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第40話
「え? 誰だ?」
そう問われた漆黒は固まってしまった。
どう見ても結婚式の真っ最中であるし、裏柳は知らない人を見る顔である。
記憶が…… 消えてしまった。
察した漆黒はどうしたら良いのか解らなくなってしまった。
自分を忘れ、白亜と結婚しようとしている裏柳。裏柳の幸せを願うなら、このまま白亜と結婚させてやるべきかもしれない。そう思ってしまったのだ。
連れて帰っても、裏柳との子供は望めない。裏柳が妊娠してしまったら手放さなければならない。その葛藤の中関係を続けても、自分も辛いだけでは無いかと。
一瞬固まってしまった間に、白亜が剣を抜く。
「貴様! 裏柳から手を離せ!!」
そう言って斬りかかってくるのを紙一重でかわした。
「……っ」
兵士達が駆け寄って来るのが見える。
駄目だ。裏柳は連れて行けない。
ならば……
漆黒は視線を動かす。
来賓客の中からΩを一人選び、手を掴むと直ぐに瞬間移動する。
捕まえたΩは悲鳴を上げる暇も無かった。
漆黒は涙を飲む。
裏柳には幸せになって欲しかった。
捕まえて来たΩを小部屋に閉じ込める。
犯すだけなので、ベッドしかない部屋である。
閉じ込められたΩは「イヤァァーー出してーー」と泣き喚いていた。咄嗟にでも繁殖能力の高いΩを選んだ漆黒。良く見ずに掴んだが多分、雌だろう。タイプでも無いし、抱けそうにない。モノが立ちそうに無かった。
裏柳を迎えに行ったはずの漆黒が、見知らぬΩを連れ去って来た上に、部屋に閉じ込めるだけ閉じ込め、自分も自室に閉じこもってしまった。羊達はもう意味が解らない。
どう言う事だと問い詰めたいが、漆黒は意気消沈しており、誰も話しかけて来るなオーラを放っている。
ペットの烏だけが近づいて、パサパサ飛び回り、ツンツン突っついたりしていた。
「そう怒るな。お前も裏柳を気に入っていたからな連れて帰れなくて悪かった」
そう烏に謝る。
だが、裏柳は本来結婚する相手だった男と無事に結婚出来るのだ。
白亜は白の王国の王である。幸せにしてくれるはずだ。
裏柳は自分が出来損ないのΩであり、妊娠も出来やないかも知れないと恐れていたが、妊娠出来るならばΩの本能としても妊娠したい筈なのである。
ここに置いておくならば避妊させなければならないし、万が一妊娠してしまったらと漆黒は常に不安だっただろう。妊娠させて貰えない裏柳は常に不満を抱える事になる。
裏柳が居ると言うのに他のΩを孕ませる為に抱くと言うのも、やはり気が進まないだろうし、裏柳にも嫌な思いをさせてしまう。
どっち道、何処かで破綻してしまっていた。
そんな薄氷の様な脆い関係を続けても、お互い幸せになれる筈は無かったのだ。
これで良かった。
それで良かったんだ。
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