問攻めになってた。
「いままで何処に行っていたのか」
「何をしていたのか」
「誰と一緒だったのか」
「何故、牢屋に忍び込んだのか」
何を聞かれても裏柳には解らなかった。
そもそも何故手荒な真似をされて部屋に連れて来られたのかも解らない。
まるで狐に摘まれた様であった。
漆黒達がバリアを抜けたと同時に白亜や追手達、応援部隊の記憶から漆黒と虎の記憶が消えた。それと同時に裏柳からも黒の王国の記憶が消えてしまったのだ。
その為、白亜達が牢屋に居た理由も解らなければ、なぜそこに神隠しにあった裏柳が現れたかも謎である。
裏柳に至っては、各国の王の花嫁を決めるパーティで白亜にプロポーズされ、ビックリした次の瞬間には、牢屋で何故か白亜に抱きしめられており、兵達に取り押さえられながら部屋に連れて来られたのだ。もう意味が解らなった。
何がどうなってこうなったんだ。
「まぁ、兎も角、裏柳が帰って来てくれて良かったよ。本当に…… 結婚式の予定を決めなくちゃね」
フフッと笑う白亜は、漆黒をベッドに寝かせると頬を撫でる。
「ああ……」
白亜は、他に結婚相手も決めずに神隠しにあっていたらしい自分をずっと探してくれていた様だ。
有り難い事である。
求められたならその者と番、子孫を残すのがこの国のΩの努め。
自分の様な中途半端なΩを選ぶのは白亜にとってリスクでしか無いが、それでも良いと言ってくれるのだ。
喜んで番にならなけらば……
そうは、思うが何故か嫌悪感しかない。
正直に言えば嫌だ。
自分が、Ωと言うよりはβよりの出来損ないだからそう思うのか、白亜とは兄弟の様に育った幼馴染だからそうな風に思ってしまうのか解らないが、兎に角、嫌なもんは嫌である。
これが生理的に無理と言うやつだろうか。
それにしても、何かモヤモヤする。
何か大事な事を忘れている気がするのだ。
何だろう。
胸にぽっかり穴が空いたような、言い知れぬ不安感を覚える。
何かを探して手を伸ばすが、霧しか掴めない。そんな感じがする。
何だか怖い。
きっと自分は疲れているのだ。
だからこんな言い知れぬ不安感に襲われているのだろう。
裏柳はこのまま寝てしまう事にして、目を閉じる。
睡眠を取ればきっと落ち着く筈だ。
白亜との結婚も快く受けいれられる筈。
大丈夫。大丈夫。
そう自分で自分に言い聞かせ、安心させようと心がける裏柳だった。
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